26話 知った真実




 アタシの質問に、彼女らはあからさまな狼狽を見せつつ、首を横に振った。


「な、何のことだかサッパリだぜ。なぁ八代目?」 

「そっ、そのとーり。ウチらただの旅人なんで……」

「……八代目と、言っています」

「あっ!」


 あわあわと慌てて口を塞いでいるがもう遅い。


 それ以外の互いの呼び方を考えていなかったのか、トウマ様もサヤ様もこれよりも前に何度かボロを出している。


 ので、疑惑は確信に変わっていた。

 どういうわけなのか二人は肉体をホムンクルスに変えて、いまアタシの目の前で生きている。


 経緯は不明だが事実としてそうなっている。

 困惑する心を無理やり押さえつけながらアタシは玄関を塞いで、二人の前に立ちふさがった。


「……く、詳しく説明をしてください。とてもではないですが、アタシはいま冷静さを欠こうとしています。誤魔化されたら、このまま教会に連絡してしまうかも……」

「ぎゃー! わかった話す! ちょっと落ち着け、エレナ!」


 強めの脅しが功を奏したようで二人は諦めて肩を落とし、ぽつりぽつりと事情の説明を始めてくれた。



 曰く、タイガが四天王の一人を倒した。


 潜伏先を発見し約一週間後に強襲をかける予定だった指輪の骸骨が勇者墓地で逆に襲い掛かってきたため、返り討ちにしてやったと。


 名前は知らなかったがどうやらポコチ──い、いや、この名前本当か?


 そんなことあるのか。

 ……とりあえず彼女らが言うのならそうなのだと割り切るとして。


 その、ポコなんとかを倒した結果タイガは敵の指輪を入手し、使い方が分からず四苦八苦しているとその力によって偶然ホムンクルスが生まれた。


 結果的に亡霊の状態でこの世を彷徨っていたトウマ様たちが乗り移り現在に至る、とのことだった。


「……そう、ですか」


 後ずさり、全身から力が抜けていくのを感じる。


 知らなかった。

 異世界から召喚された人間がこの世界では死後も昇天することはなく、意識と魂を遺体のそばに拘束され続けるだなんて事実は、今この時をもって初めて知った情報だった。


 数年間二人はあの薄暗い墓地で時が止まったようにただ存在していた。

 いや、彼らだけでなくこの世界へ召喚されたタイガと九代目を除くすべての勇者がそうだったのだ。


 その心境を察することはこの世界の人間である自分には叶わない。

 彼らは一体どんな気持ちであの墓地の亡霊でい続けたのだろうか。


「四天王、が……」


 そして二人を葬った存在が、低級モンスターに化けていた四天王の一人だった事実も浮き上がり、混乱で思考が止まりかけてしまう。

 勇者たちの死因に気づかずただ冒険を続けていた自分はなんだったんだ──と。


「エレナちゃん、だいじょうぶ……?」


 少女の一人が寄り添おうと近づいたが、手を前に突き出して制止した。


「……そんなの、思わないじゃないですか」


 怪しい言葉遣いになっていることを自覚しながらも、感情がそのまま口から出てきて止まらない。


「二人とも、楽観的だったから亡くなられたんだって思ってたのに……」

「あ、あはは……」

「生きてる時のオレたちが如何に軽薄そうなヤツだったかがよく分かるセリフだな……」


 命がけの任務なのに二人とも異様に明るいし。

 

「トウマ様は事あるごとに頭を撫でてくるし、たまにこっそり着替えを覗きに来るし……」

「う゛っ──」


 少女が一人、膝をつく。


「サヤ様はスキンシップとはいえ距離が近いしアタシが口につけた水筒を欲しがるし、水浴びのときは『全身洗ってあげる』と言って迫ってくるし……」

「はうゥ゛ッ──」


 少女がもう一人、膝をついた。


「コソコソ……おい八代目なにしてんだよお前……!」

「だ、だって男の子も女の子もどっちも好きなんだもん……特にエレナちゃんかわいいし。ていうか六代目もヒトのこと言えなくない……?」


 それからもうひとつ。


「……あの、相変わらずみたいなのでこの際言わせていただきますが、冒険中も今現在も──アタシの胸を見過ぎです。お二人とも」


 バタバタ、と死んだように二人の少女が倒れ伏した。何やってるんだろう、この人たち……。

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