第19話 紫血

「逃げ場が無くなったなぁ!」


ヴァンの言う通り周囲を千棘に覆われたことでレインは退路を絶たれ苦い顔をする。


しかしレインはキッと睨みつけるように左右に素早く視線を走らせ確信する。


いや、まだ道筋はある!


血棘の一本一本の間、その僅かな隙間にレインは正気を見出す。


このルートであれば刃は・・・届く!


ズガァン


持ち前のスピードを活かし地面を抉るほどの凄まじい踏み込みで疾走する。


だがヴァンに動揺する余地は無いなぜなら・・・


「残念だがまだまだストックはあるぜ!」


ヴァンは笑いながら幾つも癇癪玉を取り出しレインに向かって投げつける。


「ホラホラホラ」


《「ハイ、パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン」》


ヴァンが手を叩くのに合わせて癇癪玉が破裂する。


レインは苦い顔をしつつも更に塞がれていく道筋を猛スピードで駆け抜けていく。


針に糸を通すような精密な動きで、無数にある血棘の間を縫うように躱しながらヴァンに肉薄する。


「嘘だろ!まだ来んのかよ!?」


遂にレインはヴァンの目と鼻の先にまで迫る。・・・と、同時に居合の構えを取り深く屈み込む。


「マジか!」


目を見開き驚いたヴァンは一歩後退る。


その一瞬の隙を、レインは見逃さなかった。


捉えた!


一閃


鞘から抜き放たれた刀は美しい軌道を描き、吸い込まれるようにヴァンの首へと迫りそのまま斬り落とす―――かに見えた。


が、刀が鞘から抜き放たれたその瞬間、ヴァンの口角が不敵に吊り上がるのをレインは見逃さなかった。


しまった!


レインの意志とは裏腹に振り抜かれた刀は迷いなくヴァンの喉を捉え弧を描く。


差し迫る刃が遅遅ちちに感じ、世界が色褪せ永遠かに思える程濃密な瞬間じかん


それは突如として終わりを告げる。


ヴァンの肩口から血液が高速で渦巻いたかと思うと血は二本の腕の形を成し、大きく振りかぶる。


ゴッ


鈍い音がしたかと思うと血腕はレインの頭を殴りつける。


ズガァン


壁面に強かに叩きつけられレインは呻き声を上げる。


「ぐっ、う..」


やられた...あの男、最初からあの位置に私を誘導するためにわざと針の間に隙間を・・・体制を崩したのも私に攻撃を決断させるためのブラフ...。


「立場が逆転したなぁ!!」


そう言いながらヴァンは自身の腕と生やした血腕、計四丁の拳銃をレイン目掛けて一斉に照準を合わせた。


・・・が、しかしそこにレインの姿は無かった。


「ちっ、どこ隠れやがった。」


ヴァンが苛立ちながら辺りを見渡し始めたそのとき、不意にそよ風がなびいたかと思うと、なにか白く輝るモノが視界の端でチラついていることに気がつく。


それは陽光に照らされ木漏れ日のように幾つも光の軌跡を残している。


「なんだ、雪?...いや違う!!」


ヴァンは即座に飛び退いてその場から離脱する。


「ッぶねぇ!!」


ヴァンが今まで立っていた"そこ"は粉微塵の更地と化していた。


「アレ全部斬撃かよ!」


そう、吹雪を想起させるソレは超高速で刀を振るうことにより生み出された刀の残像が、断片的に光を反射する事により作り出された斬撃そのものであった。


ヴァンは警戒レベルを再度引きあげ周囲を見渡すがレインの姿は無い。


「チッ、アイツどこ居やがる...」


「!!!」


再度ヴァンは視界の端で斬撃の雪を捉える。


物陰に隠れるヴァンであったが建物ごと木端微塵に斬り伏せられる。


「ッ〜〜!!」


ヴァンの背中に升目ますめ状に細く切り傷ができる。


「クソッ、俺の背中は囲碁版じゃねぇぞ!!!」


そう言い捨てたのもつかの間、いつの間に現れたのかレインが眼前で刀を振り下ろす。


「はや!?」


ヴァンはなんとか血腕で振り下ろされた刀を受け止める。


しかし、レインの勢いは止まらず鍔でそのままヴァンを遥か上空へとかち上げる。


レインは更なる追撃を加えようとその場で強く踏み込み上空のヴァンの後を追う。


まるで一本の槍かのように刀を上に向け身体事ヴァンに向け飛び込んでいく。


ヴァンは自由落下しながら迫り来るレインを見てボヤく。


あ〜クソ、使うしかねぇか・・・中途半端な色で使いたくはなかったんだが、


ヴァンは覚悟を決めるように一度目を閉じカッと見開く。


すると傷口から出血する血が止まり、色が紫紺むらさきに変化していく。


「トリガー・・・オ」


「そこまで!!」


二人よりもさらに上空からカインの声がしたかと思うと、ヴァンとレインは頭をカインに鷲掴みにされ地面に叩きつけられる。


「ッてぇな!」


「~~~ッ」


突然地面に叩きつけられ二人は顔を歪める。


「あ〜おしっこ漏れるかと思った。」


カインの背後から場にそぐわない間の抜けた声がした。


カインの首にはディーンがしがみついていた。

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