第46話

「あなたの規格外のような威力があったからこそ、すぐに消火できたとも思えます。容疑者の逮捕もスムーズに行えましたし、本当に感謝していますよ」


 無我夢中の魔法で、奇跡的に良い方向にも導いてくれたのは不幸中の幸いと思っておくことにしよう。

 ただ、今後魔法のコントロールや使いどころもしっかりと考えたうえで慎重に使うことにした。

 学園長やセドム先生、それから水びたしに巻きこまれた同級生たちには、今日はもう遅いから明日謝っておこう。


「そうだ! 陛下。ヴィーネはどうなるのですか?」

「モンブラー子爵家全員揃って、永久強制労働だな。本来ヴィーネは平民に格下げのうえ、罰金と警告だけだったのだが、学園での騒動を起こしてしまったからな。弁償も兼ねて過酷な労働の日々になるだろう」


 モンブラー家の人たちからは散々な目に遭っていた。

 私のことを殺そうとしてきた相手でもあるわけだし、同情する感情すら出てこない。

 私の本当の家族を見つけたいと思ってしまう。


「ところでだ。今日ソフィーナを早急に呼び出した理由が他にもある」

「はい。どのような件でしょうか」

「私にも一人心当たりがあってな。ソフィーナの父親かもしれぬと」

「え⁉︎」

「まぁ焦らず、落ち着きたまえ。彼の名はヴァーン。かつて王宮で騎士かつ魔導士を務めていた男だ」


 ここで国王陛下は残念そうな顔をしながらためいきを一度はいた。

 なにかよろしくない流れになりそうだが、私はそのまま黙って国王陛下の話を聞く。


「彼は本当に優秀だった。だが、ある日を境に急に王宮務めを辞めると言いだしたのだ。のちに分かったことだが、彼には平民の婚約者がいた。だが、その婚約者は貴族の者と不倫をしていたようでな。そのショックかもしれぬ」

「…………」


 なにも声に出なかった。

 まだ本当のお父様かどうか確証が持てないからというのもあるだろう。


 仮に、本当のお父様だとしても、二人の恋愛事情はなにも言うことができないと思う。

 辛い思いをしてきたのか、それともなにか別に急に辞める理由があったのかはわからない。

 ただひとつ言えることは、実際に会ってみて、本当のお父様かどうかを確認をしていみたいと思った。

 もしもそうだとしたら、色々と話してみたいと思う。

 私を産んでくれたお母様がどのような人で、本当に不倫をしてしまうような人なのかも知りたいのだ。


「すでに消息不明だったが、騎士と諜報員に捜索をかけていてな。居場所は把握した。会ってみて、レオルドの発明した血縁検査紙で判定してみるか?」

「はい。ありがとうございます」

「私としてもヴァーンが再び王宮に来るための理由ができて助かった。彼は今まで一度も私の呼び出しに応えてくれずに消息を絶ってしまったからな。だが、本当の娘がいるかもしれないと知ればもしかしたら……」


 国王陛下は、ヴァーンを王宮に呼び出してくれるそうだ。

 来てくれることを願いたい。


 ♢


 王宮の入り口でレオルド様が待ってくれていた。

 先に気がついたのは彼のほうで、私のところへ駆け寄ってくる。


「怪我していなくて良かったです……」

「ちょ……レオルド様⁉︎」


 レオルド様は、私をぎゅっと抱きしめながら涙を溢してしまった。


「申しわけありません! ソフィーナが危険な目にあっていることも知らず、呑気に授業を受けていました」

「授業を受けるのは当然ですから。それに、突然のことでしたしそばにいてくださったとしても、むしろ水浸しに……。あ! そういえば学園のほうは大丈夫でしたか?」


 なにしろ、後始末の掃除を始めようとしたタイミングで王宮に呼び出されてしまったのだ。

 怪我人はいなかったか、壊れてしまった備品はないか、色々と気になっている。

 レオルド様には、ハッキリと答えてもらいたく、真剣な視線を送る。


「ソフィーナが責任を負う必要はありませんよということを前提として……。一階は修繕が必要でしょう」

「やはり……」

「先に言っておきましょう。学園長からソフィーナに伝えるよう頼まれたことづけです。責任は一切考える必要はないと」


 その言葉に、いささか疑問は残るが、本当にみんな優しすぎだ。

 ますます将来レオルド様の物づくりを眺めながら応援しつつ、国の役に立てるような仕事で恩返しができたらなぁと思うようになった。


「責任問題云々よりも、ソフィーナが無事であったことが本当に良かった……。一緒にいられる時間は、決して離れないようにしますから!」

「ひゃい⁉︎」

「手は必ず繋いでおきましょう」


 むしろ離れないでほしい。

 普段よりもゆっくりとした歩行で家へと向かう。

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