第7話

 「長過ぎでしょ!」と怒って走って行った白石さんを見届け、私も夏菜に謝罪の連絡を入れてから教室に向かった。


 昼休み、帰ってくるのが遅かったことを謝罪しながら帰宅している。

「三十分もトイレに籠って何してたの?」

「普通にお腹痛くてなかなか出られなかったの」

 本当に?そんな目をしながらこちらを見ていた。


「そうだ!今日は遊びに行って良い?」良い提案でしょ!という顔をしてこちらを向くが、この後白石さんを知り尽くためのを受けなきゃならない。


「ごめん!明日にね?明日なら大丈夫だから」

「えー予定?」

「そうなんだ……ちょっとね」

「何の予定?」

「それは……薬を買いに行くの」

「薬?」

「そう、最近お腹の調子が悪いから」

 

 幸い昼休みでの嘘が、今ついた嘘を補強して説得力を持たせられたのか納得した様子で「じゃあ、明日絶対だよ」と言ってくれた。


 正直さっきまで何も思い付いて無かったけど、良くやった私の脳!




 

 ソファーの前にあるテレビ上の時計塔を見ると五時をまわっていた。


 もうすぐ着くと連絡が来てから十分経っていた。


 ピンポンとインターホンが鳴り画面を確認する。ちゃんと来たようで、不機嫌そうにインターホン前に立っている姿が画面に映っている。


「遅かったね」ドアを開けて家にあげる。

「普通でしょ」相変わらず不機嫌そうに返してきた。


 昨日と同じように自室にまで案内する。

 今回は紅茶やお菓子を用意しに行かず自室に白石さんを入れた後、ドア閉めて彼女の前に立ち目線を合わせる。


「何?」と目線を逸らそうとするが逸らせられないようで困惑している様子だ。

 

 学校で掛けた暗示が少し残っているのか、授業中の睡魔に耐えようとしているように、目をしょぼしょぼさせて、頭をガクンガクンさせている。


 この姿も可愛くて面白いな……そんなことを思いながらも、さっさと落とすために彼女の肩に手を乗せて揺らす。


 ある程度暗示をかけ直し、新しい暗示を掛ける。

ベッドの上で横にして

「目を覚ますと寝転んだ状態から起き上がることができなくなりますよ」と二回繰り返し言って肩を揺らした。

 

「え……」状況が理解できないといった様子で、白石さんのお腹の上に馬乗りになっている私を見つめている。


「何してるの?退いてよ」

「白石さんの手が私の頭に触れられたら良いよ」

勿論触れさせるつもりは無い。

 

「ほら手が動かないでしょ?」

 両手を一瞬だけ塞いで手を離す。

「ちょっと催眠術掛けないでよ!」

と言いながら必死になって手を動かそうとしている。

「それじゃおやすみ」

「待って」と何か言ってる途中で肩を揺らして落とす。


 今度から催眠状態にしやすいように落とし方を変えることにした。


 今その落とし方を白石さんの体に教え込んでいる。


「昨日もこのチョコだったけど、この家には他にお菓子は無いの?」

 紅茶を飲みながらクレームをつける白石さんに

「何か食べたいお菓子あるの?」

 白石さんの頬に手を添えて顔をこちらに向けさせる。私に目を合わせた後、「あっ」と声を漏らして何も喋らなくなる。


 口を半開きにさせて、目は焦点が合っているように見えず、どこか遠くを見ていた。


 心臓の鼓動が早くなるのを感じる。今、私は白石さんを支配している。


 目の前に写る彼女の姿が私にそう錯覚させる。


 厳密には支配している訳ではないと、理性では理解していても、やはりそう感じてしまう。


 深呼吸して胸の高鳴りを抑え「落ちて」と誘導を続ける。


 力無く頭をカクンとさせて腕がダランと下がる。


 その姿を見て思わず唾を飲み込んでいた。




 それから何度か他愛ない会話と質問をしながら、落としては覚まして、落としては覚ましてを繰り返した。


 いつの間にか二時間は経っていたようで、スマホを見ると七時を過ぎていた。


 遊び過ぎたなと思い、最後に一つ暗示を掛けて家に返した。



 十時をまわり、お風呂から上がって、もう寝ようかと思っていた時にスマホの通知から夏菜から電話のコールが来ていた。


 正直、今すぐに寝たいが、今日は誘いを断ってしまった罪悪感から電話に出てしまった。


「寝れないんだけど~」

と開口一番に呟いてきた。

「知らないし今から寝るところなんだけど」

「えー冷たいー」

「目ー瞑ってれば寝れるでしょ」

 と適当に返しながらスマホに充電器を挿してベッドに座る。目の前に置いてあった催眠療法を読みながら相槌を打つ。


「ねー眠くなってきた?」

と夏菜が聞いてきたので

「いーや夏菜は?」

「目覚めちゃった」

と笑いながら答える。


「寝かしつけてあげようか?」

冗談で言ったのだが夏菜はノリノリで

「してくれるの?」

と言ってきた。

「まあ、そうだね」

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