とある喫茶店で『王子様』と呼ばれている店員は、普段は陰キャな俺。〜暴漢から助けた同じクラスの美少女は喫茶店に入り浸っている〜
でずな
第1話 王子様
中学3年生のとき。
お金が欲しかったので、無理を言って親戚が営むこじんまりとした喫茶店でバイトを始めた。右も左も知らない子供に給料を払ってまで雇ってくださってくれて、本当に感謝しかない。
それから半年が経ち、喫茶店のバイトも板についてきた頃。
親戚の店長直々の頼みで、目元まで下ろしていた前髪をピンで止めたのが全ての始まりだった。
1つ変えただけだが、その変化は絶大だったらしく。普段はスカスカだった喫茶店が、ものの一週間で少しスカスカな喫茶店になった。
なぜ急に来るようになったのか新規のお客様に聞いたところ、全員俺の顔目当てだったのだ。
その理由を知り、お客様が増える味をしめた店長は俺の魔改造を始めた。
もう、どうなったのかは想像がつくだろう?
まず喋り方を変えさせられ。
次は見た目。喫茶店のマスターのような真っ黒なタキシードを着こなし、首元には赤い蝶ネクタイをつけることに。
そうして俺はいつしか、お客様から『王子様』と呼ばれるようになった。
王子様を演じる分、毎回結構なボーナスをもらってるから別に不満はないんだけど。
喫茶店のバイト以外は陰キャなので、キャッキャッする女の子に未だに慣れない……。
⬜⬜
「あら王子様。オムライスを持って来てくれたんだから、最後にやることがあるよね?」
「……………萌え………萌え……きゅん」
「きゃ〜! 『恥ずかしそうに萌え萌えきゅんする王子様が見れるオムライス』って新作、最高なんですけどぉ〜!」
ニコッと笑顔を作ると、お客様は「きゃ〜!! マジで最高なんですけど!!」と興奮気味に俺のことを撮ってきた。
本当に慣れって怖い。
最初はこういうことされるのに抵抗があってすぐ逃げてたけど、今では無意識にカメラ目線になってる。
最初も言ったが、ここはこじんまりとした喫茶店。店内が全て木で出来ていて、元は隠れ家的な場所だった。
決してメイド喫茶や、執事喫茶のような喫茶店ではない。
「いやぁ〜
佳樹は他でもない俺の名前。本名は
そして、俺に話しかけてきたお姉さんは
「今度は歩き方をやろっか」
柴先輩は大学生で、店長が始めた魔改造を手伝った共犯者。
「……いつも思うんですけど、そういう知識どこからでてくるんですか?」
「ふふふっ。映画とか小説」
「意外とちゃんとしてますね」
「意外と、は余計だよぉ〜」
柴先輩はついなんでも任せたくなるようなお姉さん。
もちろん、その仕事ぶりは真似できないほど完璧。
でも仕事以外の時間は完璧とは程遠く……。
「あっそうだ。歩き方の練習は今度することにして、今日はこれから外に出て売り込み営業してきてよ。この前、教えたよね?」
「え。でも、まだお客様たくさんいらっしゃいますよ? 一人は流石にキツイですって」
「大丈夫。いざとなったら2階でお昼寝してる店長叩き起こしてくるからさ」
単純に嫌だから遠回しに断ろうとしたが無理みたいだ。
「そういうことなら行ってきます……」
「しっかり王子様になって、歩いてる女の子の心を鷲掴みにするんだよっ!」
俺は柴先輩の言葉を背中に受け、できれば人と会いませんように……と真面目に願いながら喫茶店を出た。
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