第33話 体育大会なんて来なけりゃいいのに・・・
体育大会。
それは赤組白組とかクラス対抗だとかで争う、恒例行事。
だいたいクラスで団結しようとか、優勝するぞとか息巻くのは陽キャ共や運動部ばかり。
友情? 団結? 勝利?
いいやちがう。これは才能の格差を明らかにする悪魔の儀式だ。
あるいはゲームが超絶うまいカリスマ実況者を見下すために作られた処刑場だ。
いわば運動のできない俺にとって体育大会とは――――――――運動音痴を嗤う会だ。
俺がこう思うようになったのは忘れもしない小学三年生の時――――、
「さっさとバンダナ結べよ!」
「ハイ、ワカリマシタ」
いつもの見慣れた夕暮れはマグマの如く、地獄の如く、とにかく禍々しい。さらに砂漠で足を繋がれるのだからやはりここは地獄なのかもしれない。
どちらにしろゲームする時間を減らす、放課後の体育大会の練習はクソだという事だ。
陽キャ共は部活をサボれるからって楽しんでいるし、なんかリア充は爆発させたくなるし、どいつもこいつも体育大会だからってウキウキしている。
「もしかして動物園なんじゃな――――」
「こんな緩かったら解けるでしょ」
「イッタイ!」
足がもげる。足がもげた。もげてなかった。
運動会あるある、二人三脚のバンダナきつ過ぎ。
勝手に解けるものならば、そのまま解けるべきだろ。無理やり繋ぎ止めるからきついんだ。
そもそも俺は二人三脚なんてでるつもりはない。
なぜなら本番は仮病になってゲームをしまくるからだ。
だからこんな練習に意味なんて――――――――、
「とりあえず走ってみるから――――――――って聞いてんの?」
茨田の艶めかしい身体が触れている。すべすべの魅惑的な脚、少し汗ばんで濡れた肩、横を向けば唇が潤っている。
これは触ってもいいではないのかと誤解したことにしたい劣情と、その後に罵られるところまで胸が躍ってくる。
いや、もしもそうなったとしても茨田が魅力的すぎたからとか、魔が差したとか、香水のせいだとか言えば大丈夫なのか。
ああ、ダメだ。抑えろ。
理性を保て、だが逆に言いたい。この状況で理性を保ったなら、それはそれで失礼ではないのか?
葛藤とは理性がゆえに存在して、ならばそれがなくなることこそが正しいのでは?
どちらにしろ俺は――――――――茨田に触りたい。はい。
「んん? じゃあいくから」
「オットテガスベッタ!」
偶然にも一歩目で派手に転倒。
俺は茨田に被さってその顔を美脚の終着点に――――――――あれ? 俺が下になってた。
その長く艶やかな髪が俺と茨田を二人きりにした。
湿っぽい息がぶつかり合い、その汗が俺の頬に滴る。目と目が離せず、互いに何も言わずに、その狭くも長い時間の中で―――――――――その目が閉じ、息が止まり、顔が近づいてくる。自然に。なるがままに。
「紗綾~どこにいんの~?」
寸前にしてギャルのうっとおしい声が邪魔をした。茨田はハッとして立ち上がる。
するとすぐにギャルがこっちに走ってきて騒ぎだした。何事もなかったように茨田は楽しく話している。
そうしてだんだんと茨田の香水の匂いが消え、周りの殺風景で広い砂と涼しい空気を思い出した。なんだか夢みたいだったな。
黄昏の空を仰ぎながら俺はしばらく座っていた。
茨田が練習するって言っても座っていた。
その後に天音が帰ろうと言っても座っていた。
「体育大会なんて永遠に来なければいいのに……」
「な、なんで?」
「ずっと二人三脚していたいから」
「意味わからないこと言ってないでそろそろ帰ろう? もうすっかり夜だよ!」
「離せ!!」
俺はようやく立った。立たされた。
まだ情熱は止んでいないのに、強引に天音に連行されたのだった。
~~~あとがき~~~
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