第七話 メリュジーナの事情

 サクラが城の事情を話し、宰相たちのしていることを止めるのに協力を求めると、メリュジーナさんは拒んだ。


「どうして協力をしてくれないのですか! あのお城は、メリュジーナさんにとっても、大切な城ではないですか! 私の知らない思い出とか、たくさんありますよね!」


 協力を拒むメリュジーナさんに対して、サクラは声音を強めて詰め寄る。


 彼女の迫力に気圧されたのか、メリュジーナさんは目を逸らした。


「待ってくれ。確かに協力はできないが、それにはちゃんとした理由もある。わたしの話しを最後まで聞かないで、感情に流されて行動するのは愚かなことだ」


 メリュジーナさんが話しを最後まで聞くように促す。だが、それは彼女にも当て嵌まることだ。マヤノの額にあった奴隷契約の証を見た途端に、理性を失って攻撃してきたのだから。


「ママ、それって、ママも言えないよ。マヤノの話しも聞かないで、勝手に暴走してフリードちゃんを殺そうとしたじゃない」


 親子だからなのだろう。マヤノが遠慮なしにブーメランであることを告げた。すると彼女の言葉を聞いたメリュジーナさんは、頬を赤くして気まずそうにする。


「ゴホン。えーと、話しを戻すが、わたしは宰相たちの行いを止めるための手助けはできない。その理由は魔力の枯渇だ」


「魔力の枯渇ですか?」


 協力ができない理由をメリュジーナさんが答えると、サクラが小首を傾げる。


「ああ、先ほどの戦闘で思った以上に魔力を使ってね。年のせいでもあるかもしれないが、満足に魔法を発動するための魔力を回復するまで、時間がかかってしまう。今のわたしはか弱い女性にすぎないからね。簡単に兵士に捕まって足手纏いになる」


「それって、ママが先走ってフリードちゃんを攻撃しなければ、起きなかったことじゃない。どうしてそんなことをしてしまうのよ。バカ、バカ、バカ!」


 マヤノが両手をグーにすると、母親を叩く。


「いたた。マヤノちゃんごめん。まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかったんだ」


 娘に叩かれながら、メリュジーナさんは謝罪の言葉を述べる。


 このやり取りを見る限り、どうやらメリュジーナさんはマヤノに弱いみたいだ。まぁ、1人娘だろうし、母親からしたら、大切にしたい存在だろうからな。無闇に反撃に出て、親子喧嘩を起こしたくないのだろう。


「あのう、メリュジーナさん。話しは変わるのですが、どうしてお城を出て行ったのですか? あの城はあなたにとっても大切な場所で、そう簡単には出て行くとは思えなかったのですが?」


 話題を変え、サクラがどうして城を出て行ったのか、その理由を訊ねる。


 確かマヤノの話しでは、メリュジーナさんは追放されたと言っていた。でも彼女は、ドラゴンに姿を変えることができるほどの力を持っている。その力を行使すれば、宰相たちを黙らせることができると思うのだが?


「それは、本家であるルナの子供側の人間を守るためだ。わたしのような化け物がいつまでも居れば、君や母親への風当たりが強くなる。そう思ってマヤノを連れて城を出た。だけどこんなことになっているのなら、マヤノだけでも残して居れば良かったと後悔しているよ」


「そうだったのですか。でも、メリュジーナさんは化け物ではありません。大切な家族です!」


 サクラが真剣な眼差しでメリュジーナさんを見ながら声を上げる。


「ありがとう。ルナの子供や孫は本当に良い子だね。でも、わたしの本当の正体はフェアリードラゴン。半竜半妖の化け物であることには変わらない。たとえ人の姿になることができても、人間とはまた違うんだ。いくら王族が安心だと言っても、わたしが恐ろしいと思う人が多ければ、それが連鎖してわたしの存在が認知される」


 確かに、人間と言うのは自分と同じ考えが多い方が正しいと思ってしまう。いくら権力のある者が安全だと言っても、人々の心の奥底では、危険や危ない存在などが根付いてしまう。


 その後、サクラは次の言葉が見つからないのか、口を噤んでしまい、この場に沈黙が訪れる。


「さぁ、暗い話しはこの辺りにして、今度は明るい話しをしよう」


 この静寂な空気を吹き飛ばすかのように、メリュジーナさんは一度手を叩き、笑みを浮かべる。


「確かに、今のわたしは戦力にはならない。だけど、わたしよりもとても強い人を知っている」


「ママよりも強い人! そんな人がいるなんて知らなかったよ。どんな人なの?」


「とても頭が良くって、魔力も高い。下級の魔法でも、通常の3倍の威力を発揮することができるよ」


「へぇーそんな人がマヤノの他にもいるんだ。確かにその人の協力を得ることができれば、宰相たちを倒して、これ以上お城の物を待ちだされるのを阻止できるね」


 自身の顎に人差し指を置き、マヤノは言葉を連ねる。


 どうやら彼女は気付いてはいないようだ。


 俺の知る限り、そのような芸当が可能な人物は、1人しか思い至らない。おそらくメリュジーナさんの言っている人物は、マヤノのことだろう。


 俺と同じ考えに至ったのか、サクラもマヤノに視線を送る。


「あれ? どうしてみんな、マヤノのことを見ているの?」


「マヤノ、本当に気付いていないのか?」


「頭が良くって3倍の威力を発揮できるほどの魔力を持っているのって、マヤノちゃん以外いないよ」


 俺たちが気付くように促す。すると、マヤノはびっくりしたようで、その場で軽く飛んだ。


「えー! マヤノなの!」


 驚いた彼女は、母親に顔を向ける。


「そうだ。今、わたしが言った人物は、マヤノちゃんのことだ」


「う、嘘だよ! だって、マヤノは今までママに勝ったことなんて1回もないんだよ! ママよりも強くないよ!」


 母親の言っていることが信じられないようで、マヤノは抗議した。


「あれは母親としての意地だ。簡単に娘に負けては、親としても面目がないからね。最後は根性で勝たせてもらっているが、これから更に成長すれば、いずれわたしは手も足も出せないだろう」


「ママからそんな風に思われていたなんて」


 母親の言葉を聞いたマヤノは、頬を赤らめて両手を頬に当てる。


「マヤノちゃんなら大丈夫さ。だって君は、異世界の転生者の生まれ変わりであるテオと、フェアリードラゴンであるわたしの娘だからね」


「そうですよ! 私は4分の1しかないですが、マヤノちゃんはテオお爺様の血を半分はあるのですから?」


 メリュジーナさんとサクラの言葉を聞き、俺は違和感を覚える。


 あれ? 何だかおかしくないか?

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