身近に潜む非日常 その2

 ミアは雑記帳の切れ端に小さな捕縛陣を書き、それにコバエと思しき何かを陣の上に数匹ほど閉じ込めて図書館に持ち込んでいた。

 閉じ込めたコバエの特徴を観察する。

 体長は本当に小さい、花の種よりも更に小さく感じる、具体的に言うと胡麻粒よりもさらに小さい。全体的に黒い色ということを除けばだが、それでもどこか小さい花のようにも思える。

 全体的には黒いのだが腹の部分だけ赤と黒の縞模様になっていて少し気持ち悪い。その赤い色から蚊のように血を吸うのではないかと思えてしまう。

 頭部のようなものは一応あり目のような、模様のようなものも確認できるが、口と思しきものは見て取れない。が、そもそもが小さいので観察すること自体が難しい。

 羽は四枚あり、ぴったりと十字に開いている、これのせいで小さな花に見えるのかもしれない。そして、その羽と羽の間に足と思しきものが一本ずつ生えている。

 つまり足らしきものも四本しかない。たまに羽と足をじたばたと気味悪く蠢かせている。

 数匹捕まえてきてはいるが、どれも同じ形をしている。何らかの拍子に足や羽が欠けたという事もなさそうだ。

「これ、本当にコバエ、いえ、虫なんですか? 私の知っている虫とは少し違うような気がするんですよね」

 ミアが首をかしげながら言葉を発した。

 どもこのコバエのような何かを見ていると、ぞわぞわしてくるのをミアは感じていた。

 それは違和感にも近いものであり、未知の物への恐怖からくるものだったかもしれない。

「いや、でも、これ…… 虫じゃない? コバエじゃん? それに違うって言うなら、なんなんだよ?」

 と、特に何もしていないエリックが少し不貞腐れた顔をして返事をした。

「それを調べに来ているんですよ」

 ミアは喋りつつも、何もしないのならついてこなくても良かったのにと思いながら昆虫図鑑をめくる。

 手書きではあるが詳細にまで描かれた昆虫達の図があり、それの詳細が事細かに書き込まれている。

 が、このコバエと思しき何かと似たようなものは、今のところは発見できていない。

 ついでにエリックは椅子に座り、ただ暇そうにコバエのような何かとにらめっこをしているだけだ。

 自分で調べる気は皆無のようだ。

「とりあえず虫の範疇にない気がします。この昆虫図鑑によると、昆虫は足が六本だそうですよ。これは足四本しか見当たりませんし……」

 ミアがそう言うと暇そうにしているエリックがコバエのような何かを見ながら言い返してくる。

「は? ん……? そーなのか? いや、でも、待ってくれよ、百足とか足いっぱいあるぜ? 百足は虫だろ?」

 そう言われて確かに、とミアも思ってしまう。

「そう言えば、そうですね。じゃあ、百足は昆虫じゃないのですかね?」

 では、百足はなんだろう、とミアの中でも疑問が浮かぶが、ミアの中で答えは出ないし、どうでもいいことだった。

 ミアにとっては百足は毒を持つ虫で害虫でしかない。

「あれ? ん? それに蜘蛛も足、六本じゃなくね?」

 と、更にエリックから追い打ちが来る。

 ミアは記憶の中の蜘蛛を探るが、足の数など覚えてはいない。六本だった気がするし、八本だった気もする。

「え? そうでしたっけ? そう言われればそのような気もしますね…… でも蜘蛛は昆虫でしょう? 見た目が昆虫って感じです」

 ミアの勝手な想像でしかないが、百足は虫ではないと言われれば、なんとか納得できるものがあるのだが、蜘蛛と言われると虫では? と思えてしまう。

 この世界で虫と昆虫の差など教えてくれるのは物好きな神くらいなものだ。この図鑑もそう言った意味では偏った知識によって書かれているものには違いはない。

「足六本じゃないから昆虫じゃないんじゃなかったのか?」

 と、何もしていないエリックに責められ、ミアは少しイラッとしたがそれを顔には出さなかった。

「この図鑑にはそう書かれているんですよ」

 ミアがそう言うと、エリックは呆れたように、大げさにおどけて見せた。

 まるでミアを煽っているかのようだ。

「おいおい、この図書館の図鑑も結構いい加減だなぁ、な?」

 と、エリックは更に大げさな手ぶりで答えた。声も大きい。

 ミアはなんでそんなことを急に言われたか理解できなかったが、手に持っている図鑑を投げつけたい気持ちを抑えた。この手書きにで詳細に書かれている図鑑は非常に高額なものだ。

 だが、この分厚い図鑑を投げつけられたら、どれほど気分がすぐれることか、その気持ちを必死にではないが、まあまあの気合で抑えた。

「そんなことないですよ、ここに貯蔵されている本はどれも素晴らしい物ってサンドラ教授が言ってましたよ」

「サンドラってあの購買部の強欲ババアか。確か商売の神様…… えっと、名前忘れたなぁ…… 大方この図書館の本が高値で売れるっていう意味で言ったんじゃないか? 俺ん家も商家で確か同じ神信仰してたんだから、わかんだよ。かーっ、これだから商売人ってやつは浅ましい、よな?」

 なぜか不可解な同意を求めてくるエリックにミアは呆れながら、

「どうなんですかね」

 と、ミアは返した。

 確かに守銭奴のような教授だとミアも思う。が、とりあえずこの男、エリックよりはまともな人物なのは確かだとは確信している。

 にしても信仰していた神の名すら忘れたとか、呆れと軽蔑の眼差しをエリックに向けるがエリックはその視線を気にも留めてない。

 その直後、足音も気配も何も感じなかったが、急にミアの肩がポンポンと軽く叩かれた。

「え?」

 驚いてミアが振り返ると、そこにはスティフィが立っていた。

 ミアと同じく線の細い女性だが、出るとことはでていてミアと違いメリハリがあり、少し冷たい印象を受けるが整った顔立ちで切れ長の目。そして綺麗なまっすぐな銀髪が印象的な少女だ。

 言ってしまうと、スティフィはかなりの美人である。

「探したよ、私の大親友ミア」

 と、スティフィは振り向いたミアに声をかけてきた。

 ミアが何か返事する前に、エリックが割り込んできた。

「え? 誰? その美人? ミアちゃんの知り合い?」

 エリックは身を乗り出し、ついでに鼻の下を伸ばしながら言ってきた。

 明らかに下心が覗いて、いや、下心しかないように思える。

「昨日より私の親友候補になった、ただの友達というか、知り合いのスティフィです」

 ミアは一応は依頼主なのでスティフィを紹介した。

 恐らくスティフィはミアを手伝ってくれると、そのために探してくれるという確信がミアにはある。それはもちろん自分に取り入るための行為なのはわかっているのだが、ミア自身その行為に甘えてしまうところが既にある。

「はい、昨日からミアの大親友になったスティフィです。ええっと、こちらが依頼主のエリック?」

 そう言いつつも、スティフィは既に軽蔑の眼差しをエリックに向けていた。

 ミアは一瞬なんで依頼主のことを知っているのか不思議に思ったが、ミネリアさんと騎士隊寮の管理人の二人に話を聞けば、大体のことはわかるか、と思い当たる。図書館で調べることも騎士隊寮の管理人には告げてきている。

 そして、一応エリックと討伐対象を紹介することにした。

「そうです。こちらがコバエ退治を依頼してきたエリックさんです。で、こちらが退治されるべきコバエのような何かです」

 と、机の上に置いてある何かを指さしながらミアが答えた。

「何このきもいの」

 と、スティフィが率直な反応を見せる。その言葉がエリックに向けられたのか、コバエのような何かに向けられたのかはわからない。

 とりあえずミアはコバエのような何かに向けられた体で話を進める。

「しいて言えば、討伐対象です。虫除けの香も、殺虫陣も効かない何かです。調べ中ですが全くその正体が分かりません。このよくわからない何かが、エリックさんの部屋にはわんさか湧いていました。フーベルト教授が午後も空いているなら、助けを乞いたいところでしたよ」

 午後は居留守するから、そう言って自室に戻って行くフーベルト教授をミアは思い出す。

 とはいえ、既に十分手助けしてもらってはいる。成果にはつながってはないが。

「確かに、これ虫…… とは少し違うような?」

 スティフィはそう言って視線を机の上に置かれた何かに向ける。

 スティフィの冷たい視線がコバエのような何かをじっくりと観察している。

「それよりスティフィ、土曜日の祭事とやらはいいのですか?」

 と、今日は朝から付きまとわれると思っていたが、デミアス教の毎週ある祭事とやらにスティフィは参加していたようだ。

 ミアもその祭事に誘われていたが、丁重に、ではなくはっきりきっぱりと断っている。

「ええ、午前中で終わったよ。そもそも強制参加でもないしね。でも、大神官様からミアのことを念入りにって、再度、命令されてしまったわ」

 と、頬を染めてスティフィが舞い上がっていた。

 昨日とは少し様子が違う友人を観察すると、何やらお化粧のようなものをスティフィがしていることにミアは気が付いた。

「なんかスティフィ昨日と少し違くないですか?」

 わざと化粧のことは言わず疑問を投げかけると、スティフィはその場で一回転してミアの隣の席に座った。

 スティフィが回ったことによりいい香りも漂ってくる。香水もつけているようだ。

 そして机に頬杖をついてミアの顔を嬉しそうに覗き込んできた。

「え? あっ、わかる? それは大神官様に会うためにおめかししていったからよ。だって、直接使命を言い渡された昨日の今日よ、また私に注目してくれるに決まってるもの!」

 と、スティフィは嬉しそうに教えてくれた。

 それに対してミアはあこがれというよりは、これは恋というものなのでは、と思うが口には出さない。

 ただ気になることがある。ミアはそれを直接口にする。

「ダーウィック教授は既婚者と聞いてますよ?」

 そして、ミアはその言葉を言った後、押し黙ってスティフィの反応を待つ。

 けど、スティフィは特に気にしている様子はない。

「そんなの知ってるわよ。でも、デミアス教徒にとってそれが何の障害になるというの?」

 平気な顔してスティフィは語った。

 ミアは、なんだ知っていたのか。と、それだけ安心し、それ以上は深く考えるのをやめた。他人の、他の宗教のことに首を突っ込んでもいいことはない。

「え? え? マジ? スティフィちゃん、デミアス教徒なの?」

 ここで、おとなしく話を聞いていたエリックが興味ありとばかりに割り込んで来た。

「そうだけど、それがなに?」

 かなり怪訝そうな表情を隠しもせずスティフィは答える。

 デミアス教は言ってしまえば世間一般では邪教の類だ。あまり良い印象を持っている人間は少ない。

 が、エリックの表情はなぜか気味の悪い笑顔だった。

「あの欲望に忠実という?」

 さっきまで気味の悪い笑顔だったエリックが急に真剣な面持ちになりスティフィを凝視しながら聞いてきた。

「そうだけど……?」

 余りにも真剣な眼差しにスティフィが少し気圧されながら答える。

「じゃ、じゃあさ、じゃあさ、すぐにやらせてくれるっていう?」

 エリックは、真剣な表情から打って変わって、今までで一番の嬉しそうな良い笑顔でそう言い放った。

 その瞬間、ミアとスティフィの顔から表情が消えた。

「え? ミア、何コイツ?」

「依頼主です」

 と、端的にミアは答えた。

「え? 違うの?」

 エリックが訳が分からないといった表情を見せる。

「いや、まあ、違くはないけど。ただデミアス教の信者は欲望に忠実なだけであって誰彼構わず股を開くって話じゃないけど?」

 スティフィはゴミでも見るような目でエリックに反論するが、エリックはそれを特に気にしているともミアには思えなかった。

 それどころか、

「え? あっ、じゃあさ、じゃあさ? スティフィちゃんの御眼鏡にかなうのであれば、そういう関係にもすぐになれるってこと?」

 と、嬉々として聞いてきた。

「いや、ほんと何コイツ?」

「依頼主のクズです」

 と、ミアは端的に答えた。

「んー、そうか、じゃあ、俺がんばるよ」

 いい笑顔を見せながらエリックが応えるが、何に応えているのかはミアには不明だ。

「何を頑張ろうって言うんだ?」

 もう視線も向けず吐き捨てるようにスティフィが言った。

「エリックさん、スティフィはおじ様好きなようなので、エリックさんは範疇外だと思いますよ」

 ミアは、既になんだこれ、と思いながら、一応エリックに忠告する。

 ミアなりの友人を庇うための言葉だったか、その友人からは、何言ってるの、という表情を向けられている。

「おじ…… 様好き……?」

 が、一応そのかいはあったらしくエリックは驚愕の表情を見せ、何かを考え込んだ。

「いや、待って。大神官様の外見ももちろん嫌いじゃないけど、私は大神官様の生き様を好きに、というか、あこがれているわけで……」

 顔を真っ赤にし、少し慌てながらスティフィが弁明する。

 そしてミアは、ああ、やっぱり好きだったのか、と、その気持ち一つで何処からか知らないが遠いところからやってくるとはご苦労なことです、と自分のことは棚に上げて口には出さないが思っていた。

 その間に、エリックは何か思いついたのか、ミアの対面の席で低い唸り声を上げて、スティフィの方を向き、いや、スティフィの瞳を見ながら、

「んんんんー!!! 俺の親父も割と渋めの感じの親父だから、将来俺も渋めにはなると思うんだよなぁ」

 と、ティフィの瞳に映った自分の姿を見て、誰に言うでもなく、しいて言うならば瞳に映った自分に対して喋っていた。

「いえ、あったばかりでなんですが、エリックさんからは軽薄さしか感じれませんよ?」

 スティフィが無反応だったので、見かねたミアが思っていることを正直にそのまま伝えたのだが、それは伝わっていないように思える。

「いやいや、その軽薄さが熟して渋くなる的な?」

 もう多くの人に言われ慣れているのか、エリックは怯むことなく即座によくわからない返事を返してきた。

「いや、ほんとになんなの、コイツ?」

「依頼主の…… って、いうのはもういいですので、私が報酬貰った後で二人でやってくれませんか?」

 もうどうでもよくなったミアが、ため息交じりにそう言うと、

「え? それってミアちゃんは俺とスティフィちゃんのことを応援してくれるってことか? だよな?」

 と返ってきた。

 本当に話が通じないんだ、とミアが実感してスティフィに話を振った。

「うわっ、凄い積極的ですね、良かったですね、スティフィ」

 と、スティフィの方を向き、張り付いた笑顔でそう言うと、

「いいのか? 未来の親友候補の彼氏がこんなんで?」

 と、スティフィに真顔で返された。

 ミアは言われたことを想像する。スティフィによる勧誘の話は置いておいて、友人としては、まあ、ミア的には問題ない、既になんだかんだで何かと助けてもらっている気がする。

 その友人の彼氏がエリックになるという事は、必然的にミアの周りにエリックがいるという事になる。

 それは何かすごく疲れる事なのでは? とミアは想像できてしまう。

「それって、俺の彼女になってくれるってことでいいのか? だよなぁ?」

 と、エリックは一人頷いている。

 そんなエリックをミアは見ながら、

「それは…… 嫌ですね」

 と、つぶやいた。

 それを聞いたスティフィも安堵のため息を漏らしてから、エリックの方に視線を送る。

「とりあえず、ええっと、エリックだっけ? あんたが私の彼氏になるようなことはないから、諦めてくれない?」

 ミアの発言を受けて、ではなく元からそのつもりのようだが、スティフィはしっかりと断りの返事をする。

 が、

「いいや、俺はあきらめないね、俺は今運命の人をたった今見つけたんだ!!」

 と、エリックはいい笑顔で返してきた。

 その言葉にスティフィの怒りが、チリチリとした燃えるような怒りの感情がミアには感じられたが、その怒りが表に出るよりも早く別の方向から冷ややかな声がかけられた。

「エリック。その言葉、先週、私にも言ってたわよね?」

 急なその言葉に、ミア、スティフィ、エリックの三人が声の方に向き直る。

 そこには白い法衣をを着た黒髪の美人が立っていた。腕には図書館員の腕章もしている。

「げ、輝く大地の教団の法衣……」

 不愉快そうな顔をしながらスティフィが小さな声でつぶやき、

「ジュリー先輩……」

 と、エリックが顔を引きつらして答えた。

「どちら様です?」

 ミアだけが何もわからず疑問を返す。

 黒髪の美人から返ってきた返答は、

「まずは図書館内では静かにお願いします」

 だった。その返答にミアは、

「はい、申し訳ないです」

 と、素直に謝った。

「その服はデミアス教の……」

 その後、黒髪の美人はスティフィを見て、スティフィと同じく不愉快そうな表情を浮かべた。

 その二人の表情からミアも二人の、というか、その信仰している宗教間の関係性はなんとなくだが推し量れた。少なくとも友好的な間柄ではない。

「なに?」

 スティフィは不愉快そうな表情のまま、いや、それ以上に鋭い目つきで答える。

 さっきまでエリックに向けられるはずだった怒りすら向けられているように思える。

「いえ、なんでもないです。ですがその男は……」

 黒髪の美人の表情が無表情に戻り、何かを言いかけるが、

「あんたのなら引き取ってもらえる?」

 と、スティフィが割り込んだ。

「ち、違います。言い寄られて困っていたところです!!」

 無表情から一変し、顔を真っ赤にさせて黒髪の美人は叫んだ。

「いやー、俺のために二人で争うだなんて」

 エリックが自分に酔っているようにそう言うと、

「口を開くなよ」

「あなたの為ではありません」

 と、激しく大声で二人の叱咤が飛んできた。

「ええっと、とりあえず図書館では静かに?」

 それを冷ややかな目で見ていたミアがそうぽつりと漏らした。

 それと同時になぜか一人疎外感をミアは感じていた。

「す、すいません……」

 そして、まだ顔を真っ赤にさせたまま、黒髪の美人はミア謝ってきた。

 なんだかよくわからない状況になったとミアは、

「うーんと、悪いのですが邪魔なので全員どっか行ってはくれないでしょうか? 銅貨一枚のためとはいえ、少々労力を使いすぎている気がするんですよ」

 そう本音をさらけ出した。

 すでに銅貨一枚以上の労力はしていると思うし、なんだかよくわからない展開になってきてしまっている。

「ミア、待って、私は手伝う、そのために探して来たんだから。使命だから」

 スティフィは真剣な面持ちでまっすぐにミアを見つめ必死に嘆願してくる。

 ミアも、スティフィは、こうなった原因ではあるが元凶ではないし、手伝ってくれるのも事実だと理解できている。

「一応、俺、依頼主なんだけど?」

 既にミアの中では、色々な意味で元凶がなんか言っている、という事になっていたし、依頼主だからと言って、何もしないのであれば図書館にいる意味はない。

 そもそも図書館にもついてこなくても良かったのに、とさえ思っている。

「あのコバエだかなんだかわからないものがいっぱい舞っている部屋で待っていてくれませんか? 何とか調べてご報告には向かいますので」

 ミアは素直な気持ちでそう言うが、エリックは笑顔のまま動こうとしない。

 それにを見かねた黒髪の美人が声をかけてくる。

「あなたたち、そもそも何しにここへ来たの?」

「えっと、ジュリーさんでよろしかったですか?」

「ええ、ジュリー・アンバーです。輝く大地の教団の一信徒で、巫女科のですがこの学院では、あなた方よりは一年上の先輩という事になります。あと、この図書館では図書館員として働かせてもらっています。あなたは…… 知っているわよ。有名人さん」

 そう言って、ジュリーと名乗った黒髪美人は、ミアを品定めするように見つめた。

「有名人?」

 ミアは思い当たってはいるが、そのことを認めたくないようにその言葉を繰り返した。

「そう言われるのが嫌とも聞いているので、私からは言いませんが」

 ジュリーはそう言っているが、それはもう言っているようなものだ。

 祟り神の巫女なのだと。

「そんなに有名なのですか……」

 ミアは改めて、その祟り神という事実無根な言いがかりとその言葉の影響力を再認識した。

「まあ、ミアのことは学院側で大々的に発表されてたからな」

 スティフィもそのことを理解しているようだ。

「え? ミアちゃん有名人なの? やっぱりすげーんだな」

 と、一人だけまるで理解できていない人もいるが、そのことでミアにとって何の救いにもならなかった。

「とりあえず話が進まないので、スティフィもエリックさんもちょっと黙っててください」

「えぇ……」

 と、二人が声を合わせて答えた。

「私はそこのエリックさんの依頼で、元をただせばただのコバエ退治だったのですが、虫除けの香もフーベルト教授の殺虫陣も効かない、このコバエのような何かの正体を調べに来ています。ついでに報酬は銅貨一枚ですか、その分は既に働いてはいると思います」

 机の上に置かれたそれを指さしながらミアは答えた。

 しばらくは捕縛陣の力でその場に留まっているが、魔力が切れたらどこかに飛んで行ってしまうかもしれないそれを指さした。

 ジュリーは指さされたそれを観察し、いや、どちらかというとコバエのような何かよりも、魔法陣の方をよく観察しながら答えた。

「虫のようだけれど…… 虫ではなさそうね。それはそうと、この魔法陣はあなたが?」

「はい、私が書いた陣で捕縛陣の一種です」

 陣自体も小さく対象も小さく非力なので、魔力の消費も少なく魔力の水薬一滴でかなりの長時間この陣に拘束することができる。

 どちらかというと、雑記帳の一頁を毟り取った紙なので、触媒の陣を描かれた紙の方の耐久面の方が少し気になるくらいだ。墨で描かれた陣が壊れてしまえば元もこもない。

「流石は…… のとはいえ神の巫女、素晴らしい魔法陣ですね。にしても、足に見えるけどこれは足ではないし、頭部も本物の頭ではないですし…… やはり虫、というか、生き物でもなさそうな?」

 祟り神、と言わないだけですでに言っているようなものだが、ジュリーには他意はなさそうだ。

 ミアも特に気にしていないようで、ジュリーの言葉に相槌を打っている。

「でも自ら動いて飛ぶというか、舞い飛んでいるんですよ」

 今もコバエのような何かは足と羽をジタバタと動かしている。

 ただそれは見方によっては生物的というよりかは規則的に動いているようにも見える。

「でもこの魔法陣の中でも動けるものなの?」

「その陣は、対象を一カ所に射止める意味の陣なので、元々これくらいは動けるんですよ」

 この捕縛陣は、対象の動きを止めるではなく、移動できなくするという意味の陣で、陣の中で移動しなければ動くこと自体は可能だ。

 対象の動きを全部停めない分、魔力の浪費も少なくて済む。

「陣の意味までちゃんと理解できているのね。良ければ私もお手伝いしましょうか? 今日は土曜日で利用者も少ないし」

 ジュリーはミアの書いた魔法陣に関心したのか興味あるのか、それとも言葉の意味そのままなのかそう申し出てくれた。

 その申し出をミアは素直に嬉しく感じたが、黙ったままの二人を一度見て、ため息をついてから、

「そうなのですか? お休みの日の方が利用者は多そうなのですか……」

 と、聞いた。

 魔術学院はどの学院も基本土日は休みだ。

 それを考えると、ミアは快適な環境の図書館は人が多そうに思えるのだが、そうではないらしい。

「土曜日の利用者はなんていうか、本好きな人が多いのよ。静かに本を読むだけの人が多いので静かなもので、仕事もないのよ。今日も騒がしいのはここだけだしね」

「それは申し訳ありません。あと手伝ってくれるという件ですが…… 私の親友候補のただの知り合いのスティフィか、なんというか敵意むき出しなので……」

 ミアはもう一度スティフィの方を見ると、未だにジュリーに対して、気に入らない、というか、完全に敵意を向けているのがわかる。

「あっ、そうね。彼女、デミアス教だものね。わかったわ、静かにしてくれていれば問題ないから。探している本の場所とかわからなかったら聞いてちょうだいね」

 ジュリーはそう言って足早にその場から去って行った。

 特に名残惜しいとかそういったものは感じられなかった。本当に暇だったから手伝おうとしてくれただけなのかもしれない。

「はい、ありがとうございます」

 と、その背中に向けてミアが声をかけると、ジュリーは振り返らずに手だけを振って見せた。

「で、スティフィ。なんでそんなに敵意むき出しなのですか?」

 今はうつむいているスティフィに向き直りながら、ミアは声をかけた。

「輝く大地の教団は光の女神の教団のうちの一つで、デミアス教の仇敵…… なのさ。まあ、闇の勢力と光の勢力の末端組織同士って感じかな。もう長い間停戦中ではあるんだけど、仲がいいわけではないし、私自身も気に入らないんだよ」

 大体ミアの予想していた通りの答えが返ってきた。

 スティフィはしきりに左腕を右手で押さえている。昨日知り合っただけのミアから見ても、気に入らない、という言葉よりももっと深い何かがありそうに思える。

「そうなのですね。暗黒神も大変ですね、法の神やら光の女神やらとケンカしていて……」

 ミアがそう言うと、スティフィは一度目を閉じ、なにかを小声で念じてから、目を開けた。

 そのスティフィは、ミアが知っている、と言っても昨日からなので大して知らないのだが、ミアの知っているスティフィだった。

「あー、大神官様は、昨日、ああいってたけど、ルガンデウス神とカストゥロール神は別に敵対していないし、デミアス教も法の神の宗教団体、カストゥール教とももめてないんだよ。カストゥロール神に挑んだのも腕試し的なものだったと言われているしね。ただルガンデウス神は再戦を望んでいるって話もあるそうなんだけどね」

 そう返事が帰ってきて、ミアは表には出さなかったが驚いていた。

 ミアの中では、法の神と暗黒神は仇敵同士だと勝手に解釈していたからだ。

「神様達の関係性も色々あるのですね。私はロロカカ様だけで十分ですが。あっ、エリックさんはうるさいだけなのでお帰り頂いて平気ですよ」

 ミアが黙ったままのエリックにも声をかける。

 手伝いもしないし、邪魔ばかりするのであれば依頼主とはいえ帰ってくれる方がミアにはありがたい。

「…………」

 ミアが声をかけてもエリックは黙ったままだ。

「どうしたんですか、神妙な面持ちで」

 少しぞんざいに扱い過ぎたかと、人付き合いに不慣れなミアは想いもしたが、

「ん? いや、やっぱりジュリー先輩も美人だなと、しみじみ感じていたんだよ」

 と、言う言葉が返ってきたので、どうでもいいや、と思い直すことにした。

 そして、

「ああ、エリックさんは凹凸のある女性がお好みのようですね。私は、それとは違っていて人生で初めて良かったと思えますね」

 と、素直な感想を送った。

「ミアちゃんなんか俺に厳しくないか?」

 ここで初めてエリックから抗議が来た。

「いえ、コバエ退治に来たのになぜか部屋の掃除をさせられて、ただひたすらに軽薄そうな人だなって思っているだけですよ」

 ミアがそう言うと、エリックは一瞬考えこんで、

「ミアちゃんが思っていることはわかった。なら、俺はスティフィちゃんと、二人っきりでこれから出かけるって事でいいか?」

 と返事が返ってきた。どういう思考回路をしていたらこういったことを言ってくるのだろうと、ミアには理解することができなかった。

「あんたよく今の会話の流れからそこに行きついたわね…… 私はミアに取り入るために、できる限りミアの近くにいたいのよ。あんたなんかにかまっている暇はないの」

 と、スティフィはスティフィで隠しもせずに、取り入る為と、と言ってくる。

 ミアもため息を吐いて、隠さない分いくらかマシかと考えるようになった。

「なら、ジュリー先輩もいることだし、俺もここに居よう」

 誰の意見にも耳を貸さないエリックがそう断言した。

「うっわ…… ほんと最低ですね。邪魔なので静かにしていてください」

 と、ミアの本音が口から漏れてしまう。

「わかった。任せろ。で、スティフィちゃんはさ、好物とかある? 俺の実家、商家だから金回りはいいのよ?」

 と、何が分かったのかスティフィに話しかけ始めた。スティフィはそれを完全に無視してミアに話しかける。

「ミア、手伝うわ。どの図鑑まで調べたの?」

 エリックの問いに、スティフィはもう視線すら向けなかった。

 もう無視することにしたらしい。

「そこの三巻目までは調べ終わってます。今四巻目を私が…… いえ、スティフィは何か関連ありそうな本を新しく探してみてください。恐らくは昆虫図鑑と見比べても無意味ですし。一応は私が見比べていきますが、より良い候補があったらそちらを優先して調べましょう」

「わかったわ」

 そう言って、スティフィは椅子から立ち上がり、誰かが付いてこないように足早に本の貯蔵庫へと消えていった。

「じゃあ、俺も」

 エリックも立ち上がり新たに本を探しに行く、ではなく、スティフィかジュリーを探しに行った。

 ミアはようやく静かになったとばかりに、眼を細くしてコバエらしき物と図鑑を見比べていく作業に戻った。


 それから数時間ほどして、とりあえず昆虫図鑑には載っていない。と、言うことが分かった。

 ミアはスティフィが持ってきた関連がありそうな本や図鑑とも見比べていくが今のところ手掛かりはまるでない。

 エリックは飽きたのか、机に突っ伏して寝ている。いびきをかいてないだけまだましかと、ミアはほっておいているし、スティフィにいたっては視界に入れないようにしている。

「何処にも載ってませんね」

「これ一体なんなのよ? 魔法陣の効果まだ大丈夫? これが空飛ぶとか、身の毛がよだつんだけど」

 スティフィがエリックの部屋に行ったらどんな感想を言うのか少し気になりはした。

 きっと気持ちいいほどの罵詈雑言を聞かせてくれるのだとミアは確信している。

「ええ、大丈夫です。とても小さな陣なので明日の朝くらいまでは問題はないですよ。対象も小さいですし、力もなさそうなので陣というか、この紙自体が破かれる心配もないでしょうし」

「へぇ…… すんごい長持ちするのね。で、ミアは今何で調べてるの」

「外法図鑑です」

 ミアはそう答えため息をついた。

 外法の者、要は魔物図鑑だ。この図鑑は読んでいると何かと気が滅入る。

 そもそも法則の外にいるような連中だ。人にとって理解しがたい生物が多いし、身の毛がよだつほどの気色の悪い生態をしているものがほとんどだ。

 ただミアはこの図鑑を読み進めていく上で、なんとなく確信に近い感情を持っていた。

「流石にそれは…… いや、それがもう一番可能性ありそうなのか。これが外法の者なら、そこで寝てる奴、外法の者を招き入れたとかでどうにかできないのかしら?」

 スティフィは寝ているエリックを白い目で見ながらそう言った。

 外法の者と戦うための騎士隊見習いが魔術学院に外法の者を招き入れたとしたらそれは大問題だ。

 エリックの除名だけで済む問題ではないはずだ。

「それは…… 原因次第でしょうけど十分にあるかと……」

 さすがに虚偽の報告をするつもりはミアにはないが、故意的じゃないにしてもエリックが招き入れてしまった可能性は高い。

 もちろん、このコバエのような何かが外法の者ならばだが。

「そうなってくれないかしらね?」

 と、スティフィは何の気なしに言った。

 ミアはさすがにそこまでは思わないが、思うところはある。

 そして、特に他意もなくミアも答え、図鑑の頁をめくる。

「私の報酬を貰ってからに…… って、え? ええ?」

 ミアは机の上の物体と図鑑を何度も見比べる。

 そこには机の上のコバエのような何かに似た挿絵が大きく描かれていた。

「どうしたの?」

 と、スティフィも自分が見ていた図鑑から目を離し、ミアのほうに目をやる。

「こ、これです。これ、スティフィ!! 見てください。これ、やっぱり外法の者ですよ!!」

 とうとう図鑑にその姿を発見した。

 ミアの直感通り、それは外法図鑑に載っていた。つまりは机の上に置いてあるそれは、魔物であり、人類の敵だ。

「え? 嘘? 本当に? ど、どんな奴なの? 危険は?」

 スティフィは椅子から立ち上がり、机の上のそれを警戒する。

 ミアは深呼吸をしてから、ゆっくりと慌てずに図鑑に目を通す。

「シキノサキブレ、と言う外法らしいです」

「シキノサキブレ? 聞いたことない。ど、どんなのなの? 書いてある?」

 そう声をかけてくるしスティフィの視線は、机の上に釘付けだった。

「はい、今読みます。えっと、シキノサキブレ。死蝋化した死体を条件に現れるカビが外法化したもので木曜種が堕落したもの。また非常に珍しい存在。その個体は無数に無から発生し、一見して小さな羽虫に見えるが、その正体はカビの胞子のようなものである。それ自体は特に害悪はないが、死蝋化した死体を宿主として、死鬼として蘇り夜な夜な暴れる可能性があり……」

 そこまで読んでミアは口内にたまった唾を飲み込む。

 緊張のせいで唾が多く分泌されているらしい。

 再びミアは図鑑に書かれていることを読み上げる。

「その名の通りシキノサキブレはその先触れであり、これを見かけたときは近いうちに死蝋化した死体が死鬼として蘇るので注意されたし。また死鬼がすでに存在している可能性も十分ありうる。その発生条件は不明で、死蝋化した死体があればよいというわけではなく詳細は全くわかっていない。ただし死蝋化した死体はシキノサキブレが発生する必須条件ではあると考えられる…… だ、そうです。細かい解説はまだありますが……」

 ミアはまずエリックの部屋に死蝋化した死体があったかどうか考える。

 が、部屋が汚すぎてわからない。ゴミの下に隠れてあったのなら、それを発見できることは難しいかもしれない。

 けれども、部屋は汚いながらに異臭はしなかった。少なくともミアは気が付かなかった。その観点からは死体があったとは考えにくいが、ミアは死蝋という死体の状態を知らない。それが強い臭いを放つ物なのかもわからない。

「え? 死蝋化した死体?」

 それを聞いたスティフィはそう言ってエリックを見る。

 エリックの肌は血色も良く死蝋化している死体には思えないが、ミアにもなんだか急に気味悪く思えてくる。

「ひ、人じゃないからここまで話が通じなかったんでしょうか?」

 ミアがなんとなく呟く。

 いったんそう思うとそう思えてきて仕方がないし、この寒いのに薄着なのも死んでいるからでは、と思えてきてしまう。

「いや、いやいや、さすがに…… いや、待って、これ大事だよ? と、とりあえず外法の者なら騎士隊!! 騎士隊に知らせないと」

 と、スティフィが叫んだ。

 現状エリックが死鬼なのかどうかはわからないが、シキノサキブレという外法の者がいたことは事実だ。

「そ、そうですね、き、騎士隊、騎士隊に知らせないといけないですよ!!」

 とミアも騒ぎ出す。

 そのことで、ちょうどこの辺りを見回っていたジュリーが顔を出す。

「また、騒いでどうしたのよ」

 少し困り顔で、またデミアス教徒のスティフィがいるので関わりたくなさそうにだが、ジュリーが近寄ってきた。

「ジュ、ジュリーさん、こ、これ、外法の者だったみたいなんですよ!! ど、どうしましょう? あ、念のため、エリックさんも捕縛陣で閉じ込めておいた方がいいですよね?」

 ミアが慌てて、そう言うと、外法の者という言葉を聞いて、ジュリーも驚きを隠せない。

「え? ええ? ちょっ、ちょっと待ってよ、これが外法の者? ここ魔術学院よ? なんでそんなものが? え? ええっと、ちょっと、ちょっと待ってね、そうよ、騎士隊、騎士隊に知らせて対処してもらわないと!?」

 外法の者と聞いて、ジュリーもにわかに慌てだす。

「そうです、騎士隊に連絡です!!! あと、私は念のためエリックさんを閉じ込めるので」

 そう言ってミアは寝ているエリックの周りに蝋石で陣を慌てて書き始める。

 それを見たジュリーも、

「そ、そうね、わかったわ、私が騎士隊に…… 騎士隊の教授じゃなくて、教官に知らせに行くから!! で、えっと、あの、なんの外法なの?」

 ジュリーは現状を把握しようとしているが、外法の者と聞いてかなり慌てている。

「シキノサキブレっていうカビの外法だそうです。それ自体に害はないそうですが、死鬼が現れるかもしれないそうです。その死鬼ってのもよくわからないですけども、夜暴れるそうです! あっ、あと、珍しいらしいのでその図鑑を持っていった方がいいかもしれません!! あああっ、後々、エリックさんの部屋にこれがわんさかいます。先にそっちに行ってもらった方がいいかもしれません!」

 そう言って、ミアは一度、陣から離れ外法図鑑を開いたまま、ジュリーに手渡した。

「わ、わかったわ、私が図鑑を持って走るから、あなたたちは現状維持を…… ほんとだ、これね。死蝋? え? エリック君もう死んでるの?」

 と、ジュリーがシキノサキブレの頁を読み、本格的に錯乱し慌て始めたときに、

「ん? あぁ~、良く寝た……、って!?」

 と、エリックが起き欠伸をした。

 その瞬間、エリックが起きると同時にスティフィが素早く動き、いつの間にかにその右手に持っていた短刀をエリックの喉元に突き付けた。

「動くな。動いたら容赦しない。口も開くな。 ミア、私ごとで構わない。魔法陣を早く完成させるんだ」

 本気の殺気を感じてか、エリックは冷や汗を垂らしながらゆっくりと両手を上にあげた。

「スッ、スティフィ!?」

「え? なに? なにが? ど、どうしたの?」

 と、エリックも流石に混乱しているようだ。

 そのエリックの喉元に短刀を更に強く押し当てると、さすがのエリックも大人しく黙った。その表情は混乱した人そのものだ。

「いいから、まずは早く騎士隊を呼んで来い!」

 スティフィがエリックから目を離さずに怒鳴る。

 ミアにはそのスティフィの行動がまるで別人のように思えたが、意を決して陣を再び書き始めた。

 ジュリーも無言でうなずき表情を強張らせて図鑑を持ち、図書館の出口へと向かい走り出した。


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