第2489話・和睦の始まりは……
Side:斯波義統
古河公方と関東管領の和睦か。ありそうでなかったことじゃの。そこに北条が加わると驚くべきことになる。
異を唱えそうな上杉家中の者らを、越中から戻った越後守がすぐにまとめたというのか? それとも以前から和睦を考えてまとめておったのか?
「言うは易く行うは難しという言葉の通りじゃと思うが……」
「はっ、越後守。なかなかの男かと思いまする」
弾正もまた、あの男を見直したようじゃの。もとより相応に認めておったが、ここまで動けるとは思わなんだ。
「世の流れを見ても今しかないのも事実であろうが、分かっていても出来ぬのが人じゃ」
因縁など探せばいくらでもある。家中でも騒ぐつもりがない因縁を誰かが思い出しては、慌てて解きほぐすことがあるくらいじゃ。わしも古き因縁を見て見ぬふりをしたことが幾度となくある。
いかに言うたのか知らぬが、なかなかやりおるわ。
「父上、これで関東が落ち着くのでございまするか?」
倅はまだまだ甘いの。
「さて、わしには分からぬが。それとこれとは別の話ではないのか?」
「はっ、古河公方家と関東管領家はこれで上様の治世に従うことになりましょう。すでに関東において己が力だけで生きるなど無理なことは明白故。正しき形に戻して上様の治世に従うとすると角が立つことなく己が家の立場を守れまする。とはいえ、いずこも一枚岩とはいえず、また関東勢はこの和睦においていかに動くかは別でございましょう」
弾正に話を振ると倅にも分かるように話してくれた。この男もやはり天下を担うべき男よ。一馬の思い描く世をつくれるのは弾正だけかもしれぬ。
「なるほど……」
「長尾の書状にも古河公方家と北条のことはございましたが、あとの関東勢に関しては書かれておりませなんだ。話がまとまる前に知らせてやる義理はございますまい。まとまる話もまとまらなくなる故」
そういえば関東管領殿が上野を追われた際に、佐竹を頼ったが拒まれたという噂を聞いた。まことの話か知らぬが、関東管領殿からすると必ずしも関東勢を重んじる必要はないとおもうておるのかもしれぬな。
とはいえ、ここからが大変じゃ。果たして話がまとまるのか。
Side:足利義輝
明日にでも近江に戻るつもりであったが、一馬が驚くべき話を持ってきた。
「上杉が動いたか」
越後に身を寄せる上杉が和睦を求めるとは。もう少し意地を張るかと思うたのだがな。
「前古河様のお許しは頂きました。すぐに和睦に取り掛かることになります」
決着の付かぬ争いに見切りを付けたのか。世の流れを察したのか。まあ、やってみるくらいの価値はあるか。
「構わぬが、和睦をしたとして上手くいくのか? 関東とて、誰もまともな政をした経験はあるまい? 奉行衆とて、そなたらが助けねばいかになるか分からぬというのに」
気になるのは和睦の後だ。今の古河公方と関東管領に関東をまとめられるのか? さすがに北条を目の敵として動くことはあるまいが。関東が半端に乱れるとそなたらが困るのではないのか?
「そこは話をしてみないとなんとも言えませんね。まずは和睦をしないと現状が悪くなることはあっても良くなることはないので。おそらく鎌倉府の再建をすることになると思いますが」
「こちらが和睦の先に口を出すと、まとまる話もまとまらぬか」
「はい、ほぼ間違いなく」
まあ、今は一歩進んだことを喜ぶべきか。
「己が意志で動いたのだ。助けてやらねばな」
「なんとしても和睦はまとめます」
上手くいかずとも変わろうとする者を助け導く。一馬らは十年以上もかようなことを続けてきたのであろうな。なんと辛抱強い。
「懸念は古河公方家の長子か。近江に呼んでやるしかないな。なにか役目を与えよう」
とはいえ近江に来るかは五分五分か。長子だけならば、それで納得することもありえようが。周囲の者らは納得するまいな。また、和睦に不満を抱く者が甘い言葉をかけて抱え込むこともあり得る。
いずれにしても関東は動き出した。あとは焦らぬことか。
Side:久遠一馬
晴氏さんの協力は得られた。ケティの話ではあまり政をさせるべきではないとのことだし、重要案件以外はこちらで決めてもいいだろう。許しも頂いた。
義輝さんの許可も頂いたし、評定衆にも明かして和睦に向けて動き出す。
この件に関しては織田家中の皆さんの反応はいい。南北朝の因縁を解消した次は関東の因縁を解消する。仕事としてやりがいがあるんだ。
実のところ、関東をどうするんだという議論は数年前から織田家中でもされていた。上杉と北条の和睦は何度も議論されたし、正直、和睦してほしいという意見も多かった。
尾張だって、なんでもかんでも否定しているわけではない。同じ武士ということもあるし、義輝さんを支えている立場として、関東を落ち着かせることが出来ないかと考える人は結構多い。
まずは評定で仲裁を受けることを決定したうえで、越後に使者をすぐに出した。上杉家を説得してまとめられるのは景虎さんだけだろう。彼との意思疎通が必要になる。
「しかしまあ、儀太夫殿が清洲を頼れって言ったのをそのまま利用したね。なんというか、抜け目がない」
連絡は来ていたし、こちらも景虎さんが関東を落ち着かせるために動くなら協力する意思はあった。ただ、短期間で即決断してまとめて要請まで出した。これが凄い。
もともと史実においても内政の評価がそこまで悪かった人でもないんだよね。あくまでも戦を中心に考え動く人だったが。
上野で北条とプロレスやっていたこともそうだが、情勢を見極めて動くというのは割と得意なのかもしれない。
「これからが大変ですよ。おそらく上杉家中も和睦することまでしか考えていませんから」
エルの言う通りだろう。関東も戦乱の時代が長いからな。一般的に
穏やかに合議制で関東をまとめてくれるなら、現時点ではそれで十分なんだけど。そういうの経験がないからなぁ。
懸念としては上杉憲政さんだ。果たして彼だけで上杉家をまとめて動かせるのだろうか? それこそ景虎さんを抜きにして。
上杉を上野に戻して領国を調整するくらいは出来るだろうが、肝心の憲政さんが家臣たちに振り回されては困る。
ここらも景虎さんと相談かなぁ。考えることは山ほどある。
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