おふうさん

峰岸

おふうさん

 この世にはふしぎなことがたくさんある。線路をキレイにセイビしてくれる生物もいるし、そらとぶ魚もいる。学校の花だんにはしゃべるチューリップがいるし、ネコは建物よりも大きい。それがぼくらにとっては当たり前の日常だ。ぼくらはふしぎと共存しつづけ、これからもそうしていくのだろう。ぼくはそう思う。


 ぼくの母ちゃんはこわい。まるでオニみたいにおこる。でも料理は上手だし、ぼくの宿題も手伝ってくれる。母ちゃんの手はまるでおひさまみたいにあったかい。ぼくはそんな母ちゃんがすきだ。

 ぼくの母ちゃんはペンタの工場ではたらいている。ペンタはお米の代わりのパンみたいなものだ。もちもちとしていて、お餅とパンを合わせたような食べ物で、クラスのみんなはこれが大好きなのだ。もちろん、ぼくもペンタは好きで、毎回給食のおかわりじゃんけんに参加している。

 このペンタはおふうさんの体からできている。おふうさんはいろんな大きさのものがいるらしい。ぼくの母ちゃんがおふうさんの工場で働いているから、聞いたことがある。

「おふうさんは害のない生き物です。こうやってこねると、おふうさんは大きくなって、おふうさんとペンタの元に分かれます。そして、ペンタの元を蒸したものを、みんなの学校にお届けしているんですね」

 年に一回の校外学習。ぼくたちはおふうさんの工場に来ていた。真っ白な服をきたおじさんが、工場の中を案内してくれる。ガラス越しに見るおふうさんは、ふっくらとしていて、きっとやわらかいのだろうなと思った。

「次は実際におふうさんをこねているところにいきましょう」

 おじさんはそう言いながら進んでいく。

 そこでは、小さなおふうさんがかごの中にいた。おふうさんをかごからだして、こねる。ペンタの元と分かれたらおふうさんをかごに戻す。それの繰り返し。

「おふうさんはね、気持ちよくこねてもらえないと大きなペンタの元を出してはくれないんだ」

 おじさんはそう言った。ガラス越しにその様子を見ていると、奥の方にぼくの母ちゃんがいた。母ちゃんはピンポン玉サイズのおふうさんをこねて、こねて、こねて、なんとおふうさんはサッカーボールよりも大きくなる。どんどん大きくなって、最後には僕の自転車と同じぐらいの大きさになってしまった。

「みなさーん、おふうさんをうまくこねると、こうやってすごく大きくなるんです。普通にこねるだけじゃピンポン玉サイズのおふうさんがテニスボールサイズになるぐらいです。あそこまで大きくなるのは、おふうさんを上手にこねられているからですね」

 そのあと、ペンタの元を蒸すところを見学した。ペンタの甘いかおりに、みんなお腹を鳴らして、それを聞いたおじさんは笑っていた。

「工場見学はここまでになります。おふうさんついてに質問がある人はいるかな?」

 いきおいよく手をあげるが、さされなかった。べつの子がうれしそうに声をあげる。

「おふうさんって、どんなかんしょくなの?」

「おふうさんはすべすべしていて、あったかいですよ。他に質問がある人いるかな?」

 今度こそあてられたい。ぼくは元気に手をあげる。おじさんと目が合い、名前を呼ばれる。

「おふうさんってどこまで大きくなるんですか?」

「おふうさんはお家のサイズまで大きくなることがわかっています。この工場で実際にこねて、そこまで大きくなっちゃったときは、大変でしたよ。だって、ペンタを蒸すのが間に合わないんだもの!」

 おじさんから説明されたが、ぼくの母ちゃんはすごいしょくにんさんらしい。この工場で一番おふうさんを大きくこねられるそうだ。家で見る母ちゃんと姿はそっくりなのに、なんだか別人のようだ。いつもは「宿題をしなさい」と怒る母ちゃんが、こんなにすごい人だっただなんて。ぼくはおどろいてしまった。


 校外学習の帰り、工場からできたてのペンタを貰った。学校の先生からは、帰り道に食べてはいけませんよと言われる。クラスのみんなは、えーっ! と声をそろえて言う。

 いつものぼくなら、家についたらすぐに食べてしまうだろうけど、今日はそうしたくなかった。お腹は好いているし、おやつも食べたい。でも、なんだか母ちゃんと一緒に食べたくてしょうがなかったのだ。

 ぼくは走って家に帰った。

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おふうさん 峰岸 @cxxpp

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