第5話
部屋が二つあるため、片方は私専用の部屋として使って良いことになった。
とは言っても、することは今までと変わらない。
私が一人で毎日やっていることをしていると、ドアがコンコンと音を立てる。
「はい、大丈夫ですよ」
「失礼しますね。なにをされているのですか?」
私は床にあぐらで座り、両手を合わせていた。
どう考えても意味不明だと思われていたに違いない。
「魔法の訓練です。学園には行けないので、独学で魔法学を勉強するしかなく」
「さすがです。魔法の訓練というのもそうやってやるものなのですね」
「あくまで独学ですよ。正しいのかもわかりませんし、真似はしないでくださいね」
「はは。私はそもそも魔力がほとんどありませんから訓練のしようがありませんよ。ところで、なぜ学園に行けないのです?」
またやらかしてしまった。
お父様が私を学園に入れさせる気がないなど、とてもじゃないが言えない。
「お金がありませんので……」
「はい?」
「自分のことは自分でやれるように育てられました。学園に入るためのお金も自分で稼がなくてはなりません」
今回も嘘はついていない。
最低限の食事だけは一日一度だけ配給されたが、その他のことに関しては全て自分でやってきた。
レオルド様はクスリと笑う。
「よほど厳しく育てられたのですね。多分ですが、ソフィーナは学園に無償で入学できると思いますよ」
「へ!?」
「首席で試験を合格すれば入学金も学費も全額免除されるのですよ」
「えぇ!? 本当ですか?」
学園に入学したくてもできないと思い込んでいた。
だが、レオルド様の話を聞き、可能性がでてきたのだ。
詳しく話を聞く。
「私の父上は学園で、貴族に関連する講師をしていますから。その父上がそう教えてくれ、首席をとって入学できるよう頑張れと言われていましたので間違いはありません」
「知りませんでした。でも、無知な私が首席だなんて」
「魔法学科コースで試験を受ければソフィーナなら大丈夫かと。一度しか見ていませんが、無詠唱で水を具現化してしまったのですから。王宮魔導士でも無詠唱で魔法を使える者はいないと聞いたことがあります」
それを聞き、さらに希望が見えてきた。
学園は諦めていたのだが、もしかしたら入ることができるかもしれない。
嬉しさのあまり、無意識でレオルド様の手を両手で包み、お礼を言った。
「私、首席取れるように頑張ってみます!」
「一緒に首席をとって入学しましょう!」
「ん……? 一緒に首席?」
そういえばさきほども首席を取れるように頑張れと言われているのだと聞いた。
首席って、一番上って意味だと思うし、レオルド様とはライバルになってしまうではないか。
「大丈夫ですよ。王都の学園では、各学科それぞれに首席が設けられているのです」
「と言いますと?」
王都にある学園では、学問学科、魔法学科、騎士学科の三つがあり、それぞれに順位が設けられているのだと教えてくれた。
レオルド様は学問学科を受けるそうだ。私が受けると思うのは魔法学科だろうし(学問は無知だし騎士なんてできるわけがない)、首席の取り合いはない。
「お恥ずかしながら、私も首席をとれなければ学園に入学ができない貧しい生活をしていましたからね。学園に入学だなんてお願いはできませんよ。だから、それはもう四歳のころから必死に勉強をしてきたのですよ」
「一緒ですね! 私も四歳から独自に魔法の訓練をしていました」
「ソフィーナは素晴らしいですよ。私の勉強など、しょせんは魔法がなければ活用できないことばかりですから……。今研究しているものも、魔法がなければどうすることもできないので失敗作になりそうですし」
私が魔法鍛錬をしている最中も、隣の部屋からガタゴトと音が聞こえてきていた。
なにをやっているのだろうと疑問だったが、レオルド様も私と同じように没頭していたようだ。
婚約者のやることに興味があった。
「すごい! なにか作っているのですか?」
「見てみますか?」
「ぜひ!」
「嬉しいですね」
どういうわけかレオルド様は喜んでいるようだった。
隣のレオルド様の部屋へ入る。
すでに部屋が物で溢れていた。
いつの間にこんなに……。
「すごいですね。全部レオルド様が作られたのですか?」
「はは、どれも未完成ですけれどね」
「手にとっても?」
「構いませんよ」
なんとなく、一番近くにあった箱のような金属に触れてみる。
この季節だから冷たいのは当然だが、それにしても冷たすぎる気がした。
「これはなんですか?」
「食べ物を腐りにくくするための道具です。冷たく冷やしておければ熱い季節でも少しは長く保存できるのではないかなと思いまして。冷蔵庫と名付けようかなと思っています」
「すごいですね。そんなものが完成したら、国中大騒ぎになるのでは?」
「はは。だと良いのですけれどね。問題なのは、どうやって冷やすか……で開発に悩んでいるのです」
レオルド様の発想力がすごいことが良くわかった。
他の作りかけの品々にも興味が湧く。
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