どうやら主人公のようですが
長月
第1話 主人公になったようです
「勇者ユーキ様! 魔王を倒しましたぞ!」
俺の周りは歓喜の声が上がっている。隣でうっとりと微笑む聖女アリアに、俺は目配せをする。すると、しなだれかかるように俺に体を預けてきた。
「よくやったわ、ユーキ」
「そんな、みんなのおかげだよ」
「ふふ、ほんと謙虚なんだから」
頬に柔らかなキス。ヒューヒューと周りが囃し立てる。俺は鼻を擦るくらいしかできない。きっとこれがクライマックスってやつだ。アニメで見たことがある、最終回の大団円。
数百の兵士に、少数精鋭の信頼できる仲間たち。古びた広間の天井には大きな穴が空いていて、そこから太陽の光が差し込んだ。埃が光に照らされて、キラキラ輝いている。
ギルドメンバーを見てみる。盾士のジョーダンも自慢の筋肉を周りに見せびらかして、笑っている。弓使いのリーシアも、照れくさそうに帽子を直していた。魔術師のギルは眼鏡を取って、目頭を押さえていた。古びた城は今にも崩れそうであったが、それはきっとこの歓声のせいだ。
俺はこの光景を知りすぎている。
軍の指揮官であるレオン大佐が俺の隣にやってくる。
「勇者ユーキ様に、最敬礼!」
数百の兵士たちが俺に剣を捧げる。整列があまりにも美しくて、俺は、グッと胸が詰まってしまった。聞こえる、エンディング曲が。今絶対スタッフクレジットが流れている。
でもそんなものは聞こえないし、見えない。確かに俺はここで生きていて、魔王討伐という偉業を成し遂げたのである。
魔王の玉座に項垂れて座る魔王の骸を一瞥する。さらさらと砂のように消えていく。魔族は肉体がマナとなって霧散すると、文献で読んだことがあったが、それがきっと行われているのだろう。もう、全てが終わったのだ。そう、全て。
さあ、あとは王都にかえるだけだ。きっと王様も王妃様も喜んでくれる。凱旋パレードでもすることになるだろう。この数百の兵を連れて、馬に乗って、王宮への大通りを通っていくことになる。きっと国民たちが列をなして、俺の姿を見にくるのだろう。紙吹雪やら花が舞い、天気は快晴で、そこはキラキラしているのだろう。
わかる、俺にはわかる。絶対にそうなる。
なんなら、レオン大佐が今の時点で言っている。「電報をうて、凱旋パレードの準備だ!」って。
絶対統括範囲違うのに、さも決定事項のように言っているし、多分決定事項だ。
俺は、アリアの肩をグッと抱き締める。ようやく、魔王と人類の長きにわたる戦争が、俺の手で持って止まったのだ。その実感を得たくて、生きているか確かめたくて、アリアの体温をたどる。アリアは、困ったように俺の頭を撫でた。
「ようやく眠れるわね」
「どうして寝れないと……?」
「あなたのことはなんでもお見通しなの」
金色の髪がふわりと揺れる。ベールから覗くその神々しさは、あまりにも美しくて、絶対に誰の手にも渡らせないと決意する。フンスフンスと鼻息が出てしまい、「何?」と笑われてしまった。蒼い双眸に映りたくて、でも避けたくて、焦ったくなる。
ギルドを結成した時のことを思い出す。初めて会ったアリアはすごく弱くて、俺が守らないと、スライムでさえも、倒せなかった。でも、今は極大ヒールとか、精神苦痛耐性とか、すごく難しい術も難なくこなして、ギルドメンバーの体を守ってくれた。ジョーダンも荒くれ者で、信用を得るまでに時間がかかった。リーシアは俺の命を狙っていて、でも改心してくれた。ギルはよくわからないけど、最初から最後まで俺のそばでその天才的な頭脳で参謀役をしてくれた。
そう、ここまで乗り越えられたのは、ギルドメンバーがいたからだし、アリアがいたからだ。感謝しかないのだ。
俺は、喜びを噛み締める。
ようやく、終わったのだ。この戦いが。ほっとした。もう、大丈夫だ。
でも、おかしかった。
そう、明らかにおかしかった。
俺にしては、物事がうまく回りすぎている。自分に都合よく動いていて、何も障壁がない。
おかしい、こんなはずではなかったと思う。
俺の知っている俺は、冴えない高校生で、何をやるにもやる気がなくて、何に挑戦しても全然ダメな奴だったはずだ。あの頃は、挑戦そのものが難しくて、すぐに飽きて嫌になっていたのだ。異世界系のアニメばかり見て、いつか自分が何者かになれることを信じていたのだ。最終回の大団円を見て、それが自分の人生にも訪れればいいと、ありもしないその願いを胸に収めていたのだ。ハーレムものを見ては、こんなことあるかよと親友の雅史と鼻で笑い、それでもまじまじと真剣に見ていたのだ。
それが、異世界転生して、チート能力を手に入れて、女の子から馬鹿みたいにモテて、トラブルが自分の思うように解決して、最後には魔王まで倒している。
俺は、きっと何かの作品の主人公になったとしか、思えない。
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