第三章
第一話 国境を超えて
~フリード視点~
ジェーン男爵から奴隷たちを解放することができた俺たちは、消息を絶ったカレンの情報を得るために、隣国との境目である国境に向かっていた。
「さぁ、後はこの道を真っ直ぐに進めば、国境が見えて来ます」
自分のお願いを聞いてもらう番になり、サクラは気分良く歩みを進めている。
約束は約束だ。隣国でカレンの情報を得ることができるのかは定かではないが、約束を果たすために、一度隣国に向かわなければ。
隣国でカレンの情報を得ることができることを願いながら道を歩いていると、国境の門が見え、国を行き来している人たちの姿が見えた。
あの門を潜れば、サクラの故郷がある国だ。
世界史の勉強で少しだけ知識があるが、数十年前の王は、魔王を倒して世界に平和を齎したことがあるらしい。
世界を救った国なら、サクラを連れ去った光の情報も、どこかに眠っているかもしれない。
手続きを行う列に並び、順番が訪れるのを待つ。
「次の人どうぞ」
しばらく待っていると俺たちの番になった。手続きをするために前に行くと、サクラが兵士に話しかける。
「目的はハルト城です。あそこに実家があるので、帰省です。私は隣国に住む友達を連れて来ました」
サクラは城に向かうと言っているが、兵士は訝しむ様子がない。もしかしたら、サクラが帰省と言ったことで、城下町と勘違いをしているのかもしれない。
「なるほど、帰省だな。そしてそちらの2人は観光客扱いだな。一応不審物が持ち込まれていないかを確認させてもらう」
国境担当の兵士たちが俺たちの荷物を調べ、不審物がないかチェックを行う。
「よし、何もおかしなものは持ち込まれていないな。良かろう。では良い旅を……あ、そうそう、お前さんたち」
「はい何でしょう?」
そのまま隣国の領土に足を踏み入れようとした瞬間、再び兵士が声をかけてきた。
「お嬢ちゃんは城下町に住んでいたから分かっているかと思うが、あの城には近付かないように」
「城には近付いてはいけない? どうしてですか?」
「俺たち国民が言うのも変だが、あの城の人間とは関わらない方が良い。最近変な行商人たちが出入りをしており、城の中から何かを持ち出しているらしい。変な事件に巻き込まれたくなければ、近付かない方が身のためだぞ」
「そうですか。ご忠告ありがとうございます」
一応兵士に礼を言い、軽く頭を下げて会釈をする。
城から何かを持ち出していると言うのは、以前サクラがマヤノに言っていたものだろう。彼女たちの間で共通認識をするものだったから、俺には何のことなのだかさっぱりだった。
「できることなら早く戻りたいですね」
「そうだね。ガラクタならいいけれど、爆薬が積まれているドローンとかが持ち出されたら、一大事だもの」
隣国の領土を歩き、国境から離れた頃、サクラとマヤノが会話を始めた。
爆薬は分かるが、ドローンってなんだ?
「なぁ? ドローンって」
「あ、フリードちゃん! あれを見て!」
ドローンについて訊ねようとしたその時、マヤノが前方を指差して声をかけてきた。
視線を進行方向に戻すと、小規模のゴブリン軍勢が、道を塞ぐようにして屯っていた。
やちらは何かを探しているのか、首を左右に振って辺りを見渡している。
まだ奴らは俺たちに気付いている様子がない。先制攻撃をするなら今の内だ。
「1体ずつ倒したら、時間がかかってしまう。ここはマヤノに任せて! 一気に終わらせるから」
「マヤノ、待って――」
「ミニチュアウォーター!」
マヤノは一般人よりも魔力量がえぐい。そのため魔法は通常の3倍の威力を発揮するため、下手をすれば大惨事に繋がる。なので、静止するように言ったのだが、間に合わなかった。
彼女が魔法名を口走った結果、空気中の水分子が集まり、水を作ると一気に地面に流れる。
「続けて行くよ! ミニチュアアースクウェイク」
続けてマヤノは別の魔法を発動する。するといきなり地面が揺れているみたいで、周囲の木々の枝が揺れ、葉っぱが落下する。
地震だと! マヤノのやつ、そんな高度な魔法まで使えるのか!
「マヤノちゃん! もしかしてあの現象を魔法で生み出そうとしているの!」
2つの魔法を見て、サクラは何かを悟ったようだ。慌てた表情でマヤノに訊ねる。
「うん、そうだよ。こうすれば、逃げ道を塞ぐことができるでしょう?」
「バカ! ここの地盤はそんなに強くはないのよ! そんなことをしたら――」
「ミニチュアリクイファクション!」
サクラの言葉を遮り、マヤノは続けて新たな魔法を発動する。その瞬間、ゴブリンたちの足元が崩れ、陥没した地面に飲み込まれて行く。
「やったね! 上手く液状化現象を生み出すことができたよ。あとは身動きが取れなくなっているゴブリンに狙いを定めて魔法を当てれば……あれ? 穴が空いている?」
陥没したはずの地面を見て、マヤノは小首を傾げていた。不審に思った俺とサクラは彼女に近付く。
「どうした?」
マヤノに近付き、足元を見る。すると陥没した地面は底が抜け、穴となって地下空間が顔を出していた。
「国境付近に地下空間が広がっているなんて知らなかった。テオお爺様も、ルナお婆様もお母様からも聞かされていない」
「この地下空間ってもしかして?」
マヤノがポツリと言葉を漏らしたその時、足の一部に浮遊感を覚えて足元を見る。すると、いつの間にか穴が広がっており、足の3分の1の地面がなくなっていた。
「穴が広がっている!」
地面が崩れていることに驚き、声を上げた。その瞬間、一気に足元の地面が崩れ、俺たちは地下へと落下してしまう。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
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