7話 ド級のアドリブ



 ──本当にヤバい。


 おっぱい揉みたいと喚き散らしていたところを目撃されていたとしたら、下手すればアイリス本人の手で紋章を起動されて抵抗できなくなりそのまま王城で斬首刑なんて流れも十分あり得る。


 ……というか、幽霊の翔太郎と話していたことがバレていたとしたら計画がすべて台無しだ。


 仮にすべてを聞かれていたとしたら、教会に仕えるアイリスからすれば世話してやっていた上司が実は自分を性的な目で見ていて、なおかつ魔王の討伐という大任も放棄して夜逃げしようとしているという認識になってしまう。いやまぁ事実としてそうなのだが。

 

 どうしたものか。

 泣いているところ見られていたとしたらクールキャラも瓦解してしまうではないか。

 クソ、もはやこれまでか──



『いいかい、間宮』



 ハッとした。

 先ほど翔太郎から貰ったヒントが脳裏によぎった。


 念には念を入れて彼本人はここから遠ざけて森の方へ逃がしたが、俺の心の中にはアイツの言葉が強く残っていたのだ。


『意味深に振る舞うんだ。まず何よりシリアスな雰囲気で同情を誘う。これだ。きみが彼女たちのデカすぎるおっぱいを揉むためには──まずここから始めるべきなんだ』


 そうだった。

 アイツは言っていた。


 シリアスな空気感を纏え、と。

 ウソも言い訳も見抜かれるのが怖いのなら、その設定の”想像”を相手に任せてしまえばいいのだ。


 偽りの真実を語るよりも相手に強い思い込みをさせる事こそがこの世界における攻略法だ。


 とはいえ俺たちの会話の全てを聞かれていたとしたら、そこにはゲームオーバーの文字しか残されない。

 そこんとこどうなんだい、聖女さん。


「アイリス、何故ここにいる」

「……申し訳ございません。余計な気遣いだとお思いになられるかもしれませんが、タイガ様が心配だったのです。聖都の宿より少し離れて尾行しておりました」


 意外なことに彼女は取り繕うことなく白状した。

 さすがは教会の懺悔室を任される地位にある少女といったところか、どうやら嘘でこの場を乗り切るつもりはないらしい。

 虚言と虚栄で逃げ道を作ろうとしている俺とはまるで正反対な光の存在である。まぶしい。


「……情けないところを見られてしまったな。失望しただろう」

「い、いえっ、そんな! ご友人を亡くされて平然としていられるはずなどありません……あれは人として当然の──ですから、失望などあり得ません……っ!」


 探りを入れるつもりで話してみたが、こちらの予想とは裏腹にアイリス本人はあまり余裕がなさそうだった。

 何を言うかは決まってないがとにかく声をかけてみたとかそんな雰囲気を感じる。

 

「どこまで聞いていた」

「それは……その。……タキガワ様に、懺悔を」

「……そうか」


 はい~!

 終わりました!

 翔太郎におっぱい揉みたいよぅと相談してるとこ、聞かれてました! 死んだ……。


 どうすんだこれ。

 本当に意味深ムーブだけで乗り切れるのかこの状況……!?

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