第276話 思考も格好も迷路なスコール女

「ぴっぴよぴっぴー、ぴよりーな!っと。でーきた!あったかココアさーん♡」マゼマゼ‼


 学校で突如現れたかわいいがいると噂になっていたぴより。まさかの出来事にガクブルしたけど、家に帰ればすっかり忘れられる性格だった。

 勉強の前に、甘いもの解禁による待望のココアを作っていた。牛乳にココアパウダーを加えて鍋にかけ、スーパーで買ってきたエアホイップを…


「てれれれっててー!ソフトクリーム〜♡」


 ・・・鬼盛りしていた。説明しよう。ひよりが短期ダイエットに成功したのは、由奈がカロリー計算をしていたからだ。ひよりはカロリーのことを考えてはいない。野放しにすればリバウンド確定の思考回路だ。


 あれ?でも待って?ひよりって、由奈に告白するときにも5キロ痩せてなかった??・・・と誰も質問した訳ではないが、ひよりは答えた。


「ん?あのときはねー、恋の力で痩せたんだよ!由奈さんのこと考えてたら、3日間くらいご飯をまともに食べてなかったんだ!あと由奈さんを探して外を走り回ってたから勝手に痩せたの!」


 恋煩いと軽いストーキングで無意識にファスティングしていたらしい…。まぁ、初恋だからね。


 というわけで、由奈に溺愛されているひよりは、あの頃の強フィジカルを発揮したくてもできない。マグカップからはみ出た生クリームに顔面を埋めていた…。モゴゴ…


(幸せ…♡生クリームの海に溺れちゃった♡)


 もごもごと息を止めて生クリームと一体化していると、由奈からメッセージが入った。


 む?ガバッ。口の周りをべったべたにしたまま、ひよりはすぐにスマホを確認した。


「由奈さん♡マイスイートソルト♡テクニシャン♡ソルティ王子♡佐々木甘やかし大臣♡テクニシャン♡ゆなしゃん♡」


 メッセージの内容は、今日の待ち合わせについてだった。


「なになに?駅に18時ね。うふ♡…あれ?愛してるって書いてないな。そういえば最近書いてないなぁ!」


「私も、ア・イ・シ・テ・ル♡…っと。送信。」


 それだけ圧力をかけると、時間まではしっかり勉強しようと机に向かった。由奈からの返事が来ないか10秒に1度、確認しながら。


「あっ!!すごいこと閃いた!」


 何かを閃いたぴよりーな。立ち上がるとそのまま玄関に走り、サンダルで表に出た。どうやら実家に行くつもりらしい。


「そうだそうだ!今まで気が付かなかったよ!その手があったか!」


 ひよりの閃きはあまり良い結果になった例しがないが、実家の玄関に着くと、チャイムを鳴らす。

「ひよりだよー!お母さーん!!陽菜子やーい!」


 ガチャ。すぐにドアが開く。

「あら、ひより。え、なにそれ。痩せた?!」


「うん!痩せたの!ねぇ、おねーちゃんの服って全部持って行ってないよね?」


「え、そうね。愛加さんの単身向けの家に転がり込んでるから。たまに取りに来ているけど…」


「ラッキー!ねぇ、お母さん!おねーちゃんの服でひよりに似合うやつ探して!痩せたから今なら着れる!そしておねーちゃんには絶対に内緒ね、めちゃくちゃ怒ると思うから!」


「なるほど。由奈さんが気に入りそうな大人っぽい感じね?来なさい!」


「さすがお母さん。ひよりの味方♡」


 姉の華恋が出ていってからもそのままにしてある、華恋の部屋に2人で入ると、無断でガサゴソとタンスの服を物色した。身長も体重も、そして胸のサイズもほぼ同じになった今、どの服でもぴったりなはずだ。


「えっと、この時期に着られそうなのは…このへんかしらね。」


「ひより、スカートが良い。」ヌギヌギ…


「あら。いつの間に脱いだの…。本当に痩せたわね。モデルさんみたいよ。モテちゃうわね!」


「聞いてよー。それがさぁ、今日学校でー…………」


 そ、そうだった。学校で注目を浴びてしまったんだった…。そうだ、だからこそひよりは、、おしゃれしなきゃいけないの!カリスマJKとしてっ!そして、由奈さんの妻としてっ!!


「片っ端から着てみるから!どんどん出して!」


 姉の不在を良いことに、目ぼしい服はすべて試着してみたぴよりだった。


「うーん、、大体着てみたけど、、どれが一番良かった??」


「そうねぇ…かわいかったのは…、、あ、それよりひより?今日は由奈さんはまだ帰ってないの?ここにいるって知らせてある??」


「ん?あー、駅で待ち合わせてデートなんだよ♡このまま、おねーちゃんの服を着て出かけ………え、今何時だ?」


「18時、5分ね。」


「あ、あ、ああぁぁっ……………時間過ぎてるぅーーーーーっっっ!!!!たたたたた、大変だぁ!お母さん!もう行くね!離婚の危機だ・・・い、急がねばっ!!」ダダダダダー!!


「あっ、ひより!待ちなさいっ!!アンタ、その格好でいいの!?…ああ、行っちゃった。ま、いいけど。。」


 ひよりは母の声が届かず、慌てて玄関を飛び出した。。スマホは家に置いたままだ。マンションを飛び出してから気づいたが、戻れば更に遅れることになる…。


「くっ、、仕方ない!走っていけば連絡しなくても待っててくれるはずっ!!」


 痩せて身軽になったはずのひよりだが、思うようにいつもの走りができない。ダイエットで体力が落ちているに違いない…とひよりは必死に走った!!


「由奈さんっ!お願い!待っててねー!」ドゥオリャァァシャァァァーーー!!トテテテテー!!


 その頃、駅では………いくら電話をしても繋がらないひよりにメッセージを送りながら、心配している由奈がいた。


「ひより…、、どうしたんだろ…。連絡がつかないときは大抵寝てるんだけど。。帰ったほうがいいかな…。すれ違ったら困るしなぁ。。」


「……さんっ、、ゆな、さんっ……!!」


「……ん?ひより??」キョロキョロ?


 確かに聞こえた、かわいいかわいいひよりの声。いつもなら、どんなに人がいてもひよりの姿は一目で見分けることが出来た。


 だけど、、痩せたばかりで、見慣れない華恋の服を着たひよりは、すぐには見つけられなかった。。そして、がしっ!っと腕を掴まれてようやく、それがひよりだと気づく。


「ご、ごめんなさいっ!遅れちゃって…!」ゼェハァ・・・オエッ


「ひ、ひよりっ!?」


「心配していたの?ごめんなさい…。支度に時間がかかっちゃって!」


「な、なんで、そんな…格好を…!?」


「ああ、由奈さんと…、そう。大好きな貴方と…デートだから、、少し大人っぽすぎたかしら…??」


 ひよりはくるっと回って本日のぴよりコーデを由奈に披露した。かわいいねって言ってくれるに違いないと。そう、姉の、、いつもより少し大人びた、、


「ひ、ひより、、その、臙脂のチェックのスカート、、黄色の横縞のカットソー、、そして、、ブルーの縦縞の…シャツ……。」


 着替えている途中で出てきたひよりは…そう…。歩く迷路みたいになっていた…。色に関して言えば信号機である。なんのまだまだ、、さらに悲劇は続いた。


「で…なんで…サンダルを選んだ…??」


「あっ!しまったー!だから走れなかったのか!!!!!!」


 ひより…恐ろしい格好だよ。。さすがにひどい。。なぜその組み合わせなんだ………。。


 さすがの由奈も、ひよりだからなんでもかわいい♡とはならなかったようだ。


「えへへ。慌ててたからさ!めんごめんごっ!あれ?どちた?なんか、由奈さんが、ガチしょんぼり沈殿丸なんだが…??」


「ひより…、、マフラーの前に、服も買おうね。」


「え、服も??まぁ、この服はおねーちゃんに返さなきゃだからいいけど。。」


「全部、任せて。私が選ぶから。。」


「うん♡貴方色に染めてね♡」


「ありがと。。そうするね…。」


 ええと。まずは…靴だな。う、上着、、私のと交換しとくか・・・。

 早く着替えさせたい由奈と、早く焼き肉が食べたいひよりのデートは、


 続く。




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