第2732話・従いし者

Side:季代子


 やはり止まらないか。


 伊達も葛西も織田と戦って勝つことが難しいことは理解している。それもあって離反する者たちを繋ぎとめようと硬軟織り交ぜながら動いているけど、もう伊達の権威と力だけではどうにもならないところにきている。


 とはいえ黙って見過ごすことも出来ない。勝手を許せば自分たちの戦力を落とすばかりか、従属勢力を従えられないと示すことになるから。


 面目や意地がなによりも重いこの時代でそれを許せば、今度は伊達家が揺らいでしまう。


 伊達にとって史実との大きな違いは奥州探題でないことね。


 司令と出会った上様は新しい道を求められたことで、伊達が求めていた奥州探題には任じなかった。


 上様はこういう事態を予測していたとは思えない。ただし、伊達に奥州探題を任じれば斯波一門の大崎家を軽んじることになり、斯波家への義理を欠くことは出来なかったと見るべきかしらね。


 つらつらと考えていると牛頭馬頭殿がやって来た。


「お方様、ひとまず高水寺殿を将として領境の備えと致すべきかと存じまする」


 私は牛頭馬頭殿の頼もしさに笑みを浮かべてしまった。


「そうね。適任だと思うわ。残念ながら私たちと牛頭馬頭殿は動けないものね」


「某の武功というよりは織田の武功。それで名が上がるのは素直に喜べませぬが、これも定めかと存じまする」


 家柄、能力、そこを考慮して高水寺殿を選んだのでしょうね。さほど厚遇していないが斯波一門という家柄はやはり大きい。


 私たちや森三左衛門殿、牛頭馬頭殿が出て行けば、彼らを追い詰めてそのまま伊達や葛西との戦になりかねない。


 無論、それならそれでいいのかもしれない。ただ、織田は所領を欲しているわけでも臣従を欲しているわけでもない。


 伊達も葛西も、過去と未来をどう受け止めどう見るのか。自分たちで決めてほしい。そうしないと未来に因縁や恨みが残るのよね。


「後の者のことも任せます」


「ははっ!」


 私たちと伊達は、我慢比べをしていたようなものなのよね。それに付き合いきれない者が出始めた。


 我慢比べをした時間はこちらに有利に働いたようね。


 私たちが奥羽を離れる日も遠くないのかもしれないわ。




Side:斯波経詮つねあき(高水寺)


「某が……でございますか?」


 お方様に呼ばれた故参上すると、伊達と葛西の備えの将をわしに任せると命じられた。


「私たちが出ていくと戦になっちゃうわ。高水寺殿なら上手くやれるはずよね」


「確かにお方様どころか牛頭馬頭殿でも、葛西の内乱を助長させることになりましょうが……」


 まことに戦を好まぬのだな。今のまま威圧して南奥州を従える好機だというのに。今ならば関東諸将も動くまい。


「細かいことは任せるわ。高水寺殿がいいと思える形なら葛西と和睦してもいい。私が求めるのはひとつ人命をいたずらに失わせないことだけよ。あとは銭も兵糧も玉薬も好きなだけ使ってもいいし、城を放棄してもいい」


 これはなんともまた……。


「某を選んだのは斯波一門ということが理由でございましょうか?」


「それだけじゃないわ。私たちの兵法を理解していることもあるし、他には貴方が織田に降る前に、籠城するなら城ではなく穴でも掘り隠れるべきだと語ったと聞いたからでもあるわ。そういう考え方が出来る人なら将を任せられる」


 そういえば、そんなことも言うたな。防げぬ以上、隠れるしかないと思うただけなのだが……。


「ああ、大崎は動かないと思うわ。ただ、今一つあそこはなにかやらかしそうな気配もある。対処が難しいけど、貴方に任せるわ。守護様の御一門だし多少甘くしてもいいわよ」


「畏まりましてございます」


 三戸殿が出るか、わしが出るか。地の利と家柄でわしが適任か。織田家ではあまり武功の場がないからな。最初で最後の機会かもしれぬ。異を唱える理由などないな。


「なるべく恨みや因縁を残さないようにしてね。畿内のように憎しみで荒れていくのは御免だわ」


「左様でございますな。心得ましてございます」


 甘いと思うてしまうな。この地にはこの地の因縁があり憎しみがある。ただ、積み重なった因縁を解きほぐしておるのが他ならぬ内匠頭殿だ。


 まさに神仏の慈悲そのもの。


 では、牛頭馬頭殿と話して支度をするか。




Side:久遠一馬


 熱田の花火も終わったし、今日は義統さん主催で越前の公家衆を招いての茶会をしている。


 シンディが近江に行っているので義統さん自ら紅茶を淹れてもてなしているが、越前の公家衆は久しぶりに会った宗滴さんに笑みをこぼしている。


「宗滴殿も息災そうでなによりじゃ」


「ああ、昔と比べると穏やかな顔つきになったのではあるまいか? 良き日々を送っておるようじゃの」


 病の療養中ということで越前の公家衆を歓迎する宴などにも出ていないが、せっかくだからとゆっくり話す機会を設けたいと思って誘ったんだ。


「某には過ぎたる日々と思うております。内匠頭殿の下で憂いなく過ごしておりまする故」


「なんの、長きに渡り励み生き抜いたそなたなればこそ、武衛殿も弾正殿も受け入れたのであろう。内匠頭殿の下で余生を過ごせるなど公卿でも許されぬことじゃからの」


 昔の話をしたりしつつ、宗滴さんを中心に盛り上がっている。宗滴さん自身はあまり自分が目立たないようにと配慮を欠かさないが、どちらかというと義統さんがそう仕向けているんだ。


 宗滴さんの隠居と尾張移住は無駄ではなかった。朝倉家だけではない。一向衆の問題が表面化すると宗滴さんの覚悟が確実に争いの抑止となりつつある。


 朝倉家にとってもやはり宗滴さんは特別だ。その晩節を穢すことは誰もしたくない。


 まあ、一向衆だけが損をしている気がしないでもないが、力と権威があるんだ。自分で道を切り開いてほしい。


「北陸はなんとかなりそうじゃの」


 邪魔しては駄目かなと宗滴さんたちから離れると、義統さんとお茶にする。義統さん自身、ホッとしているようだ。


 斯波家の因縁としては、やはり朝倉が問題だったんだよね。許したくても許せない。


「ええ、生きることこそ戦いです。宗滴殿はそれをよく理解していますから」


「そなたが預かったのもよかった。ここまで分かっていたのか?」


 義統さんの問いかけに少し苦笑いが出てしまったかもしれない。


「打算がまったくないとは言いませんが、どちらかといえば少しばかり気が合っただけかもしれません」


 選んだのは宗滴さんだ。正直、オレはそこまで宗滴さんを政治利用する気はない。本人が望まないならば。


「それでいいのかもしれぬな」


 うん、オレもそう思う。この先どうなるか分からないが、きっと大きな実りとなるはずだ。



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