第十三話 何だと!ジェーン男爵がワシらの奴隷を買わないだと!

~フリードの父親視点~






「ぐふふ。今日も大量だな。あの奴隷を売っただけで、こんなにたくさんの現金が入って来るとは」


 奴隷を売却した際に貰った金の束を長めながら、ワシはニヤついていた。これだけあれば、また贅沢することもできる。


「親父、手紙が届いたぞ」


 部屋の扉を開け、息子のガロンが部屋に入って来ると、手紙が届いたことを告げる。


「ほう、手紙か。送り主は誰だ?」


「えーと、ジェーン男爵だな」


「ジェーン男爵か」


 送り主が国境沿いに住む男爵だと言うことを知り、期待に胸を膨らませる。


 あの人はカレンの素晴らしさが分かり、多額な金を支払ってまで買い付けてくれた。今後も贔屓ひいきをしてもらえれば、お得意様として扱えるだろう。


 もしかしたら、また商売の話しかもしれないな。


「ガロン、封を開け、書かれてある内容を読み上げろ」


「了解、ちょっと待ってくれ」


 ガロンが封を開け、中から便箋を取り出す。


「拝見クレマース商会の皆様、先日は奴隷の件で、色々な意味で互いのことを知ることができましたね」


 手紙に書かれてあると思われる内容をガロンが読み始めるが、変な違和感を覚える。


 何だか変な始まり方だな?


「カレンを連れ戻しに来た挙句、私を辱めに合わせ、脅してタダで私の奴隷たちを奪った罪は大きい。もう、クレマース商会とは縁を切らせてもらう。もちろん、私が受けた事実は多くの奴隷愛好家にも伝えておく。もう、お前たちは奴隷商として生きてはいけないだろう……敬具……何だって!」


「おい! 何かの間違いじゃないのか! 宛先を間違えたとか、別の人物へと差し向けた内容のものとか!」


 息子のガロンが、手紙を読み上げたのを聞き、ワシは思わず声を上げた。


「いや、住所はここだし、手紙の内容もクレマース商会と書かれてある。何かの間違いではない」


 信じられないものを見るかのように、ガロンは目を大きく見開く。


 これはいったいどう言うことなんだ? ワシらが売ったカレンを連れ戻してジェーン男爵を辱め、その上脅して奴隷をタダで奪っただと?


 まるで夢物語のような、身に覚えのないことだ。


「ハハハ、親父、きっと何かの間違いだ。ジェーン男爵が俺たちとの関係を断ち切る訳がない。きっとドッキリか何かに決まっているさ。だって、手紙に書かれているようなことは、俺も親父もしていないんだぜ。本当にあの変態おっさんは困ったものだぜ」


 おふざけに決まっているから気にしなくて良いとガロンが言うが、ワシは胸騒ぎがしてならなかった。


 もしかしたら息子の言う通り、おふざけで送ったものなのかもしれない。もしそうなら、お茶目なやつだなで終わらせることができる。だが、本当にジェーン男爵の身に起きたことなのであれば、無視できないことだ。


「もしかしたら、ワシらの商会を潰すために、何者かが騙ってジエーン男爵と接触した可能性も考えられる。真実であれば、これは見逃せない事案だ」


 呑気に物事を考えている場合ではないことを告げると、ガロンも顔色を悪くし始める。


「やっぱり、そっちの可能性の方が高いよな」


 息子の言葉に覇気が感じられない。もしかしたら、前向きに語っていたのは現実逃避ではなく、少しでも気持ちを楽にしようと、彼なりに気を使ったのかもしれない。


「とにかく、事態は一刻も争うことだと考えた方が良い。ワシは今から、国境沿いの街に向かい、直接ジェーン男爵に話しを聞いてみる。お前は町に残り、社長代理として仕事を熟してくれ」


「分かった。俺の方からでも、何か情報を集めてみるよ。俺らのことを語っているやつの正体を掴めるかもしれない」


 互いに役割を決めると、ワシは旅支度を整え、急いで家を飛び出す。


 頼む、何かの間違いであってくれ。

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