第30話

「おい、結局魔力測定はどうだったんだよ?」

「あ……。すみません、ある程度の魔力がありましたので次席のままです」


 翌日、クラスの同級生から質問攻めを受けた。

 嘘はついていない。

 魔力がそこそこ計測されて、形状は次席として学園に通う。

 首席と同等の扱いを受けていることは黙っておくけれども。


 この質問攻めを嘲笑いながらやってきたのはヴィーネ義姉様だった。


「みなさん。彼女がかわいそうでしょう。そのくらいにしてあげなさいな」

「良いのかよ? 反則して受かったかもしれないんだぜ?」

「魔法学科に相応しくない魔力量だったら、すぐにボロが出ますよ。心配しなくても大丈夫ですよ。私が証明してあげますから。ソフィーナがいかに魔力がなさすぎてボロが出るところを」


 同級生たちがゲラゲラと笑い出した。

 私は、すでにクラス内で嫌われ者になってしまっていた。

 その発端はヴィーネ義姉様で、試験のときに魔力測定器をなんらかの方法で壊し、私の魔力が測定不能だと思い込ませたと言いふらしていたのだ。

 だが、たとえクラスに溶け込めなくても、私がやりたいことは別にある。

 魔法の知識をたくさん覚えて、レオルド様の役にたちたい。


 楽しい学園ライフという夢は難しいかもしれないが、贅沢は言っていられない。


「席につきなさい。今日は生活に欠かせない魔法の実践をしてもらう」


 トイレの水を流すための水魔法、夜に明かりを灯す光魔法のライト、火を起こして料理する炎魔法。

 どれもすでにレオルド様と一緒に住み始めてからは日常的にやっている。


「この魔法を覚えることによって、将来様々な家庭もしくは貴族邸から魔法の使用依頼が来る可能性がグンと上がる。諸君らのように気軽に魔法を何度も使える者は少ないからだ」


 レオルド様は、トイレで使う水魔法を一日一度が限界だと言っていた。しかも、魔法を使ったあとは魔力切れで倒れることもしばしばあるのだとか。

 だからこそ、レオルド様が作った魔力を貯めることができる魔力測定器が重宝していく気がする。


「実践の前に……。ソフィーナ君」

「はい」

「今まで生活魔法を使ったことは?」

「最近は毎日使っていますよ」


 普通に返答しただけだった。

 しかし、教室からどよめきの声が上がる。


「もう魔法使えるのかよあいつ」

「魔力が俺たちよりもないくせにか?」

「いや、どうせ口だけだろ。実際にやっていたとしても、水がコップ一杯分だけでトイレに流してんじゃね?」

「きったねーな。あいつの家はきっとくっせーぞ」


 とことん嫌われているのが良くわかった。特に男子たちから。

 女子からは特に騒がれることもなかった。

 それは、セドム先生にも聞こえるくらいの声量であったため、先生の顔色がおっかなくなっていく。


「まずは、ソフィーナ君に実践してもらおう」

「良いのですか?」

「あくまで生活で使っているような魔法をみんなに見せれば良い。むしろ見せてあげなさい。次席……の魔力をね」


 セドム先生がニヤリと微笑んだ。

 これに対して、同級生たちも騒ぎ立てた。


「良いぞ良いぞもっと言ってやれ」

「先生もソフィーナの魔力を疑ってんじゃん。あいつ、終わったな」

「美しいヴィーネ様の首席の座を脅かした罰だ。さっさとコップ一杯のちんけな水で魔力切れして倒れちまえ」


「静かにしたまえ!」


 セドム先生の怒声で教室が静かになる。

 こほんと咳払いをして、魔力測定器から供給されているライトのスイッチを切った。


「ますはライトからだ。やってみたまえ。くれぐれも壊さないようにな!」

「はい。では……」


 私は無言で天井に手を向けて魔力をほんの少しだけ流した。

 消えていた灯りが再び灯される。少しやらかしてしまったかな。さっきよりも明るくなってしまった。


「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」

 今度は全員が信じられないと言ったような表情をしながら私を見てきた。

 セドム先生も一緒に……。


「ソフィーナ君? 今、無言だったな……?」

「え、なにか失敗してしまいましたか?」

「こほん。ライトを魔法で明るくする際、詠唱が必要なのだが……。もちろん、水の具現化や炎もそうなのだよ」


 そう言われてみれば、魔法の本には詠唱がどうとか書いてあった。

 だが、初めて実践してみたとき、詠唱するまえに勝手にライトの魔法が発動してくれたし、トイレの水もいっぱい流れてくれた。

 詠唱がなくてもできるんだと思い込んで、それを当たりまえにして過ごしてしまったっけ……。


「おいおいどうなってんだよ。無言で魔法って使えんのか?」

「聞いたことねーよ。でも今のは明らかにあいつが放って灯りを灯したよな……?」

「魔力がほとんどない奴がこんなことできんのか?」

「み、水や炎も見ればわかんじゃね⁉︎」


 さっきまでの暴言とは少し違う反応のような気がした。

 むしろ、私に興味を示してくるような視線に変わっているような……。

 変わったと言えば、ヴィーネ義姉様の機嫌がどんどん悪くなっているような気がした。


「水魔法はここでは危険なのでな。全員でグラウンドに設置しているプールサイドへ向かう」

「せ、セドム先生……。トイレで実践すれば良いのでは……」

「ソフィーナ君。もしものときのためだよ……」

「は、はい……」


 どうやら、またやらかすのではないかと心配されているようだ。

 でも大丈夫!

 トイレで使う水魔法は日常的に使っているし、間違ってもプールいっぱいになるほどの水を具現化することはない。絶対にない。

 ここで先生からの信頼もしっかりともらおう。

 私は張り切っていた。 

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