第6話
学校に着くと朝礼が始まろうと皆が自分の席に座り始めていた。
私は早歩きで、席に向かう、ついでに白石さんの席を通り、白石さんにだけ聞こえる声量で「今日も頼むよ、お姫様」と昨日聞いた彼女の''言われて好きなセリフ,,の一つを囁いた。
驚いたように目をまんまるとさせ、頬が紅潮したように見えたが気にせず、そのまま自分の席に着いて朝礼が始まるまで図書館で借りた本を読むことにした。
四限の体育が終わり昼休みになり、今は夏菜と昼御飯を食べている。
この学校に給食は無いので普通は弁当を持ってくるなり食堂に行くなりするのだが、私はほぼ一人暮らしの癖に弁当を作れないし、人の多い食堂でご飯を食べるのも躊躇う陰キャなので、購買でいつも昼御飯を済ましている。
二つの校舎を結ぶ円形の広場にあるベンチで食事をとっていて、一階から伸びる樹木が私達の居る二階の中央を貫通するようにあり、向かい側が見えるようになっている……
だから向かい側に居る白石さんが見えるのだけど……いつもここでご飯を食べたりしないのに今日は私達の居る広場で食べているようだ。
私はメロンパンを食べ終え、スマホの画面を開く。
黒く細い線で描かれたクマが手招きするスタンプを送り、白石さんの顔を確認する。
しばらくスマホに目線が向いたあと、こちらに視線が向けられた。
ちゃんと伝わったと信じ、夏菜にトイレへ行くと伝えてその場を離れた。
ついてきているか後ろを気にしながら廊下を歩く。ちゃんと後ろから歩いてきている白石さんを確認しながら一階に降りて人気の無いトイレの前で振り返る。
「来てくれるんだ」
「まあね」
「今日も催眠術に掛かってね」
「はあ?質問に答えるのが条件でしょ」
いかにも不満そうな顔をしているが私は微笑みながら「家じゃなくて今ね」
「え、嫌なんだけど」
「本当に嫌?」
「嫌だよ」
「そっかーでももう暗示は掛けちゃったんだよね」
「え、嘘でしょ」
勿論嘘で、今掛けている最中だ。
「どんな暗示を掛けられているか気になるでしょ?」
「そりゃそうでしょ、一体……」
彼女の言葉を遮り「どんな暗示を掛けられているか、気になれば気になるほど私の暗示を受け入れていくよ」
「ちょっとそれ……」
また言葉を遮り「ほら記憶の中から探さないと……私の目を見て……記憶の中からどんな暗示を掛けられたか探さなきゃ」
すると彼女の目線が泳ぎ、私の目を見ないようにしている。
両手を彼女の肩に置き目線を合わせる。驚いたようで、うっかり私の目を見てしまったらしい。このチャンスを見逃さず「見ちゃったね。もう目が離せないでしょ?大丈夫私の目を見ていると凄く落ち着くから」彼女が思考して反論する前に言葉を畳み掛ける。
「ちょっと……」
「大丈夫、何も考える必要はないよ……だって私の目を見ていると全身から力が抜けて安心できるもの」
肩に乗せていた両手を首の付け根まで移動させ、鼓動する動脈を確認して、中指で軽く押す。
「ほら私の目を見ていると瞼も重くなってくるよ……私が五からゼロまで数えると落ちるよ……」
「五……四……落ちたくて仕方ないよね?でもちゃんと目を合わせるよ……三……二……我慢我慢だよ……一……ゼロ、落ちて良いよ」
白石さんは目を閉じて腕がだらんと下がって、今にも倒れそうな様子だ。
そのまま女子トイレの中にまで連れていき、ドアを閉めてロックを掛ける。
「私が肩を揺らすと目を覚ますよ。けどもう一度肩を揺らされると落ちるから」そう言って肩を揺らす。
回りを見渡して違和感を感じているようだ。
「ねえ私達いつ一緒のトイレに入ったの?」
それには答えずに肩を揺らす。
「次に目を覚ますと、ここは白石さん家のトイレだということを思い出します。ここは白石さんのトイレですよ」
肩を揺らして起こす「何でトイレに居るのよ……」と驚いた様子でこちらに話し掛けてきた。
もう一度肩を揺らす。
「次に目を覚ますと白石さんは手と足が縛られて動けません……そして大声も出すことができません」そう繰り返し暗示を掛けながら便座の蓋を閉めて座らせる。
肩を揺らして起こす。
「ちょっと!何で縛られてるの!」
今度は声質が震え、私を見る目が心なしかキツくなっている。
もっと色んな表情を見たい……
肩を揺らし、次の暗示を考えていると予鈴のチャイムが鳴ってしまった。
ここまで催眠を深化させたのに覚ますのは勿体ない……けど授業は受けるべきだし彼女に迷惑をかけるのは良くない。
ちょっとした暗示を入れて廊下まで連れていった所で目を覚まさせた。
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