訴訟

和田いの

はじめての裁判

登場人物紹介

佐藤

僕。23歳 小学5年生から不登校の筋金入りプロニート。学歴は無く、育ちは極貧、虐待経験もあり片親etcという役満人生を送ってきたとは思えないほど声が大きく饒舌。 口喧嘩が好きで口論をして負かす事で愉悦を覚える。できれば殴り合いの喧嘩がしたいと思っている。実際に殴り合うためだけにネットの人と河川敷で会い、初対面で格闘したことがある。メンタルを鍛えるために自分のうんこを食べまくっていた時期がある。


Nana

21歳の元女子大生のニート。大学進学にあたって地方から東京へと上京をしてきたが、ヘルニアを患い歩行すら困難な状況になり、大学を退学。彼氏と同棲中。


ユース

脳脊髄液減少症。起きた態勢が3時間以上続くと頭痛や熱が出る。なので常に寝た態勢で通話をしている。知的障害者の弟を撮影してウケ狙いでYouTubeに動画を投稿していた。発展場に行っておっさんにちんこをしゃぶられたり、しゃぶったりしたことがある。ネット上の通話グループこのおわの作成者。


ひなせ

小学生の頃5歳の女児に手マンした男。ADHD、ASD、アトピー、白内障、海鮮アレルギー。新潟住み。

以上は2020年の7月時点でのプロフィールで、今現在とは若干の違いがある。





僕の話はDiscordと呼ばれるアプリにまつわる話が多い。Discordというのは通話アプリで、複数人での通話が可能で、LINEグループのようにコミュニティを作成することも出来る。

僕はニートやフリーターといった底辺が集まるコミュニティに参加をしており、暇な時はボイスチャットに上がって、愉快な友達と話している。

そのコミュニティのボイスチャットで話していると

「ニートや引きこもりの人って学校や職場がないから、出会いがないよね」

Nanaさんが唐突に僕に向かってそう言ってきた。馬鹿なことを言うなと僕は思う。

これだけ交通網が発達している世の中。僕は千葉に住んでいるが、1000円電車賃を払えば40分で東京駅につくし、東京や新宿渋谷池袋といった駅の周りには大勢の若者がいる。駅前にいる女性100人に連絡先を渡せば、一人くらいからは連絡がくるだろう。職場や学校がなくとも、行動力さえあれば出会いなんていくらでも作れる。引きこもりや無職には出会いがないのではなく、行動力がないだけなのだ。

ふざけたことを抜かすNanaさんに向って僕はそう言った。相当大きな声で相当な熱を込めて言った。たわごとを言うNanaさんに若干の怒りがあったからだ。

すると、空かさずNanaさんも僕に言い返してくる。

「そんなに強く言うのならば、実際にやってみてくださいよ。ニートで引きこもりのさとうさんは、行動力があって、出会いがあるんでしょ?自分でいったのだから当然やりますよね、やらなきゃ嘘つきですよ、さとうさん」

ボイスチャットに上がっていたのは、Nanaさんと僕だけではなく、他の人もおり、周りが僕にナンパをしにいくように煽り立ててくる。熱を込めて力説をした手前、引き下がることは出来ない僕。

「ああ、言ってやろうじゃねえか、引きこもりだろうがニートだろうが、出会いがあるってことを証明してやろうじゃねえか、見ておけよかすども。輝かしい俺の未来に眼に刻め」

こうして、僕はデートをしたことすらもないのに、ナンパを決行することになった。



Nanaさんに向って啖呵を切った時は、東京に行けば人が大勢いるといったが、僕の住んでいるところでも駅前にいけばそこそこ人がいる。わざわざ、東京へ行くのも面倒なので、最寄り駅でナンパをすることになった。

駅前でジャンプをして、ジャンプが止まらなくなった病気を装い、駅前でジャンプをし続ける。ジャンプが止まらなくなってしまった、肩を叩いてくれれば治るといって女性に近づき、肩を叩いてもらう。もしあなたが肩を叩いてくれていなければ、きっと僕は一生ジャンプをし続け、死んでしまっていただろう。あなたは命の恩人だ、今度鶴になって恩返しにいくから、連絡先を教えてくれないか?

ユーモアがあった方が、人の警戒心は解けやすいということから、最初はジャンプが止まらなくなった鶴作戦で連絡先を聞きだそうとしたが、ジャンプをしている僕には誰にも近づいてこず、マスクをしながらジャンプをするのはすぐに息切れを起こすことから、この作戦はすぐに終わった。

なので、一目惚れをしたのでよかったら連絡ください、これが連絡先ですと言ってインスグラムのIDを渡すナンパに途中から切り替えた。

当初は100人に連絡先を渡すといったものの、女性とデートすらしたことのない引きこもりニートの僕は当然緊張。結局3人にしか連絡先を渡すことが出来ず、その日のナンパは終わった。

コロナウイルスの影響でマスクをしている人が大半の世の中、しかも夜であまり顔が見えづらい状況で、一目惚れしましたなんて変かもしれないけど、他に良い方法が思いつかず、一目惚れ作戦を選んだ。

それから普通連絡先を渡すのならばLINEのIDだと思うが、LINEのID機能を使う為には年齢確認が行う必要があり、年齢確認を出来るのはauかソフトバンクかドコモの3キャリアだけ。格安SIMを使っている僕はLINEの年齢確認を行うことが出来ず、LINEのID機能が使えないのだ。なのでインスグラムのIDを渡した。


3人にしか連絡先を渡せずにナンパは終わり、後日またナンパしにいく必要があるだろうな、面倒だな嫌だなと思っていたところ、連絡先を渡した一人の女性からメッセージが届いた。


先日話しかけられた人です

気になったので連絡しました



ボイスチャットに上がり、周りに成果を報告する僕。

「ほら、言ったじゃないか、引きこもりであろうと、行動を起こせば出会いがあると。これで俺は自分の言ったことをちゃんと証明したな、連絡がきたんだから、これは出会いといっていいな、ほら俺の言ったことが正しかったじゃないか!」

声をあげて叫び、勝利に酔いしれる僕。しかし、周りの反応は意外にも冷たい。

「いや、それで出会いってなんですか。デートに行かなきゃ出会いじゃないですよ、デートにいってくださいデートに」

周りが口を揃えてそういうのだ。しかし、話が違うじゃないか、連絡先をゲット出来てメッセージが向こうから届けばそれで十分じゃないか。ましてやデートなんていこうものなら、金がかかる。無職で引きこもりの僕には金がないし、そもそも向こうからメッセージが届けば出会いとして認めるという話は、ナンパをしにいくという話をした時に、納得したじゃないかと、僕は反論をした。

すると周りの人間はこういった。

「たしかに、メッセージが届いたら出会いとして認めるとはいったが、じゃあ佐藤さんが連絡先を渡した女性の気持ちはどうなるの?佐藤さんが一目惚れしたといって連絡先を渡して、その女の子が嬉しい気持ちになって、メッセージをくれたわけでしょ。何もしないで終わりですか、女の子の気持ちをないがしろにするんですか、そんなの男じゃないね、デートにいけデートに」

当初は連絡先を交換できれば出会いとして認めると言っていたのにも関わらず、女の子の気持ちという話を武器にデートをしろと僕に言ってくる周りの人間。4対1くらいでデートに行けと僕は責め立てられた。

30分程断固として行かないと主張をした僕だったが、周りの人間があまりにもうるさかった。きっと、ニートで引きこもりで女性とデートをしたことのない僕を面白がっていた節もあったのだろう。しかし、あまりにもしつこかったので、条件付きでデートに行くことにした。

「分かった。デートには行く。しかし、僕からは誘わない。女性の方から会いましょうと言われた時には、その時には行くことにしよう。どうだ?それでいいだろ、これが譲歩出来る最大限だ」

周りは渋々納得する。こうして、女性の方からお誘いからあれば僕はデートをすることになったのだ。




誘われてしまった。まさか誘われるとは思っていなかった。誘われると思っていなかったからこそ、デートに行くと言ったのに、誘われるとは。

あまり嘘はつかない主義なので、デートに誘われたことを周りに正直に言った。

デートの予定は7月の19日。しかし、向こうに急用が出来てしまい、7月の25日に日付が変更になった。この延長された日数が僕にとってダメージだった。僕に考える時間を与えてしまったからだ。

まず僕は一目惚れをしたと言って、連絡先を女性に渡している。デートに行った時それを正直に女性に話すべきかどうか。僕は関係が発展することを望んでいない、もし気に入られてしまった場合僕は困る。デートにいくのはあくまで周りが行け行けとうるさく、条件付きでデートに行くことを呑んでしまったからであり、彼女を作ろうとなんて一切思っていない。というか、相手のこと全く知らないし、マスクしてて暗くて顔なんて見てなかったし、どんな人間かも知らないし、年齢すら分からない。

一目惚れをした男として食事をする時間は僕にとって苦痛だし、一目惚れをした男として振る舞い続けられる自信がなかった。だから僕は食事に行った時に、その女性に正直に全てを話そうと考えていた。それをボイスチャットでコミュニティの人間に話すと、これもまた猛烈に叩かれた。

お前は男じゃねえよ、女を悲しませるつもりかとか。今童貞を捨てないでいつ捨てるんだ、もうドブ川にでも童貞を捨ててこい雑魚とか色々言われた。でも、僕は一目惚れした男のふりを女性の前で続けるのは嫌に感じていたから、菓子でも持っていって謝罪しようと考えていた。

女性に好きなお菓子を聞いたところ、金平糖が好きだと言うので、謝罪の品としてAmazonで可愛めのお菓子を購入した。


また、引きこもりニートという職業柄生活習慣が常に不安定。予定の日にちゃんと行けるように生活習慣を整え、寝たくもない時間帯に寝て起きたくもない時間に起きる毎日。

白髪があることを話すと、清潔感がないから黒染めしろと周りから強く言われ、黒染めをする僕。

そんなこんなで、会う日程が延長されたことによって、空いた日数の中で僕は説教をされたり、生活習慣を整えたり、和菓子を買ったり、白髪染めをしたりと色々していた。

そしてついに約束の日の7月25日が訪れた。



約束の日時は7月25日の午後6時の駅前。僕は遅刻しないようにと、早めに家を出て約束の時間30分前には駅前についていた。僕はだらしない人間だけれど時間は守るタイプの人間なのだ。

女性が来るのを駅前で待つ僕。5時50分くらいなったところで、既に約束の場所についていることメッセージで女性に伝えると、分かりましたと返事がきた。そろそろ女性もくるらしい。

この時の僕は緊張していた。女性と二人で遊ぶことが初めてだから緊張していたんじゃないと思う。一目惚れしたという嘘をついて、一目惚れをした男として女性と会うことに緊張をしていたんだと思う。

普段僕が人とコミュニケーションをとるときは、おじさんのように汚い言葉とでかい声で話す。自分が引きこもりニートであることを自慢かのように、開けっぴろげに話し、自分のコンプレックスも隠さずに伝える。いつだって等身大の自分で生きてきた。

しかし、今日は一目惚れした男として女性と会う。正直にNanaさんと言い争いに発展したからナンパをしただけということを伝えるつもりでいたが、それを伝えるまでは僕は一目惚れした男。

それに、デートの最中はさすがにいつものキャラと違う自分でいなきゃいけない。ある程度大人で、落ち着いて話して、紳士な振る舞いをしなきゃいけない。そんな振る舞いをしなきゃいけないことに緊張をしていた。

待ち合わせ場所で目をつぶり、女性が来るのを待つ僕。寝不足のせいで頭がぼーっとしているのに、緊張のせいで心拍数は高くなっており、頭はぼんやりしているのに、胸には鋭い感覚がある。

こういうのは待っている時が一番つらい。実際に女性がきてしまえば、きっと緊張は解けていくだろう。しかし、6時を過ぎているのに女性はこない。6時10分になってもこない。先程までメッセージでやり取りをしてるから、そろそろ来てもいい頃合いなのに女性は現れない。約束の時間から30分過ぎても女性は現れない。



突然来れなくなったというメッセージが届いた。先程まで普通にメッセージでやり取りをしていたのに、どういうことだろうと思った。しかし、いくら待てどこないことが分かったので、僕は待ち合わせ場所から離れ、家に帰ることにした。

なぜ女性がこなかったのかは分からないし、冷やかしで騙されたのかと思ったら少し気持ちが落ち込んだ。しかし元々僕が一目惚れというのも冷やかしのようなものだから、人のことを非難する資格なんてありっこない。とりあえず家に帰って寝るか、眠いし。

僕は待ち合わせ場所から離れ、家に帰る為に歩き始めた。待ち合わせ場所から10メートルだろうか、20メートルだろうか、それくらい歩いたところで、後ろから腰を強く叩かれた。驚いて後ろを振り向く。

「さとうさん!さとうさん!きちゃいましたよ、デートはどうなったんですか!?」

僕の腰を叩いてきたのはNanaさんだった。唐突の出来事にたじろぐ僕。意味が分からない、どうしてNanaさんが僕の最寄り駅にいるのか、なんで僕の近くにいたのか、全く解せない。

「なんで!?なんでNanaさんがここにいるの!?」

僕は突然現れたNanaさんに驚き、駅前で大きな声をあげた。叫ぶくらい大きな声をあげたから、周りの人からの視線は当然集まる。恥ずかしく思ったのかNanaさんは僕の袖を掴んで僕を人気のないところに連れて行く。そこでNanaさんから事情を聞いた。

「さとうさん、ボイスチャットでデートの日程のこととか、どういう店にいくとか、ユースくんに話してたでしょ。ユースくんがその情報から推理して、さとうさんのデートの約束場所を割り出していたんだよ」

たしかに、僕はデートの大体の待ち合わせ場所を複数、人が上がっているボイスチャットで話していた。元々ナンパをしにいったのも、デートの約束をしたのも、通話での言い争いがきっかけ。だからボイスチャットでみんなの前である程度のことは話してしまっていた。続けてNanaさんがこう話す。

「ユースくんからね、さとうさんは大体この時間のこの辺りにいるだろうから、ストーカーしてきてって頼まれたんだよ。ほら、さとうさんデートとかしたことないでしょ、そんなさとうさんがデートしている姿は面白いからって。それで面白そうだから、今日わざわざさとうさんの最寄り駅まできたんだよ。でも、現れるはずの女性は現れないし、さとうさんが約束の場所から離れようとしているから、声をかけたって訳」

僕の待っている姿はNanaさんに隠し撮りされており、その映像は通話グループ上で配信されていた。どうやら僕が参加しているコミュニティの人間がそのライブ映像を見て、立ち尽くす僕を見て笑っていたようだ。

まさか、ストーカーのようなことをするとは思っていなかったから、大体の約束の場所を通話で話してしまっていた。さすがに現地に来るとは思わなかった。Nanaさんはヘルニアを患っており、最近腰の調子が良くなったとはいえ、まだヘルニアは完治しておらず、長い距離は歩けない。そんな人間が人のデートをストーカーする為に、わざわざ遠くから足を運ぶなんて。しかし、まだ話には続きがあった。Nanaさんは続けてこう話す。

「実はね、今日ここにきたのは私だけじゃないのよ。もう一人きてるの」

そういうとNanaさんは手である方向を指す。Nanaさんの向けた手の先には、帽子を目深に被り下を向く男性がいた。Nanaさんと一緒にその男性の近くへと行く。その男性の正体はひなせだった。彼は新潟に住む大学生。Nanaさんが事情を話す。

「私だけでさとうさんを見に行くのは心細かったから、ひなせにも来てよって頼んだの。そしたら夜行バスにのってわざわざ千葉まで来てくれたんだよね」

意味が分からなかった。わざわざデートをする僕を後ろからつける為に、新潟から来たというのだ。ひなせは大学の単位が危うく、留年をするかもしれないと語っていたのに、どうして新潟から千葉までこれるのか。

しかし、僕はその時二人を問い詰める元気もなかった。それに女性が現れなかったショックもあったし、二人に突然会った驚きもあったし、睡眠不足で頭も冴えていなかった。また、立ち尽くす僕をライブ配信されていたという恥ずかしさもあり、色々な感情が混ざり何が何だが分からなかった。

駅前を後にした後、さとうを慰めるという名目で、3人でタピオカを飲みカラオケに行き、その後餃子を食べにいった。もちろん僕は金を払っておらず、奢ってもらった。


家に帰ってきたからその次の日、僕はよくよく考えたらおかしいことに気付いた。そもそも僕のことを盗撮してライブ配信するのは、知り合いということがあっても冗談じゃ済まない。悪ふざけにも程がある。

ましてや、女性がこなかったからよいものの、女性がきていたらどうしていたのか。もし女性がきて予定通り僕と食事に行っていたとしたら、彼らはそれを撮影した上にライブ配信していたはずだ。

僕は彼らと知り合いだが、僕が約束をした女性は彼らと知り合いじゃない。もし尾行と盗撮が女性にばれた場合、僕まで女性から疑いの目で見られる。尾行をするのまでは良いとしても、ライブ配信はまずいだろう。一体何を考えているのか。

僕は指示役のユースを問い詰めた。すると、おかしなことを言い始める。

「女性がきていたら関係のない人物を巻き込むっていうけど、女性はこないよ」

ユースは女性がこないとはっきりと言い切る。まるで未来を見通していたかのごとく。しかし、ユースは超能力者じゃない、未来を見通せる訳がない。

「くるかこないかは、お前に分かることじゃないだろう。結果としてこなかっただけで、来ていたらお前らは盗撮をし続けたんだろう。ふざけるな、もしバレて俺までグルだと思われたらどうしたんだ。冗談で済む話じゃないぞ、どう落とし前をつけるつもりだ。未遂であろうと、許さんぞ」

この時の僕は相当怒っていた。そもそも人のことを勝手に撮影しておいて、ごめんの一つもなく、一歩間違えれば関係のない人物を巻き込み、バレたら僕までグルに思われ、面倒なことになる。人のことを盗撮してつけまわしたいなら、僕と関係のないところで勝手にやれ。僕はそう思った。

しかし、僕が問い詰めてもユースは絶対に女性がこないという主張を変えようとしない。話は水平線をたどる。頑なに、女性はこないのだから、こなかった場合の話なんてしても意味がないとばかり言う。

「なぜ、そこまで分かるんだ。言ってみろ、根拠があるなら言ってみろ」

「じゃあ正直に言うよ、あれ俺なんだよ、あの女性俺。3年前に作ったちょうどいいネカマアカウントがあったんだよ。3年前から写真の投稿をしていて、フォロワーもフォロー数もちょうどいい数のインスタグラムのネカマアカウントを持っていたんだよ。さとうはさ、インスタグラムのidが検索にちゃんとヒットするかどうか、俺に検索させたでしょ。あの時インスタグラムのIDを知ったんだよ。でさ、後日になってNanaさんから提案されたの。さとうは3人にしか連絡先を渡していないから、メッセージなんてこないだろうと。なら、俺の持ってるネカマアカウントを使ってメッセージを送れば、いい感じに騙せるんじゃないかとNanaさんに言われたんだよ。面白そうだったから実行した」

一連の事柄の全貌が明らかになった。当初は真実は隠した方が都合が良いとユースは思っていたそうだが、僕があまりにも問い詰めるものだから、全てを話したそうだ。

当初ユースが指示役だと思っていたが、実の指示役はNanaさん。予定の日が19日から25日に伸びたのは、ひなせが新潟から来る為の夜行バスの都合。

インスタグラムのアカウントがネカマアカウントであることは、ユース、Nana、ひなせの3人の中だけでの秘密。

僕がボイスチャット上でデートの予定について話していたから、約束の場所が分かったというのは当然嘘で、本当の理由は、僕とインスタグラムでやり取りをしていたから。

つまり僕はまんまと釣られて、22歳の無職の男のニートとインスタグラムでデートの約束をして、ありもしないデートの為に生活習慣を整え、謝罪の為の菓子まで用意していたという訳だ。

3年前から写真が投稿してあるネカマアカウントなんて気づける訳がない。

一連の事柄の全貌が明らかになったのだから、普通は謝罪の一言があって当然だと思うが、3人は一切謝罪の言葉がなく、むしろ傲慢な態度を僕に取ってくる。

反省するでもなく、謝罪するでもなく、むしろ偉そうな態度で、開き直るような口調の3人。謝罪の一言でもあれば僕の気も治まったと思うが、それすらなかった。



一切謝らない傲慢な態度に耐えきれなくなった僕は法的な手段をとることにした。都合良く彼ら3人の住所と本名は以前から知っており、僕に対して行った一連の嫌がらせについての証拠もある程度確保していた。

まず手始めにこの事件の指示役で主犯者であったNanaさんを訴えることにした。調べてみると民事訴訟の手続きは、素人の僕でも十分一人で出来ることが分かった。弁護士を雇えば金がかかるが、僕でも十分できそうだし、それになにより自分で手続きをした方が面白そう。

僕は証拠を固め訴状を作成していく。

裁判にはいくつか種類があるのだけれど、僕が起こしたのは少額訴訟と呼ばれるもの。

通常の民事裁判は手続きが複雑であり、また審理が始まって判決が出て、裁判が終わるまで1年や2年はざらにかかる。たとえ10万円程度の請求だったとしても、面倒な手続きを踏んだ上に時間をかけて裁判をしなければいけないのだ。

その問題を解決する為に出来た制度が少額訴訟。60万円以下の請求額であれば、面倒な手続きを省け、審理から判決までが1ヶ月程度で終わる。

だから僕はNanaさんに対して最大60万円の請求をすることが出来たし、実際内容からしてとろうと思えば60万円とることも出来たはず。

しかし、実際に僕が訴状書いた額は1円。人間の怒りは時間が経てば冷めていくものであって、訴状を書いている時はもう僕はNanaさんに対して然程怒ってはいなかった。訴える旨を伝えた時に謝罪はされている。

そして実はNanaさんには婚約者がいる。ヘルニアを患って苦しんでいる時に出会った彼氏で、Nanaさんは今はその彼氏と同棲しており、Nanaさんのヘルニアが治った辺りで結婚することになっているのだ。

もし僕が60万円も請求しようものなら、Nanaさんは金銭的に困り、訴えられたことや嫌がらせをしたことを彼氏に話さなければいけなくなるかもしれない。そうなれば結婚の話もなくなってしまうかもしれない。

さすがに、それは可哀想に思い、当初は少額訴訟の満額の60万を請求するつもりでいたが、熱も冷め謝罪もされたので、請求額は1円にした。訴えないこともできたが、裁判を体験してみたいので1円で訴えることにした。


コロナウイルスの影響があり、裁判が開かれるまで3ヶ月の時間がかかったが、Nanaさんと僕との間で起きたことはこれで解決した。

裁判は5分くらいで終わった。裁判長が罪状を話し、Nanaさんが僕に1円を渡して終わりだった。僕はどうしても「有罪!」と裁判長が言うところを見たかったので3分くらい頼んだがだめだった。


さて、ユースとひなせについてだけれど、この二人からは未だに謝罪も受けておらず、また僕は訴訟を起こしていない。

まず最初にNanaさんを訴え終わってから、次にユースとひなせをと思っていが、熱が冷めてしまったこともあり、なあなあな状況が続いている。

ユースに関しては次僕に嫌がらせをしてこようものなら、過去全て含めて訴えるつもりでいる。しかも全部別件で。あいつが僕に働いてきた悪事は結構な数に上り、それらをまとめて訴えるのは効力があまりない。なので、次嫌がらせをしてきたら全て別件で訴えてやるつもり。


ひなせに関してだが、彼は今回の件とは関係のないことで、僕に対して嫌がらせをしてきたので、検察に告訴状を書いたけれど、刑法の名誉毀損には該当しないと言われてしまった。

ひなせがYoutubeに投稿した動画は、佐藤は犯罪者であるという内容の動画で、僕の名前と画像が使われている。これは名誉毀損だろと思って告訴状を出したのだけれど、検察官いわく「明らかに冗談で嘘であるということが分かるから、名誉毀損には当たらないんだよね」とのことだった。

告訴状を書き直しても、構成要件該当性がないので、結局弁護士に相談しても無駄なので、この件で告訴するのは諦めた。

ということで、この辺りでおわろうと思う。この3人に対してまだまだ書ききれていないことがある。詳しく知りたい人は、このおわで検索してdiscordグループに来て直接3人と話してほしい。

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訴訟 和田いの @youth4432

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