声がでなくなってしまえたら
あるから、いけない。
初めからなければ、望まないのに。
大きい声が、私の口を塞ぐ。
「あんたの『辛い』は、辛いうちに入らない」
そんなはずは、なかったのに。
確かにちっぽけで、些細なことでも。
それでも、やっぱり私は辛かった。
あの時、辛いと言いたかった。
言葉を飲み込んだだけなのに、
喉が焼けるように熱くて、痛くて。
泣いている時みたいだった。
そのうち、声を出さなくなった。
それが、重く身体にのし掛かった。
出せなくなったんじゃなくって、
出さなくなった。
出せるものを出さないのは、辛いのだ。
「言いたいことがあるなら、言いなさい」
そう言われても、今まで誰も許さなかった。
他人も自分も、私に発言権を与えなかった。
そんな私に、今更、何を言えと。
大きい声が、私の本当を奪う。
「悲劇のヒロイン気取ってんじゃないわよ」
何も言わないことを責められて。
愈、私はバランスを取れなくなった。
あれを言っちゃいけない。
これは言わないでいちゃいけない。
あれは本当でも口にしちゃいけない。
これは嘘でも言葉にしなきゃいけない。
口にしているのは、誰かに従った都合のいい嘘。
心の片隅にもない拾った誰かの言葉。
この声は、言葉は、私のものだったはずなのに。
いっそ、声がでなくなってしまえたら。
声があるから、いけない。
初めからなければ、発言なんて望まないのに。
私は、嘘の言葉を言わなくて済むのに。
それは、本当の言葉を一生言えなくなることと
どちらが辛いのか。
私は、まだ、声が出るからわからない。
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