彼女の話

 本当ならしょっぱなから和樹と他愛ない話に花を咲かせたいところなのだけれど、今のこの状況では声帯を震わせることすら躊躇われる、緊迫した状態だった。というのも、この10分の女子禁制な男子の園に、あの女子が踏み荒らしているからだ。

 あの女子。

 川澄千鳥さんが、立ち入っていた。


川澄「君たち、最近楽しそうじゃない? あたしも混ぜてよ」


隆太「楽しい? そうですか?」


川澄「うん楽しそうだった、何だっけ? 公園で寝転がったら蟻に耳噛まれたって話だっけ?」


和樹「そうなんですよ、椅子って人間のもののはずなのに、わらわらと歩いてくるんですよね。マジで怖かったですもん」


隆太「だから、それが全然楽しくない話なんだってば。そりゃ公園なんだから椅子に蟻いるだろうよ」


川澄「でも公園みたいな開放的空間で寝転ぶのっていいわね、私もしてみたいかも」


隆太「食いつくんだ。……まぁ、確かに開放的ではある、か。木陰とかならありかもしれないな」


川澄「私は日が照ってもありだけどね、太陽光が瞼貫通して真っ赤になるの結構好きなんだよね」


隆太「あっははは、ですよね(思ったよりヤバいのが出てきたな……)」


和樹「あーやるやる! 毛細血管の血が真っ赤になるよね」


川澄「そうそう! やっぱり人間が真に何も見なくするって、失明しかないんだなって思わされるわ」


隆太「川澄さんも、そういうアウトドアなこと好きなんですね、意外だな、もっとオシャレとか今時の女子高生って感じが好きだと思ってましたよ」


川澄「そういうのも好きよ? 何? 私のことなんだと思ってんの?」


隆太「いや、ほら、オシャレな感じ? カッコいいと言いますか――」


川澄「いや、私の話はいいのよ、君たちの話を傍から聞いてみたいなーって思っただけだから。ほら、私に気を遣わずに話してみてよ」


隆太(いやいや、人に見られて何を話せっていうんだよ、気まずくて何も口から出て来ねぇ。ああ、あと3分くらいで英語じゃん)


和樹「んー、英語って難しくない? なんで人間って別の言語で話してるんだろうね、合わせれば楽なのに」


川澄「そういうの!」


隆太「(気にすんなとか言っておいてうるせぇ)まぁ、バベルの塔の話がよく出されるな、人が結託して神に挑むためにバベルの塔を作って、それに起こった神が塔ぶっ壊して、二度と塔を作れないようにするために、言語をバラバラにしたのだとか」


和樹「いや、人間殺せばいいのに、措置が中途半端過ぎるでしょ」


川澄「確かに過ぎる……和樹君面白……クツクツ」


隆太「(確か和樹って、川澄さんに気がある感じだった気が。どうにか親友としてくっつけてやりたいが)まぁ人間が考えた後付け設定だからな。それも神が少しの優しさを見せたとか、そういう後付け設定されてんじゃねーの?」


川澄「ほほう、隆太君は結構リアリスティックな考え方をするんだねぇ」


隆太「まぁな、伝説とか宗教なんてそんなもんだろ。だが和樹の方が結構リアリスティックだぜ? 色んな物事に疑問視して、それを追求しようとしているからな」


和樹「え、そういうところあったかな」


川澄「へえ~! 凄いね! そういう考え方カッコいい!」


隆太「(よし、和樹の会話に興味があったということは、そういう知的な話をする人が好みということ。これはもっと押せばいけるか?)だろ? なら今度お昼ごはん――」


ガタイの大きな男「おーい千鳥、次実験室だろ、早く行くぞー」


川澄「あ! ダーリン! 待ってて今すぐ行くから~! じゃ、またね~」


隆太「……」


和樹「……」


 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

 

隆太「(魔性過ぎる……)」

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