第2571話・第十三回武芸大会・その九

Side:足利義輝


 吉岡は己の試合が出来たな。余計なことを考えず全力を尽くすことこそ、武芸大会で勝つ秘訣であろう。


「吉岡殿は見事勝ちましたな」


「うむ、負けることを恐れず挑んだからであろう。だからこそあやつは信が置ける」


 オレは、なにかあるとすぐに面目が立たぬという奴が嫌いだ。武芸大会においても然り、誰しも初めから強いわけではない。敗れることを恐れて強くなれるわけがない。


 面目だ体裁だと上辺だけ取り繕う。朝廷の悪い慣例を真似たことが足利家の失態であろう。近衛殿下には申し訳ないが、オレが朝廷を今以上に盛り立てようと思えぬのはそこにある。


 何年か前に一馬が殿下に言うたことにも通じるが、己らはなにもせずにかつての地位を維持しろと求める。上手くいかなんだ時には労を担った者を切り捨ててな。それが長き年月を生き抜いた朝廷の知恵だというならば、そうなのだろう。


 ただ、オレは朝廷をあのまま残すのは後の世に憂いを残すことになるとしか思えぬ。


 少し話が逸れたな。吉岡を警護衆の筆頭にと推挙があった時に認めたのは、あやつが負けを恐れず挑み続けるからだ。


 勝ち負けなど二の次だ。挑み続ける限り、警護衆の筆頭は吉岡以外にはあり得ぬ。柳生新介や愛洲小七郎ならば筆頭としてもよいが、あのふたりは余であっても召し出せぬからな。


「武士は常に挑む者でありたいものだ」


「それは難しゅうございますなぁ」


 言葉を選んだつもりだ。言い過ぎると皆が困るからな。ただ、それでも配慮が足りなんだらしい。穏やかな笑みをうかべた師が口を開いた。


「挑むことがそれほど難しいか? 武芸でなくてもよい。なにかひとつだけでもと思うのだが……」


「上様ももう少し歳を重ね、某のようになればご理解いただけましょう。武士は一族や家、主家を抱えて生きねばなりませぬ。皆が挑み続けるばかりではひとつにまとまることも和を成すことなど出来ますまい」


 公の席でオレに苦言を呈してくれるのは師と近衛殿下くらいだ。一馬たちは日を改めるからな。その師がわざわざ口を出したことにはわけがある。


 オレはまだまだ未熟か。


「うむ、興味深いな。余はまだまだ師から教わることが多いとみえる」


 一介の武芸者として、師と共に旅をした日々な何物にも代え難いものだった。願わくは、もう一度、師と共に旅に出たいものだ。


 無論、師も年老いたし、オレの立場も変わった。あまり遠くにいは行けまいが……。




Side:久遠一馬


 真柄さんが負けた。もうあのレベルになるとオレには分からない世界だが、力の差はほぼないんだろうな。


 そんな試合に続いて、オレは弓の試合会場に来ている。太田さんの試合を見に来たんだが、少し早かったらしい。


 太田さんより前に行われた内藤さんの試合が終わったところみたいだ。


 控えの場に行くつもりはないので弓の会場の貴賓席で見ていると、試合の終わった内藤さんが姿を見せた。


「内藤殿、勝ったのですね。おめでとうございます」


 挨拶を兼ねて声を掛けるも、内藤さんは少し緊張した様子だ。


 実はそこまで話したことがない人だ。挨拶程度の会話は何度かしたけど、接点があまりない人でさ。


「ありがとうございまする」


 うん、一言で簡潔な返事だけど、これだと会話が続かないんだよなぁ。個人的にちょっと話をしてみたい人なんだけど……。


「不躾ながら内匠頭殿は何故、武芸大会をやろうと考えられたのでございまするか?」


 オレの心情を察したのか、内藤さんも話してみたかったのか分からないが、内藤さんから話を振ってくれた。多分、聞きたかったことなんだろう。そんな気がする。


「一言で言うと、家中を円滑にまとめるためですよ。あとは戦や小競り合いを減らすつもりでしたから。武芸を励み武功の代わりになる場がほしかった。まあ、そんなところでしょうか」


 武芸大会に関してはオレの当初のイメージと同じところも違うところもある。ただ、みんなで楽しみつつ功名の場となるところは必要だった。武闘派のガス抜きも含めて。


 このあたりはほんと、歴史を知るアドバンテージを生かしたのだろうと今になると思う。


「左様でございましたか」


「今だから言えますが、上手くいくかは私にも分かりませんでしたよ。私自身はそこまで武芸に秀でているわけではないので、見ているだけでしたしね。今まで続いているのは家中の皆様、第一回の武芸大会に出てくれた方々のおかげでしょう」


 第一回では森可成さんや柴田勝家さんの勝負があったな。今も語り継がれている名勝負となったほどだ。ただ、第一回から続けて出場している人はそこまで多くない。


 立身出世すると役目などで忙しく武芸に専念出来ないからだ。半端なままでは出たくない。出るならば万全を尽くしたいというのが当然で、後進に譲った人も結構いる。


「内藤殿は今年で三年目ですよね。実は気になっておりました。望まぬ形で出ているようだと知らせを受けましてね」


 内藤さんはそんな武芸大会で少し異質な人だ。本人の意思と関係なく周りからせっつかれて出場することになり、勝ってしまった。


 それだけの実力があるんだが、これがオレとしてはどうするべきか毎年悩む。出場は本人の意思で行うようにと通達は出しているが、やはり身近に武芸大会で勝てそうな人がいると出したいと思うのが当然だからなぁ。


「……戸惑うところは今もございます。されど、去年と今年は己の意思で出場致しております。戦を減らすというのは至極当然のこと。されど、戦には備えねばなりませぬ。確と目に見える形で武芸の優劣を付けてやらねば、やがて形式ばかりのものとなりましょう。それではいつか困ることになるはず」


 内藤さん……。


「そうですか。ならばいいんですよ。望まないままで続けているならば、こちらから手を回そうかと悩んだものでして」


 去年、塚原さんに心配しなくていいと言われたんだけどね。どうしても直に話したかった。元の世界でも、親の都合やエゴで子供の頃から本人の意思に関係ない形で仕事やスポーツをしている人がいた。


 そういう人と重ね合わせてしまったからだろうか。


 別に家業を否定する気はないし、誰もが職業や武芸を望んでやるわけじゃないことは分かっているが。


 オレの性分かもしれない。


「続けてくだされ。血を流し世が荒れるよりよほどいい」


「ありがとうございます」


 やはり乱世を知る偉人は強いね。世の中が変わっても相応に合わせて生きている。頼もしい限りだ。



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