第2572話・第十三回武芸大会・その十

Side:久遠一馬


 今年も大人部門、いわゆる隠居部門や団体戦が盛り上がっている。


 団体戦では武田と今川の対戦があったが、今年は特に様子がおかしいという報告もなく戦ったらしい。


 団体戦に関しては、現状ではチームを組むのが相応に家臣の多い名門と武官の連合チームくらいしか参加しておらず、もう少し参加者を増やせないかという議論が出ている。


 現状でも上手くいっているものの身分の高い者が多すぎることで、将来的に身分がある人しか出られなくなるのではという懸念が囁かれているためだ。


 ここ数年だと武芸大会以外でも模擬戦をやる人たちが増えていて、相応に普及はしているんだよね。


 まあ、常に新しい課題を以て武芸大会に挑むという意味ではいい議論だと思う。


 武芸大会に関する献策は結構多い。


 面白いなと思ったのは、複数対複数での試合はやらないのかというものもあった。団体戦ほど人数を集めるものではなく、三人や五人同士での戦いはやったらどうかという意見が武官や警備兵から上がってくる。


 個人での武芸も大切だが、実戦だと一対一での戦いはまずない。戦や治安維持業務において、相手がひとりであっても複数で対処するようにと指導していることがある。


 そもそも一騎打ちなんて時代じゃないし、複数での連携はオレたちが来た頃から警備兵に一番教えていたことのひとつだからな。


 この少人数団体戦、武官衆でテストをしていて問題なければ来年にでも採用される予定だ。


 ここ数年だと、オレが発案したり決断したりすることはほとんどない。無論、報告は上がってくるが、織田家としてきとんと意見を集約して議論をしているので口を出す必要がないんだ。




 武芸大会も五日目となり、このあとは初陣組の模擬戦と各競技の決勝が残るばかりとなっている。そんな中、競技が始まる前に屋台を見て歩いていると、近衛さんと山科さんが屋台の料理を食べていた。


「おお、内匠頭か。ひとついかがじゃ?」


 テーブルに串焼きが乗っていて、勧められるままにオレとエルも同席させてもらう。


 というか、今日は公家らしい格好で身分を偽っていないんだけどね。周囲も過剰に騒がず普通に馴染んでいるのが凄い。


「面白いもので串焼きひとつとっても、味が違う。ここの串焼きは美味いの」


「左様でございますね」


 確かに美味しい。近衛さんも山科さんも割とご機嫌だ。公家衆がみんなお二方のような人だったら、もっと上手くいくんだけどなぁ。


「吉岡が勝ち上がったの。力量はもともとあったのであろうが、大樹の下におる吉岡が尾張の流儀でも通じるというのは面白くもあるが恐ろしくもある。京の都は未だ動けぬ者が多いからの」


 少し感慨深げに近衛さんが語り出した吉岡さんについてだが、準決勝で石舟斎さんに勝って決勝に進んだ。最後の相手は愛洲さんだ。


 吉岡さん、実は今年の夏ころから義輝さんが呼びだして武芸大会対策にと鍛練に付き合っていたらしいからなぁ。オレの妻である夏も何度も手合わせをしたと聞いている。


 将軍としての時間が増えて心労とかないかと心配だったんだが、その時間を有意義に使っているなと感心したほどだ。


 義輝さん、指導者になれるだけの腕前があるしね。自分で出られない分、吉岡さんに期待しているらしい。


「吉岡殿は別格ですけどね。ただ、おっしゃる通りかと」


 足利政権自体、織田の流儀も学びつつ上手くやっている。三国同盟と妻たちのバックアップはまだ必要としているが、もともと流浪の将軍だったことを思うと出来過ぎだ。


「そうそう、辛酉革命の改元についてじゃがの。院と帝を説得しきれなんだようで諦めたようじゃ」


 少し小声になった近衛さんの言葉に、オレとエルはなんとも言えない曖昧な笑みを見せた。個人的には一代一元、帝の即位に合わせて改元して在任中の改元はしない、元の世界の近代以降の形でいいと思うが。正直、オレたちが口を挟むことではない。


「院が拒まれたのでございますか?」


「うむ、頑なであったと二条公から文が届いておる。そなたが昔言うたこと、祈る前に人としてやるべきことをやるのが先だとお考えのようでな。何故、改元する必要があるのかを改めてお考えになられたようじゃ。ここだけの話、あれも大陸から伝わった知恵じゃからの。されど、大陸では王朝が滅ぶからの。優れたところを学ぶのはいいが、頑なに大陸から伝わった慣わしを信じるのは危ういというのは少し考えれば分かること」


 上手くいっている時に改元が必要かというのが、帝や上皇陛下の胸の内にあるのかもしれないなぁ。義輝さんと三国同盟としては賛成も反対もしていない。お好きにどうぞというところだったのだが。


 実は近衛さんは改元に慎重だった。それもあって息子である近衛晴嗣さんが少し前のめりで改元をしようと言っていたのだが……。結局、近衛さんを説得しないと帝と院を納得させられなかったんだよね。


 朝廷に関しては一時期より安定していて、途絶えていた儀式を再開するなどいい面で動いているところもある。


 ただ、相変わらず近江以東の隆盛と変化に不満な者は多い。


 まあ、誰も自ら立ち上がって対立するつもりなんかないから問題にはなっていないが。晴嗣さんにしても自分が三国同盟と対峙する気はない。


 とはいえ、相変わらず不安定要素が多いのがネックになっている。


「殿下、無礼を承知で申し上げます。関白様ともう少し話されたほうがいいのでは? 憎しみは人を狂わせます」


 少し迷ったが、言うべきだと意を決して話すと、山科さんが驚いた顔をした。ほんと他人が口を挟むことじゃないんだよね。まして目下の者が言っていいことじゃない。


 ただ、みんなが腫れものを触るようにその件を避けると、どんどん厄介になる。


「分かっておる。されどな、話して余計に拗れたらいかがする? 嘆かわしいことじゃが、それが我ら親子の現状じゃ。二条公が取り持ってくれておる間は動かぬほうがよい」


 それもまた事実か。親子だからといって必ずしも和解出来るわけでもなければ、分かり合えるわけでもない。


 こうなることを予期していたから、織田との仲介の役目を自身のあとは二条さんに任せると言ったのだろう。


 個人の好き嫌いが政治に大きく影響を及ぼす。ほんとこういうところは中世だなと実感する。稙家さんに近すぎるオレたちもこの件だと動けないからなぁ。




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