第四話 フェアリードラゴン戦

 さて、ここからどうしようか。マヤノが魔法で攻撃をする度に、メリュジーナさんは俺が強制的に戦わせていると勘違いをして、怒りのボルテージを上げている。


 マヤノの手を借りることなく無力化させるには、どのようにするのがベストなのだろうか。


『こいつで骨も残さずに消し炭にしてくれる!』


 メリュジーナさんが、息を大きく吸い込んで口を開ける。


 このモーションは、恐らく火炎攻撃が来ると見ていい。


 彼女の攻撃を読み、その場から横に飛ぶようにして跳躍をする。すると、その1秒後にはメリュジーナさんの口から炎が吐かれ、先ほどまで俺が立っていた場所を焼き尽くす。


『何! わたしの攻撃が読まれた!』


 咄嗟に攻撃を躱したことが、彼女にとっては予想外だったみたいだ。一発で仕留められなかったことに対して驚いている様子だが、攻撃のモーションを見れば、ある程度の予測を立てることはできる。


 マヤノの母親だから、それなりに知力はあると思う。でも、今は怒りで冷静さを失っていることで、そのことにも気付けていないみたいだ。


 分かりやすいモーションなら、今のところは攻撃を避けることは容易だ。でも、いつフェイントを混ぜた攻撃が来るとも限らない。


 メリュジーナさんの攻撃を避けていれば、いずれ疲れて隙が生じるかもしれない。だけどそれは、俺にも言えることだ。


 早い段階で攻撃に転じる手段を見出さなければ、俺の方が先に体力が尽きる。


「フリードちゃん!」


 手段を模索している中、マヤノが声をかけてきた。


「どうした?」


「ママは予想外の攻撃に弱いよ! パパがママに勝ったときも、予想外の攻撃で倒したって言っていた」


 予想外の攻撃? それってどんな?


 マヤノからのヒントから、メリュジーナさんの無力化の方法を思案していると、脳裏にマヤノの過去の記憶が映り出す。






『ねぇ、ママ? ママはいつもパパの言うことに従うよね?』


 幼いマヤノが、薄い水色のロングヘアーの女性に声をかけた。


 あれ? でも、彼女は人間だ。それに見た目もなんだかマヤノに似ている。きっと彼女が本当の母親なのだろう。


『それはそうだよ。だってご主人様マスターの言うことは、ほとんどが正しいことばかりだからね』


『でも、間違っている時は止めるんだよね?』


『それはそうだよ。わたしはあの人には、間違った道を進んで欲しくない。まぁ、力尽くで止めるにしても、勝てるとは思えないけれどね』


 マヤノの問いに母親は苦笑いを浮かべながら答える。


『あの人は本当に凄いよ。この世界の常識を簡単に覆す。わたしが初めてご主人様マスターと戦った時なんか。わたしのウォーターポンプを、ファイヤーボールで相殺してしまったからね』


『あの中級魔法を、下級魔法で相殺したの! 凄い! しかも魔法の相性からしても、絶対に不可能なのに!』


『ああ、本当に凄い人だ「炎が水を打ち消すのは、炎の発熱量を冷却効果が上回ったときだけ。水は100度に達すると、水の水分子は活発に動いてバラバラになる。だから炎は残り続けると言う訳だ」と言って、魔法の水を水蒸気に変えてしまったからね』


 水の中級魔法が下級の炎魔法に打ち負けた? 彼女の言っていることの意味は分からないが、そんなことが可能なら、確かに相手の意表を突くことができそうだな。


『その後は散々だったよ。常識を覆されたことで、わたしは動揺してしまった。その隙を突かれて弱体化の魔法をかけられ、肉体強化で強くなったご主人様マスターに吹き飛ばされてしまったからね』


『そ、それは凄いね。だって、パパが初めて会ったときのママって――』


 我に返ると、俺の視界には再び息を吸い込むメリュジーナさんの姿が映り出す。


 ここで記憶が途切れてしまったか。でも、今の記憶はとても参考になった。これなら、メリュジーナさんの意表を付いて攻撃を行い、彼女を無力化させることができるかもしれない。


 でも、俺の魔力で同じことができるのか?


『大丈夫だ。君ならできる。ようはイメージだ。鍋をグツグツと煮込むと、上の方に湯気が出るだろう? あんなふうにイメージして魔法を発動すればできる』


「!」


 なんだ! 今の? どこからか、とても優しい声音の男性の声が聞こえてきた。


『今度こそ当てる!』


 再び俺に向けて火炎が放たれた。だが、吐かれる息吹は直線状に突き進む。左右のどちらかに飛べば、回避することも可能だ。


 右に跳躍して再び彼女の攻撃を避ける。


『やはり、火炎では避けられるか。なら、これならどうだ! ウォーターポンプ!』


 メリュジーナさんが魔法を発動すると水が出現する。その水は筒状となり、一気にこちらに向けて放たれた。


 来た! このチャンスを逃してたまるか!


「ファイヤーボール!」


 水の魔法に対抗してこちらは炎の魔法を発動する。


『アハハハハ! どうやら気でも狂ったようだな。水に対して炎で対抗するとは、魔学を知らないボンクラめ!』


 勝ちを確信したのか、メリュジーナさんは俺のことをバカにする。


「あれ? メリュジーナさん、もしかして忘れているの? 魔学を覆すことができる学問の存在を?」


『魔学を覆す学問……そんなばかな! あれはその辺の奴隷使いが知っているものでは!』


 メリュジーナさんが驚き、目が大きく見開かれた。


 よし、動揺している。ここから一気に決めさせてもらう!


「いっけー」


 右手を突き出した瞬間、火球が水の塊に触れる。すると火と水の境目に水蒸気が現れ、周囲に散らばる。


「魔学の常識は化学で覆すことができる!」


『どうしてお前なんかがそれを知っている!』


 メリュジーナさんが驚きの声を上げる。


 さて、これで第一段階は終了だ。第二段階に移行する。

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