009

――その一方で外へと向かったパロマは、ブラッドのチルドへと尋問で得た情報――。


黄色頭の男に恋人がいるという話を知り、思い当たるところへと向かっていた。


電子ドラッグは一人でも最高の快楽を得られる。


だが、恋人との性行為をするときに使用すれば、さらに深い快楽を感じられる。


違法薬物が性的な場面で、強い快感を与えてくれるというのは大昔からだ。


特に女性の場合、まつげを触られるだけでも気持ちいいと感じてしまうようになり、性行為中に感じ過ぎて呼吸困難になるほどと言われている。


パロマは自国であるストリング王国にいたときから、連合国管轄の軍隊や警察に入ろうとした。


そのため、この手の知識は学習済みだった。


(恋人がいるなら十中八九その女もヤク中だ。チルドの女にいろいろと吐かせて、薬の元締めを捕まえればいい)


歩きながらそう考えていたパロマ。


そんな彼女を呼び止めようと、男の声が聞こえてくる。


「お~い、待てよパロマ」


薄紫の髪色をした長身の少年――ムド·アトモスフィアだ。


パロマは彼のことに気が付いたが、無視して歩を進めていく。


「だから待てって。まったく相変わらず耳がわりぃな」


横に並んだムドを見てパロマは思う。


耳が悪いのではない。


どうでもいいことは無視していたのだと。


「何しに来た?」


「そして、変わらず冷てぇな……。いや、これから捜査に行くんだろ? だったら相棒として一緒に行かなきゃって思ってよ」


「いつからお前が私の相棒になったんだ?」


「まあ、そこは気にすんな」


ムドの態度に、パロマはフンッと鼻を鳴らす。


だが、彼女はこう考えた。


そうだ。


こいつを手駒にしてやろう。


こんな奴でも特殊能力者。


何かしらの役には立つ。


使えなかったら使えなかったらで、盾にでも壁にでもすればいい。


幸い、何を勘違いしているか知らんが、自分に懐いているようだ。


体よく利用してやろう。


「では、協力してもらうぞ」


「おう、任せろ。次こそは良いとこ見せるぜ」


「ああ、そいつは助かる」


パロマはまるで期待しているかのように答えたが。


その内心では、言葉の意味が違っていた。


扱いやすくて助かる――。


彼女はそう思っていた。


パロマにそう思われてるとも知らずに、ムドのほうは嬉しそうしている。


「よし、じゃあ気合いも入ったことだし、メシでも行こうぜ」


「どういう理屈だ? 気合いが入ったのなら、むしろ早く仕事がしたくなるものだろう」


「細かいことは気にすんな。リズムが見つけた良い店があんだよ。早く行こうぜ」


「私は行かない」


「メシを食わねば仕事はできぬって言うだろ?」


「行かない。それと、そのことわざは間違っているぞ。正確には腹が減っては戦はできぬだ」


「似たようなもんだろ?」


「……」


「あッ! 待てよパロマ!」


やはりこの男とは合わない――。


パロマはそう思いながら足早に歩く。


いや、ムドだけではない。


班長のブラッドも、サボり魔のシヴィルも合わない。


(極めつけはリズムだ……。血塗れの聖女だがなんだか言われているが。あの偽善者が、上の人間の評価が高いのは気に食わん)


そう思いながら、パロマの表情はさらに強張っていった。


再び横に並んだムドが、何を怒っているのかと訊ねると、彼女は言う。


「いいから、少し黙れ」


その冷たい声を聞いたムドは、まるで氷の国へ裸で放り出されたような寒気に襲われた。

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