夢想家のよまいごと
石衣くもん
それが大人になるということ
ある時から、上手く空想することができなくなった。悲しい出来事、美しい風景、理不尽への怒り。どれも空想を通して物語にすることなんて、私にとっては容易いことだった。
空想をする時に何が必要なのかなんて、この時もわかっていなかったが、それが枯渇することなんて思いもよらなかった。
どうしてそれがなくなっていくのか、そして、何がなくなっているのか。どちらもはっきりわからないまま、私は自分が空っぽに近付いていくのを黙って待つしかない。
空っぽになっていく自分を止められない。
それが心底恐ろしくて、必死で言葉を紡ごうとして、また、少し空っぽに近付いたことを自覚する。
そうして、自覚はもう一つ。以前の私が悲かった出来事、美しいと思った風景、理不尽だと憤った怒り、どれも同じように感じなくなった。
あんなに悲しいと思った歌詞も、美しいと思った夕暮れの空も、何も感じない。理不尽な扱いをする上司に対する感情も、怒りではなく諦めに変わった。
どうして。
日々を一生懸命生きていたつもりが、確実に何かを磨耗して、消費して、美しさより現実を選んだ。少しずつ、少しずつ、選ばれた現実が、空想のための何かを枯渇させた。
きっともう、戻らない、けれどまだ微かに残るその何かが朽ち果てて空っぽになるまで、私は言葉を紡いでいきたい。
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