16話 勇者の墓場
アイリスやエレナの前でシリアスな雰囲気を醸し出した、その翌日。
彼女らへの合法的なセクハラ行為と並行して行うべき情報収集のため、俺は聖都郊外に位置する、暗い墓地に足を運んでいた。
ちょっとばかり大切なこの世界で生き抜くための情報収集──その名も突撃隣の亡霊さんである。
平たく言うと墓地にいる亡霊たちに死んだ時のことを聞いて、危険な相手や場所を事前に調べておこうという話だ。
勇者になってからの半年間で判明したことだが、この世界における魔物のほとんどはどうやら強い弱いに限らず”隠し玉”というものを持っている。
例えば以前闘ったスライム。
やつは弱そうな見た目と一見無害そうな立ち振る舞いをする魔物なのだが、その実態は相手が油断した隙をついて骨まで溶かす強酸性の唾液をぶっかけようとしてくる悪質なクソモンスターだ。ギリギリで躱したが自分で買ったお気に入りのカッコいい黒コートはダメにされた。
そう、勇者として前線に立つ以上少し慎重になり過ぎるくらいがちょうどいいのだ。
本当は血生臭い戦場のことなど考えるだけで疲れるので、ダラダラとやっていきたいお気持ちなのだがこればかりは致し方ない。
全てはおっぱいのためである。
「で、この先に亡霊がたくさんいるってこと?」
「まぁな。そういえば翔太郎はここに来るの初めてだったか」
「なんか来る前に『気をつけろよ』って言ってたけど、どういうことなんだい」
「……行けばわかるさ」
いつもの背後霊を引き連れてやってきたのは、辺鄙な場所にある割には手入れが行き届いた広い墓地だ。
そして、そこでは。
『シュウゥゥゥゥッ!!』
『ぐわぁ!? ク、クソっ、これで二対一か……ッ!』
『おいキーパー! ちゃんと止めろって!』
──亡霊たちによる、生首をボールにしたサッカーが、繰り広げられていた。
「……なにあれ」
「生首サッカーだけど」
「見りゃわかるって。そうじゃなくて、あぁなってる理由をだね」
「死んでるしどこにも行けなくて暇だから、サッカーして遊んでる」
「……頭が痛くなってきた」
初めてアレを見るとそうなるよな。
俺も最初は頭を抱えて、墓地への入場を踏みとどまったものだ。
──この地の名は、勇者墓地。
かつて聖導国家エドアールに勇者として召喚され、冒険の中でその命を散らした若者たちが埋葬される亡霊たちの遊び場である。
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