第24話 能力者

るいと手を繋ぎ、ユキを肩車して、今ここにいる。

夕焼け、夏の日差しの暑さ、小鳥のさえずり。

こんな平和な世界が終わる…


さきの言葉…思い出してる。


※涼さん、思いっきり楽しんで、後悔しないように、時空の狭間は決して悪いものではないよ、現れる意味が必ずあるから。でもそれとは別のもの、例えるならブラックホールみたいな、もし、これが現れたら、これはどうしようもない。ごく稀に現れる。TAでその情報掴んでる。その時はとにかく逃げて。時空の狭間とは異なる異質のもの※


空を見上げて、俺は考える。いつか終わりが来る。

早いか遅いかだけ。生きる意味を考えよう。


俺はさきに言われたことを考えて、解ったこと、

それは、このような意味だ。


ユキが子供になってしまったときは精神の終わり、俺達が未来に行ったときは寿命を使う、何もかも全ては個々に与えられた時間をどのように使うか。

人は誰しも昔に戻りたい、未来に行ってみたい、

大半の人々は、人生の中で必ず考えるはず。

因果応報というべきなのか。


そんな人の思い、生命の…ライフストリーム、

個々に平等に与えられたものだ。俺達は自然と使っていたんだな。


正しく使えば。それは大きな意味と成果を得る。

逆ならば私利私欲で使ったなら、大きな代償を…


後者だろう、ほとんどの人間は。

環境破壊、私利私欲、この世界が発展し続ける

以上は、もう止められない。


……………………………考えるのはもうやめよう。


【涼ちゃん、帰りに何か食べていかない?ユキもお腹空いてると思う】


【うん…】


【涼ちゃん、さきに何か言われたの?】


【いや、特に何も…どこで食べようかな?】


【涼ちゃん、一人で抱え込まないでね】


るい、ユキ、世界が終わる時は一緒にいたいよ。

俺はるいの頭を撫でて、微笑んだ。


【ユキも撫でて!】


肩車から降ろして、そうだね、ユキもね。

ユキが嬉しそう。


【るいも撫でて!】


何だよ、子供に相手に嫉妬して、るい。

はい、いい子いい子。


二人共、嬉しそうに、笑ってる。

【今度はユキ撫でて!】


切りがないよ、二人共。

あんまり幸せを感じさせないで……

もうこれ以上幸せと思わせないで…


【涼ちゃん…涙…何か隠してるね、話せると思ったら話してね】


るい、もう優しくしないで…辛くなるだけだ。


【涼ちゃん。何あれ!】


【怖い、涼さん!】


何だ、あれ。これは…なんだよ。

大空を覆い尽くす、漆黒の暗闇。

空を全て覆う。逃げ惑う人々。叫び声。


いつもと違うぞ!これ。見たことない。

そして何とも言えない恐ろしさ!


【涼ちゃん、逃げよう!】


そうだ。とにかくここから離れよう。

少しでも明るい空がある方へ。


間に合うか!全力で。ユキをおんぶ、るいの手を繋ぎ走った。


暗闇が降りてくる。何という大きさだ。

これが、ブラックホールみたいなもの、なのか?


とにかく逃げて逃げて、走って…

何とか暗闇から抜け出せた。


【うゎーん!怖いよ〜】


子供が取り残されている。大変だ。


【るい。ユキを連れてもっと離れて!】


【涼ちゃん、まさか助けに行くの?、私も行く!】


【駄目だ!るいはユキを…頼む】


【必ず戻って。必ず!】


【解った。早く、離れて!】


俺は子供を助けに。間に合うか!

まだ距離がある!とにかく子供のとこへ。


【おばあちゃーん!】


なに、子供だけじゃないのか?


お婆さんがなんか叫んでる。


【あたしのことはいいから、早く逃げて!】


【嫌だーーーーー!】


俺は子供を抱える。


【孫をお願いします。早く逃げて!】


出来るかよ。置いていくなんて。


お婆さんも一緒に、


【足を挫いて…わたしはいいから、孫を】


置いていくしかないのか!そんなこと、

出来るわけないだろ!諦めない!


【早く、お婆さんも一緒に!】


もう飲み込まれる!


その時、何処から?頭の中に響く声…


※ダークホールを封じ込めろ、お前にしか出来ない※


何だ、この声。でも、どうやって?

間に合わない、もう終わりか…


るいが、


【涼ちゃん、逃げてーーーーー!】


馬鹿!戻ってきたのか!あれ程離れろと。


もう、俺の全てで、何も出来ないが…

何とかするしかない。


なんでこんなことになる!罪無いだろ、

ここの人達は!


とてつもない怒りが込み上げてきた!

この苦しめる、暗闇が、恐怖が、怒りに。


無意識に右手を高くかざして、暗闇に触れた。


凄まじい衝撃と共に、右手に暗闇が…

吸い込まれていく。


どうなってる?体が熱い!燃えるようだ!


………………………………………………………………………………………………………………………?


あれ、意識を失ってた?…夏の空、暑い日差し。

人々の喜ぶ声、抱き合う人々も。


るい、子供は?お婆さんは?


良かった。みんな無事だ!


【涼ちゃん………………何したの?】


えっ、俺?なにかした?


【涼ちゃん、右手見せて!】


右手、何もないが。右手がどうかした?


お婆さんと子供が、


【ありがとうございました、なんとお礼言ったら】


【ありがとう】


お婆さんと子供、良かった。無事だったね。

俺、何もしてなかったけど。なんでお礼を?


それで?暗闇は?何処へ?


記憶がない。何が起きた?


【涼ちゃん、自分で何をしたか覚えてないの?】


るい、俺、なんかしたの?何をしたの?


きれいな青空が広がって、人々の喜ぶ声。

鳥のさえずり、何もなかった平和な日常。


何か違和感がある。俺の右手が…感覚がない。

痺れてる訳でも、痛い訳でもない。

感覚そのものがない。





















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