正体不明のさみしさを抱えて

「あいたい」

 

 指を四回動かしてすぐに送れるメッセージを、かれこれ数十回、打ち込んで消して、打ち込んで消して。

 

 例えばそれは、布団の中に入って自分の足が冷たいと感じた時とか。およそ綺麗とは言えない曇り空に、ぼやけて欠けた月をみつけた時とか。

 

 どうしてか、胸が締め付けられて、恐らく眉が下がっている。そんな時、貴方に会いたくなる。会って自分ではないものに自分の存在を確かめて欲しくなる。

 それでも、打ち込んだ「あいたい」が貴方に届くのは、ごく稀だ。

 

「さみしい」

 

 声に出すと、そこに虚しさもプラスされる。正確にいうと、さみしいではないのかもしれない。冷えて、痛くて、飢えて、息苦しい。

 それでも、やっぱり「あいたい」と伝えられない。貴方に会ったって、このさみしさが埋まるのか、わからない。


 でも、忘れることはできる。貴方に会っている間、この正体不明のさみしさを感じたことはない。自分の足が冷たいと思ったことも、月を気にしたことだって、ない。

 会っている間は、このさみしさは成を潜めて、そして安心して別れた後、襲ってくるのだ。

 

 その反動が恐ろしくて、会いたくても会えない、会いたくない。

 

「おやすみ」

 

 貴方からのメッセージに、本当は「まだ寝ないで」と返したい。だって、まだ眠れない。足の指先が凍ってるみたいに冷たい。その冷たさに気が付いてしまっているの。

 

「おやすみなさい」

 

 送って、そして目を閉じる。目蓋を閉じたら頬に冷たい感触が。感傷的なのはいつもじゃない。それでも、今日は駄目。

 正体不明のさみしさが、冷たい足先から上って、私を飲み込んだ。

 

 窓の外から、バイクの走る音が聞こえる。貴方はバイクになんか乗らない。そんなこと、百も承知なのに、夢想する。


 このさみしさを取り除くため、貴方がやって来てくれないか、そんな都合のいい妄想を。そうしたら、不思議なことに足先の冷たさは和らぐのだ。もう少しで眠りにつける。

 

 今日も私は、ひとりで正体不明のさみしさを寝かしつけて、涙染み込むしとねで一人寝を決め込むのだ。

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