8-2◆渡会 楓の行動
学校から少し離れた大型商業施設のフードコートで、先生と向かい合って座っている。テーブルの上には二人分のコーラとフライドポテト。
「先生……こんなところで大丈夫なんですか?」
コーラを一口飲んで先生を見る。飯島浩太と裁判資料の件について聞きたいと言ったら、この場所を待ち合わせに指定された。授業の後なので、私は制服のままだ。
「問題ない。人目がある方が良い」
「そう……ですか? あの、あの日
先生は少し眉を寄せてテーブルに目を落とす。先生と父を残して帰った夜、先生の番号から着信があって、タップすると父が喋った。何がどうしてそんなことになったのだろう。
「あぁ。会った……」
先生はそのまま黙り込んでしまう。飯島浩太と何かあったのだろうか? それとも相手は父だろうか。別れ際に私の手を
「あの、もしかして父と何かありましたか?」
「あった……
「えっ!?」
私は驚いて、思わず膝をテーブルに打ち付けてしまった。
「痛っ……なんで? そんな、じゃあやっぱりお父さんが嘘を?」
先生は私を見て少し笑みを
「いや、嘘は飯島の証言だったんだ」
「どういうことですか? ……お父さんは自殺だって……」
父と会った時、あの時何と言っていたっけ? 最も納得できる結論……直接見てない……飛び出してきたと思っていた……。一度もはっきりと断言しなかった。それはつまり、真実は違っていたから?
「その当時は、気づくことができなかった」
先生は、コーラに手を伸ばして一口飲む。
「裁判の後に気づいて、一人でずっと調べてたそうだ」
先生が目線を私の斜め後ろに移す。片手を上げて頭を下げる。誰かを見つけたみたいだ。恐る恐る振り返ると、父がこちらに近づいてくる。
「えっ、嘘……」
まさか、こんなところに父がいるとは考えもしなかった。先生と二人で会っていることを父が知ったら、何と思うだろう。
「すいません、遅くなってしまった」
父は私たちを
「この前会った時は、本当のことを言わなくて悪かった。飯島に興味を持って、
父はちらりと私を見る。もうこっちはそんなことどうでもいいくらいに混乱している。
「どうしてお父さんが先生と……」
私の疑問に父は少し戸惑うように視線をずらす。
「楓が飯島について知りたいと言っていると連絡があって……僕の方が詳しいからって呼ばれたんだ」
知らない間に先生は父と連絡先を交換していた。そのこともかなりショックだ。私はまだ父の番号を知らない。さっき先生は父が一人でずっと調べていると言っていた。それが飯島浩太のことだろうか。
「お父さん、何を調べてるの? あの飯島って人のこと?」
父は黙って頷く。
「飯島があの時現場に居て、行永さんを僕の車の前に突き飛ばした。それであの事故が起きた……本人も認めたよ」
「……え?……」
事故ではなく殺人だ。
「それって……飯島が行永さんを殺して、そのせいでお母さんは死んだってこと?」
父は手短に話してくれた。行永さんが飯島浩太の被害者だったこと。その後も、つきまとわれていたこと。行永さんが飯島を訴えようとして、あの事故が起きたこと。事故現場に飯島浩太がいたことまでは分かったが、証明できずにいること。
「もう話してしまいましたか?」
先生が手に飲み物をもって帰って来た。父に手渡すと席に着く。父が大事なところはもう伝えたよと言ってポテトをつまむ。
「なんで? もう警察に言ったの? 今、優亜の件で捕まってるんでしょ? だったら早く……」
父は
「僕が調べた内容に、決定的な証拠はない。それに……あの事故は、一度捜査が終わってる。再捜査をお願いするには、何か決定的な新しい証拠が必要だ」
そんな、あまりにも
「そんな……新しい証拠……あの時、飯島って人が……?」
あまりの驚きに忘れていたが、本当は今日飯島浩太のことを聞くことともう一つ、目的があった。
現場写真の違和感。そのことを先生に教えて、考えを整理したかった。もしかしたら私の感じた違和感、あの中に何かがある可能性はある。
「先生、お父さん……私、二人に聞いて欲しいことが……もしかしたら証拠が見つかるかも」
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