第8話 クラスメイト
そそがれる視線をたどってみると、電柱の影に身をかくす一人の生徒を見つけた。ぼさぼさした量の多い髪の毛が印象的な女の子で、片方の目に眼帯らしきものをしている。
『なあ、あの子こっちを見ているぞ』
「クラスメイトの神無月佐代子ちゃんだ! あんまり話したことないけど……もしかしてボクに用かな?」
そういってすぐに駆け寄るシンシアだが、佐代子という子は近づくにつれて縮こまってしまった。声をかけてもモジモジして顔を合わせようとしない。一体どうしたんだろう?
「佐代子ちゃん?」
「ひぃ……あの、おぉ……あぅ……はぁぁぁ~~~~ん……」
かろうじて反応するのがやっと、といった様子。まるで小動物のようだ。
『なんか様子が変だな……』
すると神無月さんは突然両手を突き出し、全身がカクカクしたポーズをとって叫んだ。
「すすすすすす昴シシシシシシシンシアさん、昨日のデュエル拝見しました! 超・絶! 推させていただいております~~!!」
「ほんと? ありがとう!」
「うひぃぃぃぃぃ! もうダメです~~~~デュエルスペース展開!!」
「えっ!?」
次の瞬間、俺たちは光に包まれた。光が消えて暗闇が、そして闘技場の風景がたちまち形成された。
『この子、デュエリストだったのか!?』
「佐代子ちゃんすごい……先輩デュエリストが同じクラスにいたなんて、ボク知らなかったよ!」
「そ、そのようなお言葉、ありがたき幸せぇぇぇ! っていうか、すみませんすみません! テンパってスペース展開しちゃいましたすみません! もうすぐ登校時間なのにすみません!」
観客席には100人を超えるアバターが次々と現れはじめた。彼女にはある程度のフォロワーがいるらしい。シンシアは……昨夜の時点で3人だ。両親をのぞけばひとりだけ。
「もしかして、昨日ボクをフォローしてくれたの佐代子ちゃん!?」
「は、はいそうですっ! ほんとにたまたまだったんですけど、男の子っぽい恰好してましたけど、間違いなくシンシアさんだと思いまして! ああ~まさかデビューの瞬間に立ち会えるとは幸福の絶頂でして!」
《デュエルまだー?》
《朝から元気だね》
《佐代子ちゃんテンション高くない?》
《相手の子は誰?》
「ハッ! あぅ……この空気、どうすれば……ぷしゅう~~~~……」
「デュエルでしょ!」
『即答かよ!』
《お、はじまる!?》
《昴シンシア見たけどデビューしたばっかじゃん》
「見るのも遊ぶのも楽しむのがデュエル。ここでやめたらみんなもガッカリしちゃう。ね、やろうよ?」
「はふぅ……ほんと推せる……だいしゅき……」
こうして朝一番のデュエルが始まった。
【神無月佐代子 対 昴シンシア デュエル開始!】
【神無月佐代子のライフポイント:4000】
【昴シンシアのライフポイント:4000】
「ボクの先攻、ドロー! まずは《舞いおりたひらめき》を発動! デッキからカードを2枚引く!」
――――――――――――――――
【舞いおりたひらめき】
マジックカード(即時)
あなたはカードを2枚ドローする。
――――――――――――――――
手札を増やせるマジックカード。単純だが確実なプラス効果をプレイヤーにもたらす。手札がまったく冴えない状況――俗に”事故”と呼ばれる――はデュエリストなら誰でも恐れるもの。いくら強力なカードを持っていても、コンボを組み込んだとしても、”運”が悪ければどうしようもないからだ。
「フクロウ男を召喚してターンエンド!」
「わ、私のターン……《生前葬》です……」
――――――――――――――――
【生前葬】
マジックカード(永久)
このカードがフィールドに出たとき、手札からゴースト・モンスターを1枚選んで下に重ねる。このカードがフィールドから墓地に送られたとき、重ねたゴースト・モンスターを表にして特殊召喚する。
――――――――――――――――
「さらに”ストレンジャー・レイス”を召喚して……終わります」
――――――――――――――――
【ストレンジャー・レイス】
モンスターカード:ゴースト
攻撃力:200 防御力:1500
――――――――――――――――
「佐代子ちゃん、もしかしてゴーストデッキ?」
「あ……その通りでございますぅ……ふあぁ~、さすがシンシアさん……」
佐代子のデッキはゴーストを主軸としたデッキらしい。多くはマジックカードを使ってトリッキーな動きを見せるが、果たしてこの子はどう出る? こちらはまだまだスターターデッキから大きく変わっていない。守備力800ならフクロウ男の攻撃で倒せるが……油断できないな。
「ボクのターン、ドロー!」
「す、すみませんマジックカードぉ……出します」
『なにっ!』
――――――――――――――――
【憑依爆破】
マジックカード(消費)
追加コスト:あなたのフィールド上にあるゴースト・カードを1枚生贄にささげる。
フィールド上にあるカードを1枚選び、それを破壊する。
――――――――――――――――
《来たぞ黄金コンボ》
《お 待 た せ し ま し た》
観客の投稿が増えていく。デュエリスト佐代子の得意なコンボが来るようだ!
「佐代子ちゃん、このターン攻撃してくるフクロウ男を――!?」
「違います……”生前葬”を破壊します」
『……そうか! 生前葬の下にあるカードを特殊召喚するつもりだ!』
「生前葬が墓地に送られたので、特殊召喚……」
《キター!》
《これ大丈夫なの?》
《これを見に来た》
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