3.1:Kidnapping - Epi38
「光ってた?」
「片方だけな」
「そうなんだ。目の手術したから」
「手術? ガラスでも入ってるのか?」
「ガラス……っていうものじゃないだろうけど、まあ、レンズが目の中に入っているの。昔、怪我した時に、左目が少し損傷しちゃってね。それで、人口のレンズが入ってるの。白内障の人が手術したら、よく、視力回復の為にレンズとか入れるじゃない? それよ、それ」
それで、瞳の中にレンズが入っているせいか、時たま、電気の当たり具合で、中のレンズが反射して、暗闇などで少し光っている、とは兄の晃一からも聞いたことがある。
亜美は、自宅の洗面所で、暗くしたり、電気を上から当ててみたりと、色々試しながら、自分の瞳がどんな風に映っているのか確認してみたものだ。
レンズに光が当たると、それが反射して、亜美の瞳が真っ黒に見えることがある。暗闇で猫を見た時のような奇妙さと不思議さだ。
それを確認した亜美が、面白くて、兄の前で大喜びしたことか。
「室内灯だと、そんなに反射しないんだけどな」
「角度の反射で、時々、光って見える」
「そうなんだ。でも、それが問題?」
「問題じゃないが、目立つ」
「ええ、それが?」
大して目立つほどの反射や輝きじゃないのに。
「そんなこと言われたの、初めてだわ……」
亜美の兄だって、親友のキャシーだって、そんなことを指摘してきた人はいない。
クインが指摘するほど目立っていたなど、亜美も驚きである。
まあ、そんな驚きを終えて、レンタルカーで会場までやってきた亜美とクインだ。もちろん、レンタルカーは、勝手に、すでに、用意されていて、クインが運転するだけの準備万端さだ。
どこに行くとも知らされていない亜美は、もちろんのこと、クインに質問をして無駄な時間を費やさない。
だから、車に乗っている間、亜美は携帯電話のマップで、付きっ切りで移動場所を確認中。
クインは、亜美のその行為を横目で見ていたが、特別、注意するわけでもなさそうである。
到着した場所は、モスクワでも有名な
レストランの入り口からして超高級感が溢れ、パーティーに向かってぞくぞくと会場入りする観客達は、どれもこれも“お金持ち”という雰囲気が溢れ出ているものだ。
皆、タキシードを着込み、女性は高級そうなドレス。“イブニングガウン”という形容がピッタリなほど、まさに別世界に飛び込んだかのような光景だった。
メインの会場は、レストランでも一番のメイン会場として扱われている“セントラルホール”で、丸いドーム型の二階建てで、中央には5本のコラム。そこは天井が空洞になっていて、洒落た柵の向こうから、二階に設置された客席から階下が見下ろせる形になっているのだ。
「ほえぇ……!!」
壁の装飾も、天井の飾りも、シャンデリアも、その全てが全て繊細で、豪奢で、ロマンチックで、その場にいるだけで、一気に中世ヨーロッパのお城にでも迷い込んだような錯覚に陥ってしまう。
レストランは、16世紀バロック式の建築が再現されていて、中央の豪奢なシャンデリアは、ルイ16世が好む贅を極めた美しいものだった。
こんな超高級なレストランにやって来たのは、亜美も生まれて初めてである。
一体、どこのお金持ちが、こんな超高級なレストランで、超高級なファッションショーを開くと言うのだろうか。
それも、チャリティーの一環として、プライベートのファッションショーだ!
腐ったほどのお金持ちというのは、どこにでもいるものなんだなぁ……と、改めて、亜美とは全く違う世界の現実を知った亜美だった。
このパーティーには、かなりのゲストが招待されているようで、亜美達の前にも、後ろにも、ゾロゾロと会場に入って来る裕福そうな面々。
きっと、ロシア内でも著名な政治家だったり、お金持ちだったり、そんな面々ばかりのはずだろう。
亜美は、一応、クインにエスコートされている形だから、クインの腕に自分の手をかけ、クインが進んで行く方向にゆっくりと歩いて行っている。
「そのハイヒールでこけるなよ」
そして、色気の欠片もない、このエスコート役……。
すごく気分が盛り上がっているのに、その気分を一気に盛り下げてくれるクインだ。
「おい」
豪奢な会場内で圧倒され感動している亜美の横で、クインは警戒を解かない。むしろ――会場入りした時点で、更に、緊張がみなぎっている様子だった。
ハッと、亜美もそこで注意を戻していた。
「どうしたの?」
クインの顔の方に少し自分の顔を寄せるようにして、小声で亜美が聞き返す。
クインも親し気に亜美の方に顔を寄せ、口をパクパクさせる。
「あの男に気をつけろ」
「どの、男?」
「階下。俺達から8時方向。金髪、黒いタキシード。ゴールドのスカーフを首に巻いてるやつ」
パクパクと、ほとんど音を出さないような小声(囁き?) で、クインが口早に説明する。
亜美達がいる場所は二階のホールで、二階に上がって来たクインは、躊躇いもなく、中央が空洞になっている柵の隣のテーブルに着いていた。
二階席の中でも、階下を見下ろせるこの場所は、きっと特等席に近いはずなのに、あの“組織”では、すでにそのチケットを入手することが可能だったのだろうか。
本当に――あまりに手際が良すぎて、亜美の方が気味悪く感じてしまうほどだ……。
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