第9話 夢の先は分岐点

えっ?

ここは?


凌太と彼女の家ではない・・・


どこ?


気をうしなっているうちに

私、ここに運ばれたの?


キョロキョロする


見覚えのある景色

でも

どうして?


一度しか行ったことがない

あの喫茶店


目の前には

あの頃の凌太


「菜々美、疲れちゃった?」


凌太はこちらに微笑む


「今日は朝から歩きっぱなしだったからね」


あの日

あの時の服


袖を指先まで伸ばして

ホットミルクを両手に抱える凌太


夢でも見ているのだろうか?


”人って死ぬ前に

自分の人生の走馬灯を見るってよく言うけど

そんなもんでもなさそう


私の場合

色々な事ではなく

この場面

人生の戻りたいターニングポイントをリプレイされている”


心の中で私は

そんな事を考えながら

夢の様な

この現実に辻褄をあわそうとする


普段なら

そんなファンタジーな人間ではない

どちらかというと

そう言ったたぐいの話は苦手


でも、今は

只々、目の前で微笑む

私に微笑む凌太がまた見ることができたことが

嬉しくて

簡単に受け入れた



これは・・・まさに

あの日だ


私は凌太の顔をじっと見つめる


「何だよ!!なんかついてる?」


凌太は顔を手で覆い隠す


「何でもないよ・・・」


そう言って

私は微笑んだ


喫茶店を出て

帰る・・・


「荷物・・・半分持つよ」


私が言うと

凌太は不思議なものでも見るような顔でこちらを見て


「なんか急にどうしたの?さっきから菜々美

変だよ」


彼は私の顔を覗き込む

ちょっと赤面


「別に・・・変じゃないよ」


少し照れる


「いや・・・変だよ

妙に優しい

それに

落ち着きがない!!

顔が赤い

耳まで赤い」


そりゃ、そうだよ

もう自分の気持ちが分かってしまった今となっては

凌太はただの幼馴染ではなく

私の意中の人なのだから

そんなにクリクリとした目で見つめてくるな!!

胸の高鳴りが止まらなくなる・・・


あっ

もうすぐだ


もうすぐ凌太は立ち止まる


私は一歩一歩あゆみを進めるにつれ

胸が高鳴る


凌太はやはり

私の家の近くで立ち止まった


「菜々美・・・ちょっといいかな?」


真剣な表情


どうしよう

心臓が口から出そう


私は少し

気持ちが悪かった


凌太のそんな真剣な顔

また見ることになるなんて・・・


凌太は荷物をベンチに置いて

こちらを見る


来る!


「あのさ

もうすぐ卒業だろ?」


来た!


そうだ

三月には

私たちは別々の学校に進学する

初めて

別れた道へ進むんだ


この日から

凌太とは会えなくなってしまったんだ・・・


「その前に

言っておきたいことがある」


来た!来た!


凌太は真剣な表情

私は

あの頃より緊張して私は聞く


「菜々美のことが好きだ」


そう言うと

顔を真っ赤にする凌太

その顔があまりに真剣で

可愛くて


”凌太・・・こんな表情して私に告白してくれてたんだ”


今更、その貴重な状況を目に焼き付ける

そして

私ははにかんでしまう


「それって・・・どういうリアクション?

あり?なし?」


凌太は不安そうな顔でこちらを見る

可愛い


「ごめん

嬉しくて」


凌太は思いがけない私の返しに

少し戸惑っているよう


そうだよね

私、この頃

凌太を子供っぽく茶化す様にからかってばかりで

こんな風に

素直になれたことなかったもんね


「嬉しいよ

有難う

あと・・・私も凌太の事

好きだよ」


そう言って

私は凌太に近寄りまた微笑んだ


「マジで!菜々美!!

やった~!!!!」


そう言って私に抱きつき

凌太は大喜びした


小さな頃から姉弟みたいに育った

私達はその日から変わっていく

これから恋人になる


”ごめんね”


私は心で呟く

今頃、将来の奥さんは

返事を待たされているんだろう

彼女には非はない

私がこの夢の中でだけでも

彼を奪う事には罪悪感があった


彼女は素敵な人だったから

凌太の事を本当に愛している

可愛い人で・・・


だけど

こうして

やり直せるのなら

私は私の気持ちを通す


私は自他ともに認める

ワガママな女なんだから・・・

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