14話 魔法使いの思うところ


 彼は、ヒーローだった。


 十五歳の頃、生まれ育った故郷を魔物の軍団に滅ぼされた。


 あの日、両親を目の前で殺されたその時からアタシは復讐の炎でのみ生きていた──否、生き永らえていたのだろう。


 名のある大賢者の弟子入りを志願し死に物狂いで認めさせ、魔法を極めて聖都入りしたあと、アタシは勇者パーティなる部隊に配属された。


 近く召喚されるであろう異世界人の勇者を支え、強襲による敵側の主戦力を殲滅することが目的のチームだと聞いたが別にどうでもよかった。


 故郷を滅ぼしたあの巨大な竜を殺すことができればそれ以外のことは何でもよかった。


 彼は、寡黙だった。


 聖導国家エドアールはこれまで異世界召喚を何度もおこなっていたそうだが、それはいつも無残な結果に終わっていた。


 聖剣との適性値が高い年齢の少年少女を召喚しても、勇者の称号を与えられた彼ら彼女らは油断をする。


 驕り高ぶり”ちぃと”だなんだとのたまい、自分は強いと嘯き続ける。

 そしてつまらないところで躓き命を落とす。


 なぜか異世界の人間はこの世界に召喚されただけで自分はまるで物語の選ばれし主人公のような立場だと錯覚し、聖剣の強力な加護に酔ってしまうらしかった。


 だが、あの青年は違った。

 寡黙で冷静で現実を見ていた。

 それでいてどうしようもないほどに、アタシにとってのヒーローだったのだ。


 他の勇者たちとは違い彼は、タイガは、真の意味で勇者だった。


 どいつもこいつも『復讐は虚しいだけだ』とか『オレが支えになってやる』だとか、唾棄すべき綺麗事やできもしない約束ばかりする中で、彼は何も言わずただ行動で示して見せた。


 故郷を滅ぼした竜を追い詰め──アタシ自身の手で討伐させてくれた。

 フォローしなくてもいい弱い魔物から庇っただけで気安く撫でようとしてくる一人目の少年とも、ただ自分の力を誇示し続ける三人目の少女とも異なっていた。


 ただアタシの目的を理解しそれを支え、恩を着せるようなことも口にせず淡々と仲間として戦い続けてくれた。


 勇者とは、彼のことだ。

 勇ましく、優しく、強い者のことだ。

 ──けれど。


『──ああああぁぁぁァァッ゛!!!!』


 彼も人間だった。

 アタシはひどい勘違いをしていた。


 物語から出てきた舞台装置ではなく、タイガはタイガというひとりの人間だったのだ。

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