010

それからパロマとムドは、チルドの恋人がいると思われる飲み屋――パブリック・ハウス、略称パブへと向かっていた。


アンプリファイア・シティの周辺は、大気汚染の影響なのか、一年中曇りか雨という気候だ。


そのため、昼間でも薄暗く、夜になっても、街並みはあまり代わり映えしない。


石畳の道にレンガの建物が並び、それとは不釣り合いなネオンサインと配線を見て、ムドがぼやく。


「にしても、陰気な街だよなぁ。ずっとジメジメしてるし、住んでるヤツは真っ黒な服ばっかだし」


この街ではナイトクラブで踊ることが流行っていて、陽が昇ろうが関係なくネオンが道を照らしている。


そのけばけばしい照明とゴシックなダンスミュージックが流行というのもあって、子供から老人まで皆サイバーゴスなファッションに身を包んでいた。


元々派手好きではあるのだが、どうもムドはこの街の雰囲気が好きになれないようだ。


ぼやくムドを無視して、パロマは前を進んでいく。


後を追うムドは気にせずに話を続けていたが、彼女が何か返事をすることはなかった。


そして、人混みをかき分け、目的地であるパブへと辿り着く。


その、周りの建物と同じけばけばしい外装を見て、パロマもムドも顔をしかめていた。


ムドがそのしかめっ面で訊く。


「なあ、オレら未成年だけど、夜に飲み屋に入っていいのか?」


「おかしなところで常識人だな、お前は」


「だってこれは仕事じゃなくて、プライベートだろ? なんか問題になったりしたらメンドーじゃん」


才能の追跡官アビリティトレーサーに、特に班員の私たちにプライベートなどない。自分の置かれている立場を忘れたのか?」


「でも、今はプライベートみたいなもんだろ?」


「だってとかでもとかうるさい。いいから入るぞ」


パロマは渋るムドにそう言うと、パブの店内へと足を踏み入れた。


ただ一瞥するだけの無愛想な店員と、バーカウンターに並ぶ酒瓶が彼女を迎える。


店内の客はまだらだったが、それなりに活気はありそうだ。


「ここもデカダンス·レイヴァーだらけだな」


パロマが小声で呟いた。


デカダンス·レイヴァーとは、店の外にもいたサイバーゴスな格好をしている者たちのことだ。


その生活は、主にパブで酒を飲むか、ナイトクラブへ通っているかというものである。


アンプリファイア·シティにある四つの地域内で、特にパロマたちがいるマーシャル地区に多く見られる。


「あぁ、マジで入っちゃったよ。ブラッド班長に怒られても知らねぇぞ……」


ムドがパロマに続いて入り、店内を見渡す。


店内には、テーブルや椅子などは木で作られたものがあり、主に立ち飲み用のものが置かれていた。


正直中は汚く、活気があるわりには掃除もろくにしていなさそうだった。


清潔好きなパロマからすると、この衛生意識は今すぐクレームを入れたい。


それ以上に彼女を苛立たせたのは、凄まじい音量で流れている音楽だ。


ドッドッドッとバスドラムが一定のリズムを刻み、そのグルーヴのうえに退廃的なメロディーとダークなサウンドが乗る。


まるで踊りながら悪魔を呼び出す儀式のような音楽だ。


パロマは不快感を隠さない顔をしながら、バーテンダーへと声をかける。


「すまない。少々訊ねたいことがあるのだが」

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