8-4◆渡会 楓の行動
「先生、そのヘッドってどんな形?」
「え? 確か星型で、中に……あ、いや写真で見た方が早いか」
先生はスマホを出して操作する。差し出された画面には、
大きな星と小さい星が二つ金属で形作られていて、その中に透明とピンク色の宝石が
「警察の人にこれを見せて聞いてみたら分かる。飯島は、被害者のアクセを集めてるって
先生は父の方を見る。父も先生の方を見て、二人は顔を見合わせて考え込む。
「どうだろう……それより前に手に入れたと言われたりすると、証拠にはならない。この現場でしか手に入れることができないって言えれば……。けど、持っているかどうかの確認はすぐにお願いしても良さそうだ。今の逮捕内容の余罪は捜査してくれるだろう」
父はそう言って先生に一言断ると、拡大されたヘッドの画像を自分のスマホで撮影する。私は
すっかり冷え切ってあまり美味しくない。けれどまた手を伸ばして、ポテトを食べ続ける。義務のように思えた。
「カエ……?」
びくりとして、ポテトを落とす。急いで後ろを振り返る。
「……タニか……、え? 先生タニも?」
声の主はタニだった。部活終わりなのか、大きなカバンに上下ジャージだ。あまりのタイミングに、先生がタニにも声を掛けていたのかと思い、振り返って先生に質問する。
「いや、呼んでないけど……」
「何だよ、部活帰りにハラ減って寄っただけだよ。したらカエっぽい人いるなぁって思って」
「北高って、この辺じゃないよね?」
「うちのバレー部は一軍だけ、週一でこっちのスポセン使ってるんだよ」
確かにこの商業施設の近くにスポーツセンターがあった。設備が良くて選抜試合や県大会でも使われたりする。フードコートの発券所あたりを見ると、タニと同じジャージが数人いた。ということは、あれは全員北高生だ。
「大丈夫、あの中に
タニはそう言って、耳打ちする。私はほっとしてタニを見上げる。周陽中学から北高に行く生徒は多かった。思わず怯えた表情をしてしまった私をタニは見逃さなかった。
「あ、ポテト食ってもいいですか?」
そういうが早いかタニは私の隣に腰を下ろし、ポテトに手を伸ばす。冷えててまあまあだなと言いながらも、どんどん食べていく。あっという間に半分以上なくなった。
「このメンツだと、タニって呼んでくれるんだ?」
「うん……」
タニが私をじろじろ見る。私はどういう顔をしていいか分からず、少し
「小谷君、それ全部あげるから皆のとこに戻ったら?」
先生が横目でタニをちらりと見る。タニの視線は私から先生に移る。
「ここで食べてから戻りまーす。本当はオレが優亜ちゃんを助けるはずだったのに我慢して言うこと聞いたんだから……もうちょっと高いもん食わして欲しいけど。あと、優亜ちゃんに気を持たせるようなことしたら許さないから。オレ、優亜ちゃんのこと本当に好きだから」
タニの空気を読まない力が炸裂している。昔と変わってない。こういうところは本当に凄いと思う。
「してないから。今、真面目な話してるんだけど」
先生とタニの相性は良くないみたいだ。それはあの時から薄々感じていた。
「真面目な話? 何? 飯島の件?」
タニは三人の顔を見回す。変に隠すと意地になって食いついて来るから、当たり障りのないところまで説明して納得してもらおう。
「あのね……、犯人の飯島が過去に起こした犯罪に気づいたの。だからそれを証明できないかって色々考えてたの」
「えっ……それって少しでも長くあいつをブチ込んでおけるってこと?」
「もし証明できれば……」
一度事故として終わっているが、犯罪の証拠があるのに無罪のままなんてことはないと思いたい。父と先生を盗み見る。
「新しい証拠として認められれば、可能性はある」
父が考えながら言う。優亜が三年も経たないうちに……と悔しそうに言っていた顔を思い出す。
「オレにできることあるなら、協力させてよ。何を証明すればいいの?」
「小谷君には無理じゃないかなぁ……」
「いや、そんなのわかんないでしょ? 三人より四人の方が脳ミソの数多いんだし。オレ飯島を突き止めたんだよ?」
そこまで言うと、タニは
「まぁそのせいで優亜ちゃんが……。だからオレ責任感じてるんだよ。オレにできることあるなら、何かしたいんだよ」
先生が私を見る。下手に話したせいで、タニのハートに火をつけてしまった私に怒ってるのかもしれない。
「渡会、紙とペン貸して?」
「あ、はい」
リュックからノートとペンを取りだして先生に渡す。先生はノートを開いて、真ん中に横線を一本引く。三分の二くらいのところに、横線に対して直角に矢印を入れて死亡と書く。
「殺された人がいて、その犯行現場からは、被害者が毎日身に付けていたものが無くなっていた」
はじめに引いた直線の三分の一あたりに丸印を打って、そこから横線に平行な線を下に付け足す。死亡のとこまで線を引くと更にその下に星マークを入れて紛失と書く。
「その身に付けていたものは、飯島が現場から持ち帰ったと思われる」
そう言って、矢印と死亡と書かれたところを丸で囲む。
「うん……それで?」
「現場から持ち去られるまでずっと、被害者が身に付けていたことを証明できないか考えてる。小谷君何かアイデアある? ……ってかんじかな」
やっぱり先生はすごい。ネックレスだけに絞って考えると問題がすっきりして見える。父もうんうんと言いながら頷く。
「死亡って……物騒なんだけど? うーん……なんか、イメージ湧かないな。毎日身に付けていたものって何? 期間はどれくらい? 被害者は男? 女? 具体的に言ってよ」
「毎日身に付けていたものは、ネックレス。期間は四カ月くらい。被害者は女性」
「女子かぁ……。死亡するまでずっと着けてた? おんなじネックレスを毎日着けてるってこと? そんなの、SNSの写真見ればいいじゃん。女子はほとんど毎日自分の写真上げてるし」
私たちは顔を見合わせる。行永さんは若くてきれいな新任の先生だ。本人がマメにやるタイプでなくても、先生と一緒に撮ったり隠し撮ったりして、割と
「タニ……かしこい」
「小谷君、食べたいもの言って?」
タニは私たちからの尊敬の眼差しに戸惑いながらも、醬油豚骨と呟いた。
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