6-3◆渡会 楓の憂鬱
優亜に先生とのことを
風呂上がりにペットボトルのお茶を1本、一緒に持って自分の部屋に入った。机の上に置いて、スマホを確認する。先生からのメッセージが入っていた。
『お父さんと会えた?』
先生は優亜から何も聞いていないのだろうか。今はきれいに消えてしまったが、赤い三日月のあったところをそっと
会うことを、話すことを断ったら……もう先生は私に、連絡をしてこなくなるのだろうか。ごめんなさい、と打ち込んだが文字を全て消す。先生との時間が、
『まだ、会えてません』
もう会えないと打つことも、父と会ったと伝える勇気もない。もう少し考える時間が欲しい。自分の気持ちを伝えてから、それから……。
『少し話したい。電話しても大丈夫?』
メッセージを見て、どくどくと心臓の動きが早くなるのがわかる。迷ったが、部屋にいるので大丈夫と送ると、すぐにスマホが振動を始める。私は息を深く
「こんな時間にごめんな」
「いえ、全然……大丈夫です」
初めに
「すごく、久しぶりな感じがする。何してた?」
「さっきお風呂から出て、部屋に戻ったとこで……」
言いながら、父と会っていないと伝えたことを後悔し始めていた。
「ちゃんと、髪の毛乾かした?」
「え?……はい」
「そっか……。俺は、灯台に行った時のこと考えてて」
やっぱり気の迷いだったと、言われたらどうしよう。
「あの時は、ごめん。もうあんなことはしないから。だから……」
謝られると、あの日のことを否定されているようで、胸が痛い。全てなかったことにされてしまうのだろうか?
「先生、ずるいよ……、私……知ってます」
「……何、どうした?」
「先生に、カノジョがいること」
「え?」
先生は何も言い返さない。違うなら否定するはずだ。
「それが、誰なのかも知ってます」
「……今は、いないけど。何時の話で、誰の事を言ってる?」
先生の声からは動揺が伝わってこない。私だけが騒いでるみたいで、それが妙に悔しい。
「
微かに先生が
「いや……、違うけど。須藤か……。須藤がそう言った?」
「えっ……? 首の……赤い跡を、優亜に見られて。それで、相手は先生だろうって言って……すごく、怒ってて。それで……彼女に、言われました。私が傷つくことになるって」
問い詰めるつもりが、何故か私が言い訳しているみたいだ。
「電話しなかったら、俺には何も聞かないつもりだった? 須藤の言葉だけを信じる?」
「だって、須藤さんあんなに怒ってたし……もう会わない方が……」
自分で言って、はっとした。何も確かめてない。あの頃、散々嘘を広められて、嘘を信じた子たちは勝手に離れて行った。自分がされたことを、先生にしている。先生は、私の話をちゃんと聞いてくれてるのに。
「ごめんなさい……」
優亜は首の跡を見ただけで、先生だと気づいた。優亜と先生に、特別な関係があるかもしれないと考えた。傷つくのが怖い。だから確かめもせずに、逃げようとしてる。
「責めてないよ。須藤が何を言ったか分からないけど。俺は須藤の彼氏ではないし、
分からない。どちらが本当なのだろうか。優亜は、あのとき本当に怒っていた。私と先生に接点があると、知らない
先生に通院の面倒を見てもらっていたことは、菜月以外話してない。通院が終わってしまった後は、校内で会話することはなかったし、会っていることは、誰にも言ってない。
「私……」
先生を信じるの一言が、出てこなかった。
「たぶん、俺が彼女の反感を買ったせいだ。須藤が補導されて、交番に迎えに行ったときに、ちょっと言い過ぎて……。俺の弱みを探っている様子だった」
「……弱み?」
先生を困らせることが目的だったのだろうか。けれど、それなら私にあんな風に怒る必要はない。先生を悪者にして、私との噂を拡散する方が、余程効果がある。私が彼女の言うことを信じてしまったのは、優亜から自分と同じ感情を感じたからだ。
「他は、何もされてない?」
「はい……。あの、優亜がしたこと、他に理由があるかも。少し話してみます」
「いや、須藤には近づかない方が良い。こっちで何とかする」
私は何と言っていいか分からず、また沈黙が流れる。
「ごめんな。傷つけてばっかりだな。渡会のことも、二人の時間も大事にしたいんだ。俺を信じてくれるなら、また連絡して」
通話が終わっても、
近づかない方が良いと言われたけど、優亜とはきちんと話をしなくてはならない。
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