第6話

「うまいか?」

「はい。急にお邪魔しているのにいでもらって何か申し訳なくなる」

「無理もないな。まあ今日は来たばかりなんだから少しくらいの酒は良いだろう。ほら、もう少し飲め」

「ありがとうございます」

「あああと、敬語はいらん。ため口みたいに話せ、その方が気楽だろう」

「……ありがとう。なんか中学生の頃に戻ってきた感覚がある。ここの家に来るのもお盆以来だったしな」

「そうだな。花火大会の時、みんなで見に行ったきりだな。今年も盛大にやるっていうし、人も凄い事になるしさ」

「テレビで中継しているよね、見れる時見ているよ。その度におじさんたち元気かなってさ」

「そうだ、畑山の子たちの法事が終わったの聞いたか?」

「ええ。今年で十三回忌だったんですよね」

「俺達も一応出席したよ。向こうもひと息ついてみんな安心していた」

「義姉さんたちさ、俺の両親にも結構八つ当たりしてきたことあってさ、母が宥めても簡単に口を割ってくれなくて理解してもらうのに相当時間かかったしさ」

「お前の父さんの遺産相続のことだろう。あれは本来はお前たちに行くものなのに自分らも貰えるって勘違いしていてさ。生前に貰う事を口約束したから自分達にもくれよってせがんできたんだってな。東京のみんなも大変だったな」

「あの人たち、金の事になると目が眩んで変貌してしまうのが怖くてたまらなかったよ。目の前で見た時には何物だって疑ってしょうがなかった」

「まあ当の昔に終わったことだし、今こうしてみんなが生きていることが何よりだ。お前も突拍子のない事をしでかしたが今日はゆっくり休め」

「はい、じゃあ僕も寝ます」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」


翌日になり目を覚まして隣の布団を見ると響の姿がなかったので慌てて起きてリビングに向かうと、中庭で航大が響を抱えながらあやしていた。


「おはよう。俺が起きた時に響が襖を叩いていてさ。それでこっちに連れてきてずっとあやしていた」

「そう、良かった……どこかへ行ったのかと思ったよ」

「悪い。この子も早起きだな、俺と顔を合わせた時にはにこにこしていて遊びたがっていたしさ。……さあ奏市のところに行きなさい」

「む……んああ」

「何か話したいみたいだな。そういえば響は言葉はまだ話さないのか?」

「うん。今みたいに発するくらいだよ。俺やみんなのことかは認識しているかもしれないけど、まだ話すのは早いのかもね」


朝食を済ませてから詩織が町内会の集まりがあるので一人で出かけると言いその後彼女は家を出ていった。航大は僕に今回の件について経緯を聞きたいから自宅ではなく街に出ようと言ってきたので響を抱えた後彼の運転する車で二十分先にあるショッピングモールへと訪れた。

店の中には家族連れで人が集まっていたが都会ほどの多さとは違うので少しだけ気が楽に思えた。響は見慣れない雰囲気の中にいるせいか時々僕の顔を見ていたが、一緒にいるから大丈夫だと声をかけると微笑んでいた。

衣料品のコーナーから更に奥に進むと喫茶店があったのでそこに入ることにして、席に着いてコーヒーを注文した。航大は少し暗い顔を覗かせながら僕の表情を伺っていた。


「その琳さんという人とは高校時代の知り合いだったのか?」

「はい。当時は二十歳まで付き合っていて別れてからは全く連絡も取っていなかったんです。その後にあった同級生の結婚式で再会して、それがきっかけで……また関係も持ってしまったというか……」

「酒の勢いでできたというのか?」

「オープンにしていうとそうなる。ただ俺の子として妊娠したのは一年経ってから知らされたんだ」

「おまえもそうだが、その人の落ち度もある。相手の旦那だって知らないんだろう?」

「そうみたいです。言っても信じてくれないだろうと話していましたし」

「お前はどうしたい?ここに連れてきても俺らは全てかばいきれないぞ?」

「今日帰ろうとしていたけど……もうしばらく居させてもらえないかな?」

「俺はいいが母さんや琳さんたちが今頃お前たちを探しているだろう。大変なことになっているんだ、それくらいわかるだろう?」

「せめて……もう少しこの子と一緒にいたい。向こうに帰るまでの間に琳たちと話がしたいからまずその事を考える時間が欲しい」

「会社はどうするんだ?」

「休暇届を出してきた。一週間休む事にしておいた」

「この為に無駄にする時間を費やすな。響の世話を全部自分でやるのは当然なんだからな」

「分かっているよ。おばさんの家事の手伝いもするから居させてください。お願いします」


僕は深く頭を下げて無言でいると、彼はため息をついて顔を上げてくれと言い、この後帰ったらすぐに琳に連絡をするようにしてくれと告げてきた。航大は煙草を吸い始めて首を掴みながら更にため息を吐き、僕の浅慮な姿勢に呆れてしばらくお互いに会話を閉ざしていた。

響が煙草の煙が気になったのか声を出してきたので一旦店の外に出たいと言うと行ってきてもいいと返答し、会計口に行き精算をしてから航大を残して外に出た。

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