第344話 あで?
六浦ひより、4歳の頃…。
「ぎゃぁーーー!びぇぇぇん!!やめろぉぉー!!」
「あと少しっ!あと少しだから!」
デンタルクリニックの治療室に響き渡る、ひよりの断末魔。待合室でその声を聞く母、陽菜子は断腸の思いであった。
(本当にあの子は、歯医者が苦手ね。私がそばにいると余計に暴れるからこうして待合にいるけれど、、我が子ながらひどい鳴き声…。)
陽菜子はお腹が痛くなった。ひよりの心配で胃が痛くなったのかもしれないが、トイレに行こう。そう思い、化粧室へ入った。
するとしばらくして、泣き腫らしたひよりが治療を終えて待合室へと戻ってきたのだ。どうしても大人のスリッパを履くと言って聞かなかったぴよりが歩くと、ペタペタと音がしてうるさい。ペッタンペッタンヨチヨチ
「ぐじゅっ、ぐすっぐすっ…。ママぁ…。あで?ママいなぁい!?」
幼児ひよりは、この頃から足が速かった。そして、短絡的であった。
「ましゃか…ぴーちゃんが泣いたから…ママ帰っちゃったかも!怒ったのかも!しゅてないでっ!!」*ひよりが由奈に捨てられないように必死なのはこういうのがトラウマ。
陽菜子がトイレにいた時間はたった3分。その間に、ひよりはクリニックを飛び出し、ママを探す冒険に繰り出したのだった。
当時の陽菜子はこのときについて語る。あの子はとにかく甘えん坊なんです。大人には知らない人にでも人見知りせず、ついて行ってしまう。だから、迷子になったら、お巡りさんとお店の人に助けを求めなさいと、口を酸っぱくして言ってあったんです…。
1時間後、陽菜子が死物狂いで探した末、ひよりを見つけたのは交番で歯の治療のあとを見せびらかしているところだった。
「いーーーー!ここ。見えた?虫歯だよ!」
「うん。見えたよ〜。で、お母さん探してあげるからお名前教えてくれる?」
「ひより!むちゅうらひよりだよ!ママはひにゃこ!おまありさんが飲んでるのお茶?ひより苦いのも飲めるよ!」*お茶を出せと言っているぴより。
まるで幼稚園の先生かのように、お巡りさんに懐いてくつろいでいた。
「ひよりっ!!居たっ!!」
「あ、ママ!やっぱりひよりのこと、育てる気になったの!?」
「捨ててねーわ。トイレ行ってただけだわ!!人聞き悪いっつーの!!」
「あで???おトイレだったの???なんだ。それならそうと言ってくれないと。。」ヤレヤレダナ‼
そして、現在の陽菜子はこう語る。「あの子は、まるで変わっていないのです。。」
大学の入学式のあと。いくつかの講義説明を見学したひよりは、新しい友達の笑美と、その友達の仁映とで学食に行った。
笑美「ここが学食か。なかなか綺麗なとこだね。」
仁映「そんなにお腹空かないなぁ。サラダとかあるかな?」
ひより「ひよりはお腹空いてる!記念すべき学食の一食目はカツ丼と決めています!」
3人が食券を買い、自分の頼んだランチを受け取ると、空席を探して学食を見渡した。すると、
「おーい、仁映!こっちこっち!」
「あ、先輩!あそこに行こう。」
仁映を呼ぶ声の方を見ると、在学生らしき複数人の男女がいた。ひよりは同世代が苦手だ。特に男とのコミュニケーションはあまり免疫がない。思わず笑美の後ろに隠れるぴよりんちょ。
ひより「あわわ、、え、笑美ちん・・・。」
笑美「ん?大丈夫だよ。私と仁映の高校の先輩らしいから。」
ひより「笑美ちんも知らない人なの??」
笑美「あ、うん・・・。仁映が仲良かった人。」
あうあうと口を動かしながら、ひよりは勇気を出さねばと頑張った。ここでひよったら1人でご飯を食べることになる。大学初日が大事だ。勇気を出して、ハキハキと自己紹介をせねばっ!!
仁映「先輩~。久しぶり~、会いたかったぁ!」
モブ男「仁映~。待ってたぜ。やっと入学してきたか!」
モブ美「仁映!早く座りな!」
仁映「うん。あ、友達紹介するね。こっちが同じ高校の笑美。それとさっき仲良くなったひよりちゃん。」
笑美「こんにちは。よろしくお願いします、先輩。」
モブ美「笑美ちゃんね、よろしく。」
さぁ、来たぞ!!ぴより!かわいいの塊ぴより!今まさに、ステージの中心で名前を叫ぶ時が来たんだ。いけ、いけぇぇぇぇ!!!
ひより「こんにちは!ひよりだよ!六浦ひより!୧(⑉•̀ㅁ•́⑉)૭✧」ペッコリンチョ‼
できた!できたよ!!おっかさんっ!!由奈さんっ!!!
モブ男「おお、かわいい。」
モブ介「え、飛び級で進学してきたの?何歳?」
モブ美「中学生の妹に似てるー!ここ座りな?ひよりちゃん♡」
モブ子「ちっちゃいね。誰かジュース買ってあげなよ。」
ひより「牛乳が好きです!苦いお茶も飲めます!」オトナデスカラ‼
全員「そっかぁ♡」
仁映「テレ〇ビーみたいでしょ♡」
--------------------------------という感じで。
ひより「ひよりは一躍人気者になったのです。」
由奈「ああ、なんだ。マスコット化したってことか。」
ひより「あまりにモテてしまったので、由奈さんにどう話して良いかと、、」
由奈「あ、大丈夫。わかったから。」
ひより「まさか、こんなに激しく抱かれるとは。ベッドが壊れるかと、、」
由奈「ん。自分でもびっくり。」
ひより「ひよりは浮気しないので安心してね。水玉しないでね?」
由奈「・・・疲れたから寝る。。」
ひより「え、まだほとんど話してませんけど?あ、寝てる!?」
続く。
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