第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第45話 笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?



 ……とある理由から、命を狙われることになった俺、瀬戸原 木葉。

 なんの変哲もない高校生だった俺の下に、ある日一人の女の子、久野市 忍が現れた。驚くことに……というリアクションが正しいのかはわからないが、彼女は忍者で、俺の命を守るためにやって来たらしい。


 当初はそんなことは信じられなかったが、実際に命を狙われたことで彼女を信用することになった。そんな彼女は、俺の通う学校に突然転入してきた。

 なので俺は、彼女を引っ張り今、俺の部屋にいる……俺の命を狙った火車 紅葉と共に。


 火車さんは、仲の良いクラスメイトの一人だったが、実は俺の命を狙う殺し屋で、俺を殺そうとした。それを、久野市さんが止めてくれたわけだ。

 俺は今、なぜか転入してきた久野市さんと、俺の命を狙ってなお学校に通っている火車さんと同じ空間にいる。


 そして、この空間にいるのは俺たち三人……だけではない。


「……じゃあ、木葉くんが火車さんに命を狙われたのは、木葉くんに相続される遺産を狙った誰かに依頼されたから……ってこと?」


「そーゆうこと」


 これまでの説明を経て、重々しく口を開くのは、この部屋……というかアパートの大家代理である、桃井さくらい 香織さんだ。

 正直な話、彼女はこの話にまったく関係がない。なのに、わざわざ桃井さんを部屋に呼んで、説明をしたのは……


 いろいろと誤解を与えたままなのはもう耐えられないと、判断したからだ。ただでさえ、久野市さんとの関係を誤解されているんだから。


「言っとくけど、依頼人については教えられない。一応、ウチにも殺し屋としての矜持があるんでね」


「ふふ、死んだら矜持もプライドもないのに、おかしな人ですね」


「笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?」


 俺も一度、状況を整理するために話をまとめたが……いくら聞いても、火車さんは俺の命を狙うよう依頼した人の名前を出さない。

 あれかな、守秘義務……ってやつかな。


 とはいえ、俺も本気で聞き出そうとは、考えていなかった。もしそうなら、久野市さんに頼めば聞き出してくれる気がする。

 ……どんな手段を使うのか、想像したくはないけど。


「それにしても、驚いたな……木葉くんのおじいさんが残した遺産が、木葉くんに相続されて……その影響で、命を狙われることになったなんて」


「あはは、俺もです」


 俺の話のはずなのに、実際に命を狙われなければ今も信じてはいなかっただろう。

 俺がその話を知ったのは、いや聞いたのは久野市さんからだ。


 正直、命を狙われている、なんて話、冗談でしたで済んだらどれだけよかったことか。


「でも、クラスメイトに殺されそうになったら、信じるしかないですよね」


「……ありがとね」


「え?」


 苦笑いを浮かべる俺に、なぜか桃井さんはお礼を言った。

 俺、桃井さんにお礼を言われるようなことしたか? むしろ俺の方がいつもありがとうなんだが。


「この話をしてくれたのって、私を信用してくれて、ってことでしょ? なんだか、嬉しくて……あ、不謹慎、だよね、嬉しいなんて。ごめん」


 お礼の理由……そして、直後にそれが不謹慎だったと、謝罪する。お礼に謝罪と、俺は慌ててしまう。

 確かに、桃井さんに話したのは彼女を信用したからだ。信用できない人間に、こんな話はできない。


 まあ、クラスメイトに裏切られて……ってのもなんか違うが、友達だと思ってたクラスメイトに命を狙われて、信用とかなに言ってるんだって思うかもしれないが。

 それでも、俺にとっては……桃井さんは、本当に信用できる人だ。


 上京してきた俺が、ここまでちゃんと生活することができたのは、桃井さんのおかげだ。アパートの部屋を借りられたのも、コンビニでバイトをすることができたのも、都会の常識をある程度学ぶことができたのも……


「謝らないでください。それに、お礼を言うならこっちの方です」


「え?」


 今俺が一番信用している人間は、桃井さんだと言ってもいい。それだけ、彼女には世話になっている。

 もしかしたら、この話をしたことで桃井さんが豹変して俺の命を狙うのではないか……そんなことも、考えなかったわけではない。


 でも、そんなことを気にしていたらなにもできないし。なにより、桃井さんに関しては信じたい、という気持ちが強い。

 それに……


「桃井さんに、隠し事はしたくないですから」


「! そ、そっか……」


 隠し事をしたくない。それが、混じりっけのない本音だ。

 それを受けて、桃井さんも納得してくれたようだ。コクコクと、何度もうなずいている。


 ただ、うつむいているので表情は見えないが、なんか耳が赤い気がする。暑いのかな?


「さて……桃井さんに説明が済んだところで、キミたちの説明を聞こうか」


「はーい!」


「ちっ」


 桃井さんへの説明を終え、俺は久野市さんと火車さんへと視線を向ける。二人の態度は正反対だ。

 ウキウキな様子の久野市さんは元気よく手を上げ、ふてぶてしく座る火車さんは舌打ちをする。


 久野市さんは素直に答えてくれそうだけど、火車さんちゃんと答えてくれるのかな。


「じゃあまず、久野市さん」


「はい!」


「どうして、俺の通ってる学校に転入してきたの? それも俺のクラスに」


「主様を守るためです!」


 ……ある意味予想していた答えが、予想していた通りに返ってきた瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る