第三話 フェアリードラゴンのメリュジーナ

 走り出したマヤノを追いかけ、地下空間内を走っていると、開けた場所に漆黒のドラゴンが居るのを発見した。


「ドラゴン? いや、それにしては変だ。翼が妖精の羽になっている」


 不思議なドラゴンを目撃する中、マヤノはゆっくりと近付く。


 するとドラゴンの方もこちらに気付いたようで、顔をマヤノの方に向けると、大きな口を開けて鋭利な牙を剥き出しにする。


「マヤノ!」


 このままでは彼女がドラゴンに食べられてしまう。


 そう思ってしまい、気が付くと地を蹴って飛び出していた。


『おや? マヤノちゃんじゃないか? お使いを頼んでかなり時間が経ったけれど、いったいどこで道草を食ってたんだい?』


「ママ、ただいま! ごめんね。ちょっとトラブルに巻き込まれてしまって」


 呑気に会話をする声が耳に入った途端、一気に気が抜けてしまい、その場で転倒してしまいそうになる。


 だが、どうにか踏ん張ってその場に止まることができた。


『おや? お客さんかい?』


「うん! 外で知り合ったフリードちゃん」


『そうか。娘が世話になった。わたしの名はメリュジーナ。フェアリードラゴンのメリュジーナだ』


「フェアリードラゴン」


 フェアリードラゴンって、世界史の教科書に乗っていたな。数十年前、この国に魔王が訪れたときに、当時の王子のパートナーがフェアリードラゴンだった。


 そしてフェアリードラゴンと言うのは、ドラゴンと妖精の混血児、半龍半妖だ。ドラゴンの力強さと膨大な魔力を持っており、通常の龍種は使えないはずの魔法を使用することができるとか。


 それにしても、フェアリードラゴンとマヤノが親子関係だったとは、きっと何かのきっかけで、親子関係を結んだのだろうな。


「ちょっと、フリードちゃん! 勘違いをしていない? マヤノとママは血が繋がっている本当の親子だからね!」


 考えていたことが顔に出ていたのか、マヤノは少し不機嫌そうに頬を膨らませ、目を若干釣り上げていた。


「え? 血縁関係にあるって?」


 いや、いや、いや、嘘だろう? フェアリードラゴンと人間の女の子が、血縁関係にあるなんて聞いたことがない。考えられるとすれば、血の譲渡。


 きっと、マヤノは瀕死になったことがあって、その時にメリュジーナさんに輸血をしてもらったんだ。


 その時にドラゴンの血が混ざってしまったから、そんなことを言ったのだろう。


 こんがらがった頭を無理やり納得させるために、即興でストーリーを作り上げる。


 こうでもしない限り、一気に色々なことが起きて、頭の中がパンクしそうになる。


「その顔は信じていないね! マヤノは嘘をついていないのだから! 本当なんだから!」


 またしても思ったことが顔に出てしまったみたいだ。俺の顔を見たマヤノは、その場で跳躍をすると怒っていることをアピールする。


 彼女がその場に跳躍すると、振動に合わせて前髪が浮き、額が顕になる。


『マヤノちゃん! その額の紋様はまさか! 奴隷化の紋様!』


 マヤノの額にある奴隷化の紋様を見てしまったらしく、メリュジーナさんが声を上げる。


「あ、これね。フリードちゃんが――」


『おのれ! わたしの最愛の娘を奴隷にするとは! 許さない! 貴様を殺して娘を解放する!』


 マヤノが額の紋様のことについて話そうとすると、メリュジーナさんは声を荒げて娘の言葉を遮る。


 大きな目は血走っており、一気に殺意を向けられる。


「ママ! 待って! これには事情が!」


『許さない! 奴隷化の能力を持っている人間はクズだ! 犠牲者が増えない内に、わたしの手で仕留める!』


 マヤノが説得を試みようとするも、怒りと興奮で娘の言葉が耳に入ってこないようだ。冷静になる様子はなく、益々殺気が強くなる。


 こうなってしまった以上は、何を言っても彼女は聞く耳を持ってはくれないだろう。


 勝てるかどうか分からないが、ここはメリュジーナさんを行動不能にさせ、冷静さを取り戻してもらうしかない。


 チラリと後方を見る。俺の後を走って追いかけていたはずのサクラがいない。数秒の間に彼女に何かが起きたのか?


 サクラのことも気になるが、今はこの状況を打破しない限り、どうしようもない。


「マヤノ、君の母親を落ち着かせる。少し手荒いことをしてしまうけれど良いか?」


「うん! マヤノの話しをちゃんと聞いてくれないママなんて大嫌い。だからやっちゃって! マヤノも協力するからシャクルアイス!」


 マヤノが魔法を発動した瞬間、メリュジーナさんの足元にある空気中の水分が集まり、水が形成される。そして足に密着すると、気温が下がったようで、氷へと変化した。


 ゼッペルの時に使ったものよりも遥かに威力がでかい。つまり今のマヤノは手加減をしていない状態だ。


 彼女が手加減をできない相手、やっぱり歴史上に登場するドラゴンだけのことはあるな。


『おのれ! マヤノちゃんに魔法を使わせるとは! マヤノちゃんは心のある女の子だ! お前の道具ではない!』


 マヤノが魔法を発動したことで、メリュジーナさんは俺が彼女に命令を下したと思っているみたいだ。


 俺に向ける殺気が強まっている。


 これってマヤノが魔法を使う度に、メリュジーナさんが怒りのボルテージを上げてパワーアップしていないか?


 ここは俺1人だけの力で勝つ方が、難易度が低いような気がする。


「マヤノ! 君は魔法を使ってはダメだ。ここは俺1人でメリュジーナさんを静める」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る