第6話

 今度は石のような不思議な金属に目がいく。


 触れてみると、わずかに魔力のようなものを感じた。

 いつも魔法の訓練でそこらへんに転がっている石に対して魔力を注ぐということをしていたから、微々たる力でもすぐにわかった。


「こ、これは?」

「残念ながら完全な失敗作ですよ。魔力を貯めることができないかなぁなどと淡い考えで試しただけですが、大失敗ですね」

「そうなのですか? 石から少しだけ魔力を感じましたけれど」

「本当ですか!?」


 レオルド様は慌てて石を手に取る。


「全くわかりませんが……」

「ちょっと試しても良いですか? この石に魔力を流しても?」

「は、はい。構いませんよ」


 訓練のときと同じように、石に魔力を注いでいく。

 すると、この石は不思議なことに色が青色へと変わった。


「そ……、そんな! 完成していたなんて!」

「綺麗ですねぇ」

「これは実は魔石と命名していて、魔力がない人でも魔法がある程度使うことができるようにするためのものです」

「大発明じゃありませんか!」


 外に出て得た知識はまだ少ないが、この魔石がとんでもないものだということだけは理解できた。

 誰にでも人には魔力が流れている。血液が流れているように。

 ただし魔力の量はピンキリだ。

 コップ一杯の水を具現化させるだけで倒れてしまう人もいれば、魔力だけでお風呂にお湯を溜める人もいる。

 ただし、魔力は貯蓄することができない。

 部屋に設置されているライトも高級品で、一度魔力を流せば三十分程度なら光を継続して照らすことができる。

 だが、それなりの魔力量が必要で、そもそも貴重品で民間人だと入手が難しいらしい。


 しかし、レオルド様が作った魔石があれば、魔力の貯蓄ができるようになるのかもしれない。

 ライトに魔石が使われたら、魔力が少ない家でも夜も活動ができるようになるかもしれないのだ。


 ものすごいものを作ったレオルド様のことを、尊敬の眼差しでじっと見つめる。


「はは。でも失敗していますからね。あともう一歩だとは思うのですが」

「完成してほしいですね」


「そうですね。これは私の魔力が少なすぎて、いつもトイレの水を魔力で流すこともできず、毎回水を汲まなければなりません。これがひと苦労ですからね。他人の魔力を借りることができれば楽になるんじゃないかと思って作ったのです」


 このとき私は思った。

 もしかして、とんでもなく有望株なお方と婚約してしまったのではないかと……。

 私のような無知な人間が釣り合うわけがない。

 意地でも魔法の勉強をもっとして、学園を首席で入学できるようにしなければ……。

 のんびりとした毎日を過したいと考えていたが、それは淡い考えだった。


 でも、のんびりはできないかもしれないが、むしろワクワクしている。


 レオルド様の発明品を手にして、私は彼に協力したい気持ちになっていた。

 こんなに一生懸命色々な物を作っているのに、あと一歩というところで報われていない。

 それになによりもレオルド様には恩がある。

 私を物置小屋という牢獄から救い出してくれたことだ。


「微力ながらレオルド様の発明のお手伝いをしても?」

「それはありがたいですね。誰も興味をしてくれなかったもので……。ソフィーナが初めてですよ」


 こんなに面白そうなのに……。

 もう一度、最初に触れた冷蔵庫を眺める。

 物置小屋で生活をしていたとき、暑い季節で何度も苦しい思いをした。

 もしも冷蔵庫が完成すれば、いざというときに暑さをしのぐ避難場所にもなるのではないだろうか。

 レオルド様に尋ねてみる。


「人が入るサイズの物は現状作れませんからね……。それに、仮にも人が入るのは危険かと。あくまで食べ物を保存する目的で作っていたので」

「残念です。今の時期だったら逆に暖かくなるような物があったら良いのになぁとは思うのですけれどね」

「はは、まあそう上手くはいきませんよね。私の試作品もこれが限界でしょう」


「これって箱ですよね? たとえば、部屋という箱ごと冷やすなんてことはできないのですか?」

「…………? 今、なんと……?」

「冷蔵庫の仕組みはわかりません。ただ部屋って箱みたいな形だし、同じような仕組みで部屋ごと冷やせたら涼しくなるかなって。もしかして逆に暖めることもできるのでは」


 レオルド様の顔つきが一気に変わった。

 まるで、なにかを閃いたような顔である。


「もしかしたらできるかもしれません!!」

「え!?」

「その発想はなかった……。ソフィーナのおかげでもしかしたら……」


 そのあと、レオルド様はひたすら細かい作業に取り組む。

 私は彼が一生懸命に頑張っている姿をずっと眺めていた。

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