第432話 小麦日記。ほうようりょくけいおねいさんにであったよ
「さて。桃子は仕事部屋に監禁しましょう。マチルド、ロクサーヌ。悪いけど監視してきてくれる?」
「ハーイ、ユウ。締め切り近いしコノママ徹夜させるヨ!」
「朝まで出てこないから、アトで夜食ヨロシク〜。おにぎりと豚汁ね!」
どうやら、ここの実権を握るのは夕なようだ。鬼嫁という言葉が小麦の頭によぎったが、すぐにその印象は変わることになる。
「よし。次は…真央?駄目じゃない、小麦ちゃんの気持ちも考えないと。」
「だってぇー。あのね、耳かして?」
可愛らしくもしょぼくれた顔をした真央は、夕のそばに近寄ると、コショコショと耳打ちをした。
『あのね、真央のクラスのお友達に小麦ちゃんのこと好きな子がいるのよ。だから小麦ちゃんも女の子を好きになるか、確かめたかったの。』
「そっか。なるほどね。でも、無理強いは駄目なんだよ?わかった?」
「はぁい。ごめんなさい。」
怒るけれど、夕は優しく真央の頭を撫でた。それを見た小麦は夕の人柄の良さを感じてホッとしていた。包容力のある大人の女性だ。この時、かすかに小麦の脳裏にはこの夕という女性と笑美が重なって見えていたが、小麦は気づいていなかった。
「びっくりしたでしょう?女性同士でカップルなんて。」
「いえ、さすかに共同生活をしていると聞いて驚きはしましたけど。」
「そっか。私ね、元々は男性とお付き合いしていたの。だから、びっくりする人はびっくりするのもわかるのよ。」
「そうなんですね。でも、別にそこは驚いていません。私の周りにも女性同士のカップルがいますから。」
小麦はひよりや仁映のことを思い出した。あの2人の恋人に夢中な姿を。確かにめちゃくちゃなことをする2人だけど、それだけ恋人のことが好きなのだろうと。恋とはそういう、なにか特別な感情なのだろうと、自分も経験してみたい気持ちさえ芽生えたばかりだ。
真央は夕の目を見て、小麦の情報を聞き出して欲しそうにしている。晴は真央の目的を知らないから、時間がかかるならとキッチンへ行ってしまった。家政婦さんに頼んで真央のためにご飯を作るようだ。
夕は心の中で考えていた。真央としては、小麦に根掘り葉掘りと恋愛について聞き出してほしいのだろうけど、大人がそれをするのは野暮というもの。小麦を好きな女の子がいるのなら、その子が小麦との距離を縮めるべきだ。
「真央と晴ちゃんはね、卒業したらここに住むことになっているの。」
「それは、すごいな…。こんな豪邸に…。でもなんで、、親戚とかなんですか?」
「ううん。ただ、桃子は人が好きなのよ。好きな人達に囲まれて笑っていたい人なの。それだけ。」
「真央と晴はね、赤ちゃんのころからの幼馴染なのー。だから卒業して同棲するつもりだったけど、この近くに住むなら家を出る必要がないじゃん?反対してた親を説得してくれて、この家に下宿させてくれることに桃子さんがしてくれたの♡」
「良い人なんですね、桃子さん。少し、変わってますけど…」
「まぁ、変わってるからこそ、こんな豪邸建てちゃう人なのよね。笑」
「そうですか…。あの、そろそろ帰って夕食を作らないと、両親が共働きなので…。」
やっとこの家の住人がどんな人なのかわかり始めたけれど、両親が帰ったらすぐに夕食を出してあげたいと思うから、小麦は本気で家に帰りたいことを夕に告げた。
「あ、じゃあ!真央が小麦ちゃんちまで送るよ!1人じゃ危ないし!まだ話したいことあるし!」
「駄目よ。それじゃ、真央がここに戻ってくるのが危ないでしょう?私が行くわ。」
「いえ、お構いなく…、本当に急いで帰るので…。じゃ、お邪魔しました。」
会ったばかりの人に迷惑はかけられない。小麦は立ち上がると、半ば強引に真央や夕の制止を振り切り、玄関から逃げ去るように出てしまった。
「あーん、小麦ちゃーん!待ってよー!」
「真央。おせっかいしたいのはわかるけど、今日は諦めなさい。」
「ぶー。わかったよぅ。でもさ、かっこかわいいでしょ、小麦ちゃん。夕さんはどう思った?」
「しっかりしていて素敵な子ね。でも真央?そんなことばかり言ってたら、晴ちゃんに誤解させてしまうかもよ?」
「それは困るー。やばいやばい!晴のご機嫌とってくるね!」
まったくもう。夕はため息を着くと、小麦のことは深く考えずに、家の中に入って真央たちの相手をすることにした。
だから気づかなかったのだ。仕事部屋にいるマチルドとロクサーヌが手足を縛られ、口にはガムテープを貼られていることに。。そして桃子は窓から脱走して、小麦を追いかけていたんだ。。
「待つでござるーっ!ε=ε=ε=ε=\(;´□`)/」カワイコターン!!
続く。
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