かぐや

山碕田鶴

第1話

 山あいの小さな村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある朝、二人がタケノコを掘りに竹林へ行くと、奥からキラキラと眩しい光が見えました。


「何だろう。少し煙も上がっているようだ」


 おじいさんが近づいてみると、そこには米俵ほどもある銀色の筒が落ちていました。


「おばあさん、えらいことだ」


 慌てて駆け寄ったおばあさんが筒を覗き込むと、七色に輝く布にくるまれた赤ちゃんが眠っていました。


「おや、まあ……」


 坂木さん夫婦が赤ちゃんを拾ってきたと聞いて、年寄りばかり十数人しかいない村人はすぐに坂木さんの家に集まりました。


「なんと愛らしい。これは神さまからの授かりものでしょう」

「いわゆる宇宙人ってヤツかね」

「妖精に決まっている。竹の精に違いない」


 みんな好き勝手を言いながら赤ちゃんをあやして大はしゃぎです。

 この日の朝、流れ星のような光が竹林の方に落ちるのを見た村人がいました。光る物体が空を飛んでいるのを見た者もいました。赤ちゃんが見つかった竹林の周囲はすっかり焼け焦げていました。

 はじめは怖がっていた村人たちでしたが、赤ちゃんを見たとたん、お祭りのような気分になっていました。


「やはり名前は『かぐや』でどうだろう」


 坂木さんが提案すると、全員が満足そうにうなずきました。




 かぐやはぐんぐんと大きくなり、数日後にはおばあさんの手に引かれて散歩ができるようになりました。


「子どもの成長は早いわねえ。かぐやちゃんはタケノコみたいだねえ」


 四ヶ月も過ぎると、かぐやは見上げる程長身の青年になっていました。


「かぐや君は俳優さんみたいに素敵ねえ」


 村のおばあさんたちは、頻繁にかぐやに会いにやって来ます。おじいさんたちも、かぐやを山歩きや川釣りに誘って、毎日が楽しくて仕方ありません。

 かぐやも村人が大好きでした。ただ、村人がいつもかぐやの食事だけを別に用意して、自分たちが食べる物を決して分け与えないことが気になっていました。




 山にススキの穂が出始めたある日、かぐやはおじいさんとおばあさんに尋ねました。


「おじいさんたちは山菜や川魚を食べるのに、なぜ僕はだめなのですか。村のお米さえ出してもらったことがありません。次のお月見で、僕もみんなと一緒に団子を食べたいです」


 おじいさんは寂しそうに答えました。


「昔……近くで事故があって、この村の水も空気も汚れてしまったのさ。ここで採れる食べ物も危ないというので若い人は村を離れることになって、でも年寄りはもう構わないからと残ったのが私らだよ。かぐやは地球の子ではないから大丈夫かもしれないけれど、やっぱり心配だから……」

「ここはもう大丈夫です。事故のすぐ後から大雨が何度も何度も降って、僕の調査では予測よりずっと早くきれいになっています。大丈夫なんです」


 思いも寄らないかぐやの言葉に、おじいさんとおばあさんはたいそう驚きました。


「僕は、仲間と共に地球を見続けてきました。事故があったこの地域は、重点観察区でした。実際に地上の様子を見るために、今回僕が派遣されたのです。ちょっと成長スピードの調節を間違えましたが、この国の人は相変わらず親切でした」

「相変わらず?」

「はい。千年前に仲間を助けていただいたご恩を僕たちは忘れていません。あなた方も僕たちのことを言い伝えで残しているではありませんか」


 おじいさんとおばあさんは顔を見合わせました。


「カグヤ。それが僕たちのコードネームです。僕にも同じ名をつけてくれましたよね」


 かぐやはにっこり微笑むと、空を見上げました。


「次の満月の夜に迎えが来ます。西の地で大変なことが起きたので、僕たちはそちらの調査に向かうことになりました」


 心配そうな二人に、かぐやはもう一度微笑みました。


「大丈夫。僕は、おじいさんとおばあさんの子ですから。今までお世話になりました」




 満月の晩、かぐやは七色の衣をまとった人たちに迎えられて月の光の中に消えました。

 庭先に供えたお月見団子も、ひとつ消えてなくなっていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぐや 山碕田鶴 @yamasakitadu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画