第8話「白き人形と時の女神の娘。時の魔術は、奇妙な夢となって……①」


 私は■■■。ふむ、悪い子たちが、ミトラを攫いにくる。パレードの際に……。あの子たちも、諦めが悪い。こんな悪がき、私には勝てないのに。



 うーん、私が敗北する未来は見えない。


 だけど、私の指示に対して、ミトラが私を拒否する可能性がでてきた。彼女の魂・記憶は、私を最優先する様に書き換えた。再生の聖痕の行使、死を捻じ曲げた、その代償として、彼女の魂を少しずつ変貌させている。



 人間から、霧の悪魔へ……。



 私の言葉を否定する、そんなことはできないはず……。



 まあいいや、それはそれで、今後に活かそう。もし、ミトラが私の言葉を拒否したら、計画を早めて、なるべく早く、新しい女神になってもらう。



 ミトラは、私だけのお母さんになるの……。


 誰にも、もう一人の私にも、絶対に渡さない。『私だけの……お母さん。私の夢を叶えて……お願い、私を一人にしないで……。』



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 飛空船ミルドレッドは、友軍の飛空船と共に、城壁都市の上空から周辺警備を行っている。飛空船カーディナルに起こった、本物の奇跡。数回の内部調査を行ったが、カーディナルの機器は何も異常はなかった。乗組員たちにも、健康上の問題は、いっさい認められない。



 本物の奇跡なのでしょう。乗組員の中で、肺や心臓の持病を持っていた者も、その病気が治っているとの報告書があがってきている。



 飛空船カーディナルは1週間以上、消息不明。行方が人知れず、捜していた家族、身内の者たちは涙を流して、再会を喜んでいる。《聖女による祝福……より、あの子の噂は広がっていく。》


 デュレス枢機卿のみ、依然として、消息不明。私としては気にくわない者が一人消えてくれたので、私の敵が減るから気分がいい。



 知的な印象を与える、白髪で高齢の女性、ロゼッタ枢機卿は、空中に浮かぶ、複数の透過型スクリーンで、数多くの資料に目を通している。



《主の試練……聖女の祝福。

 膨大な魔力……堕落した神々、霧の人形……。

 白き聖痕を宿す聖女……彼女は、もう人間ではないのかしら?》



 暫くして、空中に浮かぶ透過型スクリーン、その一つに視線を動かした。



 城壁都市に、数多くの人が集まっている。大陸中の人々の熱気が集中して、お祭り状態。文字通り、今日は、聖女聖誕祭が行われている。



 城壁都市は、色とりどりの旗や風船など、祭りの場として、綺麗に飾り付けられている。祭りの目玉は、聖女を一目見られるパレード。


 聖女聖誕祭。今日で一区切りさせるために、私の指導のもと、この行事は行われている。奇跡を起こした聖女に、自己肯定を養って欲しいという思惑もあるのだけど……。《このパレードで、せめて、彼女が自分の価値に気づいてくれたらいい。ジョナス監察官の言う通り、彼女は自己評価が低すぎる……指導者としては致命傷。ミトラちゃん、可愛いのだけど、困った子を養子にしてしまったわ……ジョナス君は、子育てをしないつもりかしら?》



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 聖女聖誕祭、そのパレード。沢山の歓声が聞こえる。


 多くの人が見えて、不自然な笑顔、私はぎこちない笑顔のまま、手を振っている。私の横に座っている白い少女は、緊張している様な感じには見えない。集まっている人たちに、同じ様に手を振っている。



 私はミトラ、偽りの聖女。普段の私なら絶対に着ない、上品な正装を着ている。見た目は軍服の様な感じで、上品な趣・威厳さを少しでもだそうとしたためでしょう。「上品な趣・威厳さ、ないものは仕方がないよ……私は子供になってしまったから……よけいに……。」



 私とノルンちゃんを乗せた、パレード用の豪華な馬車には屋根がなくて、とても開放的。数多くの騎士団の隊員たちに誘導されて、大きな車輪でゆっくり進んでいく。


 豪華な馬車には、ジョナス君も乗っている。私たちの後ろに、座らず立ったままで、周囲を警戒している。上空で、周辺警備している飛空船。さらに、私たちの馬車が通るルート、そこにある民家の屋根の上にも、警備してくれている騎士団の隊員たちがいた。


 皆が、このパレードで不測の事態が起こらない様に、最大限の努力をしてくれていた。「私も頑張らないと……とりあえず、笑顔で……緊張せず、笑顔で……。」




『お母さん、悪い子たちがくる。お母さん、私を守って……。』



 「えっ!? ノルンちゃん?」隣に座っていた、白い少女がそう言った。疑問を口にだすより前に、私は立ち上がる。騎士団の隊員たちが、私の異変に気づいて、豪華な馬車が止まった。



 【ミトラ、どうした?】ジョナス君が、小さな声で呟いてくれた。



「ジョナス君、馬車から降りて、お願い。周囲の人たちを逃がしてあげて。」



 私の口から、そう言葉がでた。私は考えてもいないのに……。


 ジョナス君は不自然に思って、後ろから乗り越えて、私たちの横にくる。その時、上空に鎮座する飛空船から、非常事態を知らせる、アラームが鳴り響いた。



 それは白い鳥。青い空、大空から急降下してくる。



 飛空船から警告射撃、上空で発射された。


 白い鳥は、美しい白い鳥の翼を羽ばたかせて、優雅に下へ降りてくる。飛空船ミルドレッドとカーディナルは、城壁都市の人々に被害がでてしまう可能性……白い鳥が城壁都市に近づき過ぎた段階で、射撃を中止した。



 通りにいた騎士団の隊員たちが、商店や宿屋の中に人々を避難させていく。悲鳴はあがっていないが、皆不安そうだ。何かのきっかけで、統制がとれない状態になって、事故が発生してしまうかもしれない。



【ミトラ、ここから避難するぞ!】



「ジョナス君、都市の人を先に避難させてあげて……私は大丈夫。」



 【な、何を言っているんだ、まったく君は……。】ジョナス君はそう言って、私の腕を掴んだ。私を守ろうと、私を誘導しようとする。



 【ミトラ!?】、私はなぜか、彼の手を振りほどいてしまった。もう一度、ジョナス君が、お姫様抱っこしてでも、私を抱き上げて連れ出そうと近づいた時、あの子がまた教えてくれる。




『お母さんきたよ、悪い子……私とお母さんの仲を裂こうとする悪い子。』



 白い鳥が、空中に浮かんでいる。その少女は黒いローブを着ていて、腰の辺りから、白い霧の様に美しい鳥の羽が生えている。


 白い手足、銀色の髪。透き通る海の様な青い瞳をもつ少女が、私とこの子をじーと見ていた。「!? あれ、嘘。どうして、ノルンちゃんが二人?」



 私が瞬きした瞬間に、白い鳥が、私の視界から消えた。


 そして、私はなぜか、ジョナス君の背中を両手で押して、馬車の上から外に落としてしまった。彼は白い鳥の少女に気を取られて、背後からのいたずら、私の悪ふざけを予想できなかった。彼はうまく転がって、受け身をとって、すぐに起き上がる。



 転移魔術。私の眼の前に、白い鳥の少女が現れる。


 ここまで近いと、白い鳥の少女のことが良く見える。やっぱり、この子はノルンちゃんだ。間違いない、私の子、我が子が二人いる。



 私はなぜか、司教の杖を構えて、臨戦態勢をとってしまう。私はこの子と戦いたくない。そう思っているのに、私の口は呟いた。


「天の神の名において命ずる……聖母の依り代よ、我の声を聞け。

 我は母なる大地となり、星を統べる。我が依り代よ、我が敵を撲滅せよ。」



 すると、白い鳥の少女も同じ様に呟いた。


『ノルンの名において命ずる。我が依り代よ、我の声を聞け。

 我は光の大樹となり、星を統べる。我が依り代よ、我が敵を撲滅せよ。』



 白い鳥、可愛らしい天使の子はノルンと名乗った。「やっぱり、私の子だ。やめて、誰もこの子を傷つけないで!」



 私の心からの叫びは、誰にも届かない。


 民家の屋根の上にいた、騎士団の隊員たち。日々の訓練通りに、配備されている火器で、白い天使に狙いを定める。でも、誰も発砲することはなかった。



 恐らく、どう見ても、神の使いである天使にしか見えなかったからでしょう。私にとっては幸運です。この子が傷つく姿なんて見たくない。



 私はまた、私の意思とは反して、言葉を発していく。


 白い鳥の天使も、同時に呟いた。



「極星魔術・第二の刻―惑星招来。」、『極星魔術・帰天きてんの刻―惑星招来。』


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