転生のベルセルク ~俺をパーティーから追放した女勇者が死んだけど、実は愛する俺を守るため仕方なく追い出したのだと知り、過去に転生して二人の出会いをやり直すことにした~

高橋弘

第一章 入学編

第1話 追放の錬金術師

「悪いけど、あんたみたいなグズとはもうやってけないから。出てってくんない?」


 いよいよこの時が来たか、とカイルはうなだれる。

 勇者レオナは、ついに自分を追放すると決めたらしい。

 

 思えばこの女とは、最初からそりが合わなかった。

 出会った時からやたらとつんけんしていて、何かとカイルを目の敵にしてきたのだ。

 若い女にありがちな、生理的に受け付けないというやつなのかもしれない。


「何ヘラヘラしてんの? 馬鹿みたい」


 レオナはパーティーのリーダーを務めていて、カイルと同じ十九歳である。

 見た目こそ金髪碧眼の美少女だが、人格の方は最低と言っていい。

 我侭、傲慢、言葉より先に手が出ると三拍子揃っており、一体何度殴られたかわかりゃしない。


 こんなじゃじゃ馬に人類の命運がかかっているのだ。嘆かわしいにもほどがあるだろう。

 

(いっそ魔王に返り討ちに遭って、凌辱されちまえばいいのに)


 ドス黒い思考に支配されながら、カイルはひざまずく。

 その仕草は余計にレオナの神経を逆撫でするらしく、グリグリと靴底で頭を踏まれた。


「ご、ごめんよ……俺頑張るからさ」

「うるさいうるさいうるさい! あんたに何ができるっていうの!? 攻撃も回復も補助もサッパリ! やれることといったらポーションを投げることくらいでしょ! あんた自分を投石機と勘違いしてんじゃない!?」


 返す言葉もない。

 カイルのジョブは錬金術師なのだが、ある時期からすっかり伸び悩んでしまったのだ。

 強力なアイテムは作れないし、鑑定の成功率もイマイチ。

 近頃はもっぱら後方支援に徹している有様だ。


 錬成したポーションの小瓶を放り投げて、ちょっとした回復や解毒を行う。それがカイルに残された唯一の役割だった。


 けれどこのパーティーには腕のいい神官がいて、そちらの方が遥かに上手くヒーラーをこなしている。

 カイルの存在感は、日に日に小さくなる一方であった。


「そんなに投げるのが好きならね、どっかの田舎で害鳥退治でもやってりゃいいのよ。あんたって投擲以外に取り柄がないんだし。……いい? 今日中に出てってよね」


 言われなくてもそうしてやる。

 悔しさのあまり歯ぎしりしていると、何か硬いものを頭に置かれた。

 それはコロコロと頭頂部を転がって、カイルの足元に落ちてくる。


 指輪だった。

 しかも酷く錆びついた、汚らしいデザインだ。


「言っとくけどあんた、パーティーを抜けてもずっと私の奴隷だから。服従の証として、一生それを着けて過ごしなさい。外したらすぐさま私に伝わる仕組みになってるから。わかった?」


 プライドをズタズタに傷つけるだけでなく、首輪まで着けようというのか。

 どこまで性根がねじ曲がっているのだ、この女は。


 だが……逆らえない。

 レオナは人間族最強の勇者。魔力で強化された剣技は、大の男でも敵わない。


(くたばれクソアマ……!)


 カイルは屈辱を堪えながら、左手の中指に指輪を嵌めた。

 

「……嵌めたわね? 確かに嵌めたわね? 絶対に外すんじゃないわよ。じゃ、さっさと立って。ほら立って。出てってよ早く!」


 無理やり立ち上がらせたかと思うと、そのまま野営地から叩き出された。

 冒険者として男として、最低の別れ方だった。




 あれからどれくらい歩き続けただろう。

 山道を下りながら、カイルは途方に暮れていた。

 ここは魔王城の前に広がる、闇の森と呼ばれる場所。

 俗な言い方をすれば「ラストダンジョン」だ。

 

 そんなところにかつての仲間を置き去りにするなんて、とんでもない女だと改めて思う。

 呆れながら空を見上げると、既に日が昇り始めていた。


 追い出された時は夕方だったから、徹夜で歩き通したことになる。


 ……レオナ達は今頃、魔王と一戦交えてるのだろうか。

 まあ、もう仲間でもなんでもないのだから、気にかける必要などないのだが。

 

 今のカイルにできるのは、可能な限りモンスターとの遭遇を避けながら町に戻ることだけ――


「……ん?」


 と。

 魔物除けのポーションを取り出そうとしたところで、急に左手が光り始めた。

 レオナに渡された指輪が、激しく発光しているのだ。

 何が起きているのだろう? 


(まさか爆発したりしないよな?)


 怯えながら指輪に触れると、ポン! と巻物が出現した。

 魔法の巻物マジックスクロール。おそらくこの指輪に封印されていたものだ。

 一定の時間が経つと呪文が発動し、実体化する仕掛けになっていたのだろうが……。


(レオナの仕業か?)


「あんたちゃんと指輪嵌めてるでしょうね? 遠眼鏡で見張ってるんだからね」とでも書いているのかもしれない。

 最悪、遠距離から魔法でお仕置きされかねない。レオナならありうる。


 カイルは大慌てで巻物に目を通した。

 そこに書かれていた内容は――

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