廃墟と掃除と亡霊と

廃墟と掃除と亡霊と その1

 アビゲイル・フッカー。

 次期、無月の女神の巫女候補と言われる魔術師。

 天才的な、それこそ稀代の魔術師。

 そんな彼女が頭を抱えていた。

 彼女の師であり、親代わりでもあるマリユ教授から難題を出されたからだ。

 難題とはいえ、突き詰めればただの掃除には違いない。

 このシュトルムルン魔術学院の西側に古い廃墟がある。

 その昔、マリユ教授が住居として、アビゲイルも含めた彼女の弟子たちと共に暮らしていた館だ。

 そこを住めるように掃除し修繕して来い、という難題だ。

 それの何が難題なのか。その理由はいくつかある。

 一つは屋敷がかなり大きいというのもある。

 少なくともアビゲイル、一人の手には余るものだ。

 また廃墟となってから百年ほどの月日が経っている。

 建物としてもかなり痛んでいるはずだ。その修繕も楽ではない

 そして、それだけではない、とても厄介なものがその廃墟には巣くっている。

 こんなことなら蛇型の使い魔など作らずに、お掃除用の使い魔を作ればよかったなどとアビゲイルが悩んでいるほどだ。

 自分の首に巻き付いている頭部にエラの付いた白い蛇を見ながら何とも言えない気分にアビゲイルはなる。

 これはこれで良い使い魔なのだが、今回は役に立ちそうにない。


「と、言うわけでですねぇ、ミアちゃん。お掃除するの手伝っていただけないでしょうかぁ?」

 迷った挙句、アビゲイルはこの学院の知り合いに声をかけることにした。

 と言っても、アビゲイルの知り合いなどミアちゃん係の面々くらいだが。

「お掃除ですか…… うーん……」

 と、ミアは難しい顔をする。

 たしかに今は夏休みで暇だ。

 ミアは学院から借りた工房があり、自発的に魔術の研究をすることもできるのだが、あの工房は構造上通気性が非常に悪い。

 今の時期、外はかなり蒸し暑く、あの中で汗だくになって魔術の研究をするのは流石のミアでも辛いものがある。

 下手したら意識を失いかねないほどだ。

 それは命の危険が付きまとうほどだ。

 工房内の空調を魔術でいじろうにも、部屋を暖めるのと冷やすのでは、その難易度が大きく違う。

 今のミアに部屋を魔術で暖めることはできても、部屋を冷やすことはまだできないでいる。

 なので、空調を整える魔術が施されているこの居心地の良い食堂で暇を持て余しているのだ。

 ここでできることといえば魔術書を読み漁る程度だが、それも限界はある。

 だから、ミア的には手伝うのはやぶさかではない。

 蒸し暑いとはいえ、たまには体を動かしたくもなる。

 ただ作業の内容次第では、工房内で作業するのとそうかわらないのでは、とミアには思えてしまう事も事実だ。

「ミア、やるならちゃんと報酬を取りなさいよ」

 と、少し夏バテ気味のスティフィがだるそうにそう言った。

「だ、そうです」

 それを聞いたミアはアビゲイルに向き直る。

 アビゲイルは笑顔だが、頬が少しひきついている。

「それは、もちろん…… お支払いしますよぉ、師匠からも修繕費として、いくらか貰ってますのでそこから」

 と、少し苦しそうにそう言った。

 修繕費とやらに余裕がないのかもしれないし、もしかしたら、別のことに修繕費を使ってしまっているのかもしれない。

 が、それはアビゲイルの事情だ。

「ん? 俺もいいか? ちょっと使いすぎちゃってさぁ」

 エリックが笑顔で話に入ってくる。

 竜鱗の剣を得たエリックが調子に乗り都で様々なものを買いあさり、既に金欠になっているようだ。

 ついでに竜鱗の剣以外で特にめぼしい掘り出し物はなかった。

 エリックの部屋にがらくたが大量に増えただけだ。

 これも欲につられた結果だろう。

「あー、エリックちゃんはやめておいたほうがいいですよぉ?」

 せっかくのエリックの申し出だが、アビゲイルはそれをあまり快く思ってはいない様だ。

「なんでだ?」

 と、エリックが聞き返す。

「場所が場所ですのでぇ」

 少し言い辛そうにアビゲイルは告げる。

「んん? どんな場所?」

 と、今度はスティフィが興味、と言うか、警戒して確認してくる。

 ミアが行くならばスティフィも同行せざるえなくなる。

「元無月の巫女の館ですよぉ、別に完全に男子禁制ってわけじゃないですが…… あそこは特別に認められた無月の女神の領域なんですよぉ」

 天地の塔と呼ばれる、今、マリユ教授が住んでいる塔ができる前、無月の女神の巫女であるマリユ教授は、学院の外に建てられたその場所に隔離するように住んでいた。

 その館をマリユ教授が教授を引退した後住むので、綺麗に修繕し新築のようにしろ、と言うのがマリユ教授がアビゲイルに課した命令だ。

「なら、いいじゃないか?」

 男子禁制ではないと聞いて、エリックが不思議そうな顔をする。

「あんた本当に何も考えてないのね、下手すりゃ死ぬわよ」

 と、スティフィがそれに突っ込む。

 無月の女神と言えば代表的な祟り神の一柱だ。

 月無き夜の神、処女の守護者、呪いと呪術の女神、名を言ってはいけない神、嫉妬の女神、そのような祟り神だ。

 廃墟となっているとは言え、その神の領域に男が足を踏み入れるだけで危険だ。

 祟り神との一番良い付き合い方は関わり合いにならないことだ。

 特に処女の守護者と言うことで、無月の女神は男性を嫌う傾向にある。

 なぜ魔術学院に巫女科や魔女科が存在し、性別で科が分けられてつくられているのかを考えれば、すぐにわかる話だ。

「そうなのか? じゃあ、やめとくか」

 と、エリックは危機感がまるでないようにそう言った。

「あー、けどぉ、マーカスちゃんはできればご同行お願いしたいんですよねぇ」

 と、アビゲイルは冷や汗をかきながらマーカスの顔色をうかがうようにそう言った。

「え? 俺ですか? なんでですか?」

 嫌な表情を隠しもせずマーカスは言葉を返す。

 マーカスとて、そんな危険な場所に足を踏み入れたくはない。

「マーカスちゃん、冥府の神様の信徒をやってるんですよね?」

 と、アビゲイルが確認してくる。

「信徒といわれると自信がないですが、関りはありますね。冥府の神から使命も頂いていますし。でも、なんで冥府の神の信徒が必要なんです?」

 信徒と言われるとマーカスも少し疑問に感じる。

 たしかに冥府の神と関りを持ち崇拝もしてはいる、なんなら別のちゃんとした信者に会い、冥府の神との付き合い方を学びもしたが、それでも信徒と言われるほど熱心なわけではない。

 冥府の神も危険な神には違いないので、その作法を学ぶためなだけだ。

 冥府の神など怒らせたら、それこそ冥府に連れていかれるからだ。

 けど、アビゲイルはそんなことは全く意に介していない。

「いや、あそこ出るんですよ」

 と、そう言って笑顔で頭を照れるように掻いている。

「でる? なにがですか?」

 と、ミアがアビゲイルから焦りのような物を感じて聞き返す。

「幽霊? 亡霊? 怨霊? って、感じの奴ですか? そういったものがですよぉ」

 と、アビゲイルが冷や汗を垂らしながらそう言った。

 アビゲイルとしても、そういったものに精通しているわけではない。

「そんなわけあるわけないじゃないですか。確かにここは冥府の神の管理下の端の方ですが、それでも冥府の神の管理下にあるんですよ? そんなものは存在できませんよ」

 マーカスは自信を持ってそう言った。

 幽霊を信じてないわけではない。

 だが、この地は冥府の神の管理下にあるのだ。

 神の管理下にある以上、この世に死者の魂が残っているわけはない。

 神の力の前にに、人間の怨念などで立ち向かえるわけがない。

 幽霊などが現れるのは、冥府や天国、地獄などの死後の世界を管理している神がいないような、ごく限られた一部の地域だけの話だ。

 だから、幽霊は非常に稀な存在なのだ。

「幽霊犬を連れているあんたが言わないでよ」

 と、スティフィはそんな突っ込みをマーカスに言うが、それとこれとはまた別の話だ。

 幽霊犬の黒次郎はその冥府の神から授かった存在なのだから。

「いやー、それがですねぇ。あの館のある場所は、主、ああ、無月の女神の領域なので、あの館の周囲だけ冥府とか、なんて言うか死後の世界? 存在しないみたいなんですよぉ」

 アビゲイルは冷や汗を垂らしながらそんなことを言った。

「は?」

 と、マーカスが驚く。

 そう言った場所も存在する、という話はマーカスも聞いてはいたが、こんな身近に存在するとは思っていなかった。

「私も師匠から聞いて驚いているんですよぉ、そういう理由で亡霊やら幽霊が存在しているんですよねぇ。なのでぇ、冥界の神と繋がりのあるマーカスちゃんには力沿いをと……」

 たしかに幽霊がいるとなると人間にはどうすることもできない。

 相手は死者なのだ。

 人にはこれ以上殺すことはできない。

 一番良いのは死後の世界の神々の導きにより死者として正しき場所に導いてもらうことだ。

 だが、死後の世界の神々と縁を持っている者などそうそういない。

 縁を持つという事は死後の世界に引っ張られるという事でもあるのだから。

 死後の世界の神と縁のあるマーカスはある意味、貴重な存在ではある。

「そもそも…… 男の俺が入って平気な場所なんですか? 流石に無月の女神に呪われるは嫌ですよ」

 マーカスはその疑問とは別に、幽霊相手に自分が何かできるかと頭の中で考えるが、特に思い浮かぶことは何もない。

 それでもミアを守れと冥府の神から使命を貰っているので、幽霊がいるような場所にミアが行くのであれば同行せざる得ない。

 けれども、無月の女神に祟られると死ぬし、祟りを解除する方法も存在しない、と言われている。

 そんな神の領域には、流石にマーカスも行きたくはない。

「その点は平気ですよ、ちゃんと、安全に! 屋敷に入れる方法があるのでぇ。私が住んでた当時も、それで、安全に! 男性の方は出入りしていましたのでぇ。エリックちゃんは無理そうですがマーカスちゃんなら恐らく平気ですのでぇ」

 アビゲイルはやけに「安全に」と強調して言った。

 そしてさらに、不安そうなことを言っている。

 マーカスはそれを聞いて、エリックと自分との違いを確認するがよくわからない。

「そ、そうですか……」

 と、疑いの目を向けながらマーカスは了承するしかない。

 もちろん、ミアが同行するのなら、と言うのが条件だが。

「良いな、マーカス。女の園に入れて」

 と、エリックが呑気にそんなことを言う。

「幽霊のいる廃墟に何を言ってるんですか」

 マーカスは呆れながら返事を返す。

「でも、なんか面白そうですね。確かに夏休みで暇だったんですよ。夏休みの研究課題に幽霊とか良さそうじゃないですか」

 と、話を聞いていたミアが前向きな返事と返す。

 アビゲイルの顔もその一言で明るくなる。

 ミアが動くなら、ミアちゃん係の連中も動くということだ。

 これで人手が確保できる。

「暇なのは工房が蒸し暑すぎて、研究できないからでしょう」

 スティフィがだれ気味にそう言った。

「うっ…… 空調の魔術、難しいんですよ! 温めるのはそうでもないんですが、空気を冷やすのなんてどうしていいかわからないですよ!」

 と、ミアも悔しそうにそう言った。 

「まあ、そうよね」

 と、スティフィもそれに同意する。

 部屋を冷やすような魔術を自分で作るより、氷の精霊などを精霊王から借り受けるほうが手っ取り早く危険も少ない。

 だが、ミアの場合、すでに大精霊がミアに憑いている為、これ以上の精霊を追加で借り受けるのは危険だ。

 その大精霊も水の精霊なので部屋を冷やすことくらいは可能だろうが、精霊の力が強すぎるのでミアが扱うのはまだ無理だ。

 ミアも精霊魔術の勉強は欠かせていないのだが、とても難航している。

 その理由の一つに、これ以上精霊を借りれないため、下位の力の弱い精霊で色々と精霊に慣れたり試したりすることが出来ずにいるせいと言うのもある。

 ミアに憑いている精霊は、それ単体で都市一つを簡単に滅ぼせるほど力が強いのだ。

 おいそれとその力を試すことすらできない。

「あっ、じゃあ、ミアちゃんへの報酬はそれでどうですかぁ? 部屋を涼しくする魔術ですよぉ」

 と、アビゲイルが嬉しそうな声を上げる。

 そうすれば、アビゲイルが個人的私用で既に半分ほど使ってしまった修繕費から支払われる報酬からミアの分は減らすことが出来る。

「え? 空気を冷やす魔術ですか?」

 と、ミアがそれに食いつく

「はぁい!」

 と、アビゲイルは笑顔で答える。

 アビゲイルからすればそんな魔術はすぐに用意できるし、ミアは優秀なので教えるのも楽だ。

 大した労力でもない。

「やりますやります!」

 と、ミアが元気よく答える。

「えぇ…… ミア本気なの……」

 と、だるそうにスティフィが反応する。

 北国生まれなので、スティフィは暑さに弱い。

 その上で幽霊が居て、祟り神の領域へと行くなど信じられない。

 ただ、夏バテしているだけに、部屋を涼しくする魔術にスティフィも興味がある。

「ミアちゃんが動けば、ミアちゃん係の他の人達も…… 芋づる式についてきますよねぇ。後はサリー教授にでも協力を依頼すればどうにかなりますねぇ」

「何でサリー師匠が?」

 と、嫌そうな顔をしてジュリーがそう言った。

「百年以上も放置された館ですよぉ? それを修繕するんですよ? 必要ですよ!」

 と、アビゲイルは自信を持ってそう言った。

 それにお人よしで、マリユ教授の親友でもあるサリー教授であれば頼めば手伝ってくれることだろうと、アビゲイルは勝手に予想している。

 また館の修繕で大いに力を貸してくれるはずだし、雑多な魔術を多く内包する自然魔術なら幽霊にだって効果がある魔術があってもおかしくはない。

「まあ、確かにサリー師匠なら…… そう言うの得意そうですよね」

 と、ジュリーは言いつつ、神嫌いのサリー教授が無月の女神の領域に立ちいるとはジュリーには思えない。

 恐らくアビゲイルの思惑通りにはならないだろうと言うのがジュリーにはわかる。

 無論、それを今は口には出さない。

 なら、自分も今回は同行しなくても良いか、とジュリーは心の中で思う。

 ツチノコを発見したときの賞金だけで、この夏を乗り切るつもりでジュリーはいるのだ。

 それに、ジュリー自身としても無月の女神のような祟り神と関わり合いにはなりたくはない。

「ジュリー、あんたもう完全にサリー教授の弟子なのね」

 と、皮肉を込めてスティフィが言うが、

「はい! このままサリー教授の助教授を目指す予定です」

 と、希望に満ちた目でそう答えた。

「あ、そこまで入れ込んでるのね」

 輝く大地の教団のほうはもう良いのか、とスティフィが気にするほど、ジュリーは清々しい表情を見せている。

「あとは、ディアナちゃんは……」

 と、幽霊相手なら使徒の力も必要になるかもしれない、とアビゲイルはディアナに視線を向けるが、そこに居たのはとろける様に机に寄っかかり微動だにしないディアナの姿だった。

「夏バテで溶けてるので無理ですね」

 ミアが代わりに答える。

「使徒様のお力は借りれないかぁ……」

 と、アビゲイルが残念そうにそう言った。

 相手はアビゲイルからしても未知の存在の幽霊達だ。

 上位種である使徒が居れば心強かったのだが、ディアナに何かを強要させられるのはミアくらいなものだ。

 それに相手は使徒なのだ。

 利用するにしても細心の注意を払わないといけない。向こうが乗り気ではないのであれば、無理に誘うのはかえって危険と言うものだ。

「ああ、幽霊が相手なのか…… 幽霊…… どうなの? そんなの私もそこの犬しか知らないわよ?」

 と、スティフィがマーカスを見ながらそう言った。

 当のマーカスはそんな眼で見られても困ると言う顔をするだけだ。

「まあ、最悪、ミアちゃんの荷物持ち君がいればどうにかなる気はするんですが…… 恐らくはその幽霊の方々、知り合いなので、できればちゃんと成仏して欲しいんですよぉ」

 アビゲイルはそう言ってマーカスの目をじっと見つめる。

「は、はあ、善処はしますが期待しないで下さいよ?」

 ミアが同行するのなら、結局は自分もとマーカスも覚悟を決めるが、なにができると言われれば、幽霊相手にマーカスも何かできるわけではない。

 なにせ特に冥府の神の魔術を学んでいるわけではない。

 多少その神与文字を扱える程度だ。

「ん? その幽霊って、あんたの知り合いなの?」

 アビゲイルの発言に引っ掛かったスティフィが聞き返す。

「ええ、まあ、姉妹弟子達ですねぇ…… 師匠を怒らせてしまったらしくて全員、惨たらしく処罰されたそうですよぉ」

 それを聞いて、スティフィの顔から血の気が引いていく。

 マリユ教授なら実際にやりかねないことだし、その後始末を弟子にやらせるのも容易に想像がつく。

「えぇ…… まあ、マリユ教授ならやりそうよね」

 スティフィはなんだか嫌な予感がしてならない。

 無月の女神は、呪いの神でもあり、嫉妬の女神でもあるのだ。

 その巫女候補達の幽霊など厄介極まりないに違いない。

「でも、そんなに怒らせるとか何をしたんですか?」

 ミアが疑問を口にする。

「あー、主の領域なのに男を連れ込んで色々と最後までやっちゃってたみたいですよぉ」

 アビゲイルはそれをあっけらかんと言った。

 処女の守護者とも言われる祟り神の領域でそんなことをしたらどうなるか。

 マリユ教授が手を下さなくとも、間違いなく神罰がくだる。

 いや、マリユ教授が虐殺することで、アビゲイルの姉妹弟子達だけでなく広範囲にわたり強烈な神罰がくだるのを阻止したとも言える話だ。

 その為にマリユ教授も、わざと惨たらしくその者達を罰として処分したのかもしれない。

 それだけに、そうされた者達の恐怖や未練は強く残っている。

 幽霊になる条件は十分に揃っているのだ。

「あぁ…… 無月の女神の巫女の弟子がそれしちゃねぇ……」

 恐らくその当人達だけでなく知っててマリユ教授に知らせなかった他の弟子たちも全員まとめて始末したのだろう。

 そう言った意味では、手元に置いて置かなかったアビゲイルが助かったのはマリユ教授の采配なのだろう。

「え? 色々ってなんですか!?」

 ミアが何かよほどのことをしでかしたのだろうと、内容が気になりだしたのだが、

「ミアには一生関係のない話よ。巫女でいたいならなおさらよ」

 と、それをスティフィがそう言って諫める。

「よくわかりませんが、気にしないことにします」

 ミアもそう言われたら、気にするのをやめるしかない。

 自分には知らなくて良い事だと、ミアは言い聞かせる。

「ミアちゃんはそれでいいですよぉ」

 と、アビゲイルもスティフィと同意見だ。

 巫女が必ずしも純潔でならなければならないわけではないが、どういう訳か神は、神々は、童貞や処女が好きなのだから仕方がない。

「そうよね、無月の女神の巫女は特にというか、絶対的にそうよね。あんたは…… 勘当されてたんだっけ?」

 と、スティフィはアビゲイルを見る。

 だが、逆によくこんな自由奔放な女を外に出せたとも思える。

「勘当ってわけじゃないですよぉ。才能があったので旅に出されたって感じですよぉ。間違えて殺しちゃわないようにと」

 アビゲイルはニコニコ笑いながらそんなことを言っている。

「まあ、あんたの性格ならつい殺したくなっちゃうわよね…… って、でもよく旅に出したわね。旅先で…… なんて考えなかったのかしら?」

 アビゲイルの性格的についのりでしちゃうなんてことが、ありそうだとスティフィには思える。

「あー、それに関しては私は平気なんですよぉ。女性器自体がないので」

 と、ケタケタと笑いながらアビゲイルは言った。

「は?」

 と、スティフィが本気で驚く。

「穴がないんですよ。生まれつき」

 周りの人間も理解できていないようなのでさらに付け加える。

「えぇ…… えっ、待って、あんた、次の巫女候補よね? それって無月の女神が女ってちゃんと認めてるの?」

 スティフィがまず思った事はそれだ。

 無月の女神の巫女候補が性別不明など前代未聞の話だ。

 下手をすれば無月の女神の祟りでこの地が汚染されかねない話だ。

「師匠も当時相当迷っていたらしく、主に聞いたそうですよぉ。私の右目を捧げてですねぇ。この子は女として認められるのかって。で、この義眼が返って来たんですよ」

 そう言ってアビゲイルは右目を見せつける。

 その眼は義眼でとても優れた神器と言う話だ。

 そうであるのならば、アビゲイルは女として認められた証拠でもある。

「ああ、それでその義眼なのね……」

 スティフィも納得し、安心する。

 そして、あのマリユ教授がアビゲイルを特別視するのにも納得がいく。

「ええ、で、師匠もそれで悟ったそうですよ。私が師匠の後を継ぐ逸材だって。だから、間違えて殺さないように私を旅に出したんですよぉ。まあ、旅に出る前に師匠を怒らせて勘当同然に放り出されたのも本当ですけどねぇ」

 結局勘当されてるんじゃないか、とスティフィは思ったが口にはしない。

「まあ、何て言ったらいいか、あんたらしいわね」

「あははははは。そんなわけで私の姉妹弟子をどうにかこうにか冥界に送ってあげたいんですよぉ」

 何がおかしいのか、アビゲイルは笑いながらそう言った。

 ミアが何とも言えない顔をしてマーカスを見つめる。

「マーカスさん、できますか?」

 そして、そう聞くのだが、マーカスも何とも言えない顔するだけだ。

「死者を冥界に送る方法ですか…… しかも、他の神の領域で? 流石に知りませんよ?」

 マーカスが冥府の神より授けられた術は、黒次郎を復活させるための陣だけだ。

 死者を冥府に送る陣など見当もつかない。

 マーカスも冥府の神の神与文字はある程度理解はできるので、それで新に術を作ることはできるかもしれない。

 ただ、それを無月の女神、祟り神の領域で行うとなると話はまた別だ。

「あー、じゃあ、白竜丸ちゃんにでも喰わせましょう。呪いを食べれるなら幽霊もいけるんじゃないんですかぁ」

 と、マーカスの自信の無さを見て、アビゲイルがそんなことを言い始めた。

 確かに呪痕や外道種を食べるような白竜丸なら、幽霊すら食べそうなものだ。

「あんたの姉妹弟子じゃかなったの……」

 スティフィが信じられないものを見る様にアビゲイルに視線を送る。

「死んだ人より生きてる師匠の言いつけですよぉ!」

 と、アビゲイルははっきりとそう言った。


 そんな様子をルイーズが、少し離れた位置からつまらなそうに見ている。

 護衛であるブノアの方を見上げるが、ブノアは黙って首を横に振るだけだ。

 ルイーズは今回も居残りかと、ため息を吐いた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る