売れ残りおっさんだけど、追放された悪役令嬢と結婚することになりました

AteRa

おっさん、結婚するってよ

第1話 売れ残りのおっさん

「マルセル。お前はそろそろ結婚しないのか?」


 俺が父と領地の見回りをしているとき、父は突然そう聞いてきた。

 俺は諦めたようなため息をついて言葉を返す。


「はあ……今さらできるわけないだろ。俺ももう34歳。とっくに売れ残りさ」

「そろそろ孫の顔を見たいんだが。そこらの令嬢を連れてくればいいじゃないか」


 そう言った父に俺はさらにデカデカとため息をついた。


「そこらの令嬢がこの辺鄙な土地に来てくれると思うか? 川と森しかないこの土地に」


 領民も数十人前後くらいだ。

 一緒に育った幼馴染がいたが、彼女は都会に出て結婚してしまったらしい。

 まあ風の噂がで聞いただけで、本当かどうかはわからないけども。


 というわけで、今ここにいるのは、小さな子供か結婚してる夫婦のみである。


「……来ないな。くるわけないか」

「だろう? それにここの領民はみんな結婚してるか、小さな子供しかいない」


 みんな大人になったら都会に出ていってしまうからな。


「でもこのままじゃあ、領主がいなくなるぞ」

「……だったら親父がまた子供作ればいいじゃないか」

「よせやい、恥ずかしい」


 顔を赤らめ視線を逸らす父に俺は思わず再びため息をつく。

 面倒くさい父だ。


「じゃあどうしろと?」

「だからよその令嬢に嫁いできて貰えば——」


 そんな堂々巡りの会話を、領地を見回りながら一生するのだった。



   ***



「おい、マルセル! 朗報だ、朗報だぞ!」


 俺が家の前の畑を耕していると、父がパタパタと寄ってきて叫んだ。

 俺はどうせ碌なことじゃないと思いながら、父に尋ねる。


「朗報ってなんだよ。つまらない朗報だったらこのクワで耕してやる」

「大丈夫! 今回はすごい朗報だからな!」


 父は自信満々に言った。

 なんだか信用できないが、そこまで言うならちょっと聞いてやろうか。


「で、その朗報ってなんだよ」

「お前に結婚相手ができたぞ! しかも若い美少女だ!」

「え!? マジかよ!」


 思わず驚いて食いついてしまったが、俺はふと冷静になって胡乱げな視線を向ける。


「って、大丈夫かよその話。なんか裏があるんじゃないだろうな? 普通はこんなところに嫁ごうなんて思わないだろうし」


 言うと、父はそっと視線を逸らした。

 やっぱり何か裏があるな。


「おい親父。なんだ、隠し事があるなら、言ってみろ」


 俺はクワを掲げながらそう脅す。

 すると父は諦めたようにこう話し始めた。


「……しょうがない。話してやろう。確かに若い美少女がお前と結婚するというのは本当だ」

「じゃあどこに裏があるんだ。うちに財産なんてほとんどないし……」


 父は勿体ぶるように一拍置いてから口を開いた。


「その令嬢はな……王家に対する反逆罪を問われ、うちに追放されることになったんだ」

「……え? ヤベェやつじゃん」


 王家に対する反逆とか聞いてないんですけど。

 そんな物騒なやつがうちに来るの? なんで?


「国外に追放するのは公爵家だったゆえ、やりづらい。でもそこらの貴族に嫁がせると権力を持ってしまう——ということで白羽の矢が立ったのがうちらしい。うちは権力もないし、一応国内だ、一応な」


 まあ国内と言っても一番近くの街まで馬車で10日。

 領民も十人前後で、森と川に囲まれたど田舎なのだが。


 ……なるほど、確かにそれだったらうちに送りつけるのが手っ取り早いか。

 うちは一応辺境伯という立場だけど、権力も財産も一切ないしな。


「それは……断れないのか?」

「国王直々の勅命だ。無理だな」


 父の言葉に思わずがっくしと肩を落とす。

 俺はこの平穏なスローライフが音を立てて崩れていくのを感じるのだった。

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