第12話
「この金貨は二人で折半ですね」
「いえいえ、なにを言っているのですか! これはレオルド様の功績ですから」
レオルド様は大量の金貨を半分私に渡すなどと言いだした。
数えてみたが、巾着に入っていた金貨は全部で五十枚。
その半分だから、二十五枚を私に。
金貨が二枚あれば二人で一ヶ月を余裕で暮らせるくらいの価値があるため、一年以上の生活費をもらってしまうことになってしまう。
はっきり言って、私は応援していただけだしなにもしていない。
強いて言えばちょっとだけ魔力を注いだだけだ。
「私の妻になるのです。それに、何度も言いますが、ソフィーナがいなければエアコンを王宮でお披露目することもできなかった。一緒にいてくれたのですから二人で作ったも同然ですよ」
「なにか違う気がしますよ……」
「もしも納得できないのなら、その金貨は来年の学園費用としてとっといてください」
私は魔法学科を首席で入学できるようにこれからも頑張るつもりだ。
だが、確実に入れるわけではない。
保険として金貨を保管しておくという提案は大変ありがたかった。
「ありがとうございます……。レオルド様には本当に頭が上がりませんよ」
「それは私のセリフですからね。いつも応援してくれていて、本当に感謝していますから」
「金貨という保険があるからと言って、首席になる努力を怠るようなことは決してしませんから」
「はは。まぁソフィーナなら首席は間違いないと思いますけれどね。なにがあるか分かりませんし、念のためです。もちろん、私もこの金貨は首席になれなかった場合の予備で保管しておくつもりです」
理不尽なことが多いからな……。
私は今回はお言葉に甘え、金貨を受け取っておいた。
これで学園に関しては確実に通える。
「これで一緒に学園生活も送れますね」
「レオルド様のおかげです。今から楽しみになってきましたよ」
「はは。私も次こそ商品となりそうな物を作ってみせます」
レオルド様はブレない。
どんなに大金が入ってきても物を作り出すことに対して止まることがなさそうだ。
それだけ物を作ることが好きなのだろう。
私も、そんなレオルド様を見て応援するのが生きがいになっていた。
♢
金貨をいただいてから二週間が過ぎた。
学園の入学金や学費分を差し引いても少しだけお釣りがあったため、しばらくの生活費に充てることにする。
おかげで裕福ではないものの、不自由な生活ではなくなった。
最も、私の場合は毎日食事がまともに摂れるようになっただけで十分な生活に昇格しているが。
二人で食事をしている最中、レオルド様が思い出したように言ってきた。
「魔力を魔石に流したときの循環性を改良してみました」
「んっ?」
レオルド様が魔石を持ってニコニコしながら話しかけてきた。
しかし、私はどういう意味かわからず変な声が出てしまう。
「つまり、今までよりも少ない魔力量で沢山のエネルギーを放出できるようになったのですよ。ソフィーナのひとことで完成しました!」
「なにか言いましたっけ……?」
レオルド様との会話は、食事のときだけと言っても良い。
決して仲が悪いわけではない。
お互いにやりたいことがあるため、それぞれの部屋で集中しているだけだ。
私が興味本位でレオルド様が制作しているところを見学は毎日しているが、話しかけないようにしている。
レオルド様が真剣にやっているため、声をかけたら悪いと思っているからだ。
だからこそ、レオルド様の物づくりに心当たりがない。
「食事の最中に教えてくれたのですよ」
「全く心当たりがありません」
「はは。ともかく、これも共同作業で作ったということにして欲しいのです。ソフィーナの案がなければうまくいきませんでしたし」
ここ数日の会話を思い出してみるが、やはり心当たりがない。
おそらくレオルド様は、私のことを気遣って共同作業ということにこじつけようとしているような気がする。
だが、これはレオルド様が作っているものだ。
私まで製作者扱いにはなってはならない。
「レオルド様のお気遣いは嬉しいですが、製作に関してはレオルド様個人のものにしてほしいです」
「気遣い? いえいえ。ソフィーナも協力してくれていることには変わりないので」
「私は見学しているだけで満足ですし、レオルド様が評価されるべきことを私まで受けるわけにはいきませんから」
「謙虚すぎですよ……」
謙虚とかそういう問題ではない。
レオルド様の功績や実績を私までもが受けるわけにはいかない。
それだけ彼が一生懸命頑張っているのを毎日見てきているからだ。
なにもしていない私が評価をもらうわけにはいかなかった。
ところで魔石と言われて気になったことがある。
いつものように気軽に話しかけた。
「前に製作途中で行き詰まったと言っていた冷蔵庫ってありましたよね?」
「そうですね。あれはやはり無理があったようですね。想像だけで創造は厳しいです」
「エアコンのように、完成した魔石に冷風を送るようにできたら良いですよね」
レオルド様が物づくりの発想をして製作するのを見ていたら、私も想像だけはしゃべるようになった。
なにしろ、今まで物置小屋でなにもない場所で生活をしていた。
『こんなのがあれば良いのに』というものはいくらでも出てくる。
「ソフィーナのおかげで冷蔵庫が完成しそうです……」
「はい?」
雑談だけで完成するわけがないでしょう。
またそうやってレオルド様は私のことを甘やかし二人の製作にしようとしてくる……。
私も負けじとなにかを作ってみようかな。
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